来たれ てきすとぽい作家! 800字小説バトル
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茶屋
投稿時刻 : 2014.10.04 13:27
字数 : 800
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茶屋


 その物語がいつから始またのかは誰も知らない。
 少し昔かもしれないし、未来かもしれない。今この瞬間始またのかもしれないし、とくの昔に終わているのだとも聞く。
 その場所もメキシコだたり、駅前広場だたりと噂は様々だ。
 そもそも特定の場所で始またわけではなく複数の場所で同時多発的に始またのだという話もある。
 ともかくどこかで何かの物語が始またらしいのだ。
「それは都市伝説か何かかい?」
 隣に座ている高校生にそう語りかける。
「そんなふうにも取れないことはないですね。でも、そう言い切れるわけでもない」
「だが、ある種の伝播する物語だ。物語が始まる、という物語だ」
「確かに物語についての物語だ。だけど、都市伝説とは言い切れない」
「仰るとおりだ。物語はやはり始まるのかもしれん始まているのかもしれない」
「一説には八百文字の物語だとか。でも必ずしも確実とはいえない」
「何もかもが曖昧だね。泡沫の夢か」
 失礼、と言いながら煙草に火をつける。
「禁煙ですよ」
「いまさらだよ。始またら火はそう簡単に消せない」
「まだ始まてないて説もありますがね」
「始まりのない物語なんてありえるんだろうか?」
「さあ、実験小説には詳しくないもので」
「君は本当に高校生かい?」
「さあ、メタ的に言えばその規定すら、もはや意味が無い」
「メタか、じあ、やぱり始まてるんじないのかね?」
「可能性は可能性であり続けることもありますよ。そもそも何かが始まているにせよそれが物語とは限らない」
 書かれた物語、書かれなかた物語、誰にも読まれることのない物語、噂だけが囁かれる物語。
 これらの物語たちの間にはどんな差異があるのだろうか。
 泡のごとく浮かんでは消えていくのが物語か。
 あるいは、死んだ物語たちの屍の山の上で生存競争を繰り広げていくのが物語か。
 始まり続けて、終わり続けていく物語。
 この八百の文字群で何かの物語は始またのだろうか?
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