【BNSK】品評会 in てきすとぽい season 14
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名探偵上海2 違法捜査ダメ、絶対。
(夏SNOOPY)
投稿時刻 : 2015.09.20 08:09
字数 : 4178
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名探偵上海2 違法捜査ダメ、絶対。
夏SNOOPY


「いい? この「フリーター、家を買う。」って本に書いてある内容、これは、まともな職業に就いていないキモオタの妄想なんだからね! こんなのを気にしちゃ駄目よ!」
「ええー! そうなの?」
「はあー、もういいわ。一応説明してあげる。あのね、世間はまだ、就職氷河期真っ最中なの。たかだか一年、ドカタで頑張って働いたからって、事務に昇進できるわけがないのよ。それに、最近の企業が、ガバガバの経理でいい加減に経営されてるわけがないのよ。全部電子化されて、白日の下に全ての真実が晒されているのよ。作業員の飲むジュースやらの値段まで、たちどころに分かるのが当然なんだからね。お姉さんが当然の真実を教えてあげるわ」
「当然の真実? なんだか寒気がしてきたんだけど」
「そりゃそうよ。恐れおののきなさい。たかが同じ志社大学で新卒でもないアホにどんな仕事が待っているか。第二新卒? そんなの鼻クソにもならないわよ。あー、アホくさ。これからあなたが仕事を手に入れるために、どのぐらいのことをしなくちゃならないか、お姉ちゃんがたっぷり教えてあげる」



 四川織の 労働意欲のない絣お姉ちゃんのための、正しい就職アンド人生講座



 今からバイトの面接を受けます。頭下げてでも何でも受かります。(ここに決まらなかったら飢え死にしてしまうんです、という泣き落としでも可)
 そのバイトを死ぬほどこなします。月に12万は稼げるはず。
 そのまま60まで続けます。初めに決まった仕事はとても貴重なものなので、間違っても三ヶ月でやめてはいけません。ただし、半年やったとか、一年やったとか、そんなことで欲を出さないこと。あなたが欲を掻いても、周囲の人はあなたを動物園の珍獣のようにしか見ません。
(檻で飼われた動物みたいに外の世界のことが分からない奴だと思われる)
 それ以外に道はありません。最初に決まった仕事にしがみつきましょう。もっといい仕事はないかなんて、間違っても思ってはいけません。
 住む場所は一生実家を検討してください。間違えても家賃三万の社宅から引っ越そうなんて思わないでください。え、引っ越したい? 死神ですかあなたは。
 老後は年金でひっそりと暮らします。勿論厚生年金、共済年金なんてものは貰えません。



「……な、何これ」
「そう、これがあなたが見なきゃいけない現実よ」



 そんなことを言われても、絣には信じられなかった。
 いいさ、もう、この「新卒お断り! 落ちこぼれだけを採ります」って企業に応募するから。



「分かった? 分かったら早く履歴書買ってきなさい。書き方はどんなでもいいわ。泣き落としを使うんだから」
「はーい」
 へ。そんなのイヤだよ。絶対就職して妹の鼻を明かしてやる。



 面接会場は、この狭い大阪の中でも特に清閑とした、人の来ない死角ともいえる場所だった。
 なんか、三日たったらわずかにある建物も敷地も、何もかも全て新しくなって
「誰も使っていないので撤去しました」
 といわれそうな、本当のデッドスペースだった。何トンもありそうな巨大なコンテナが何個も積み上げられ、複雑な地形を作っていて、小学生が喜ぶ巨大迷路のような趣を漂わせていた。
 そんなコンテナの箱庭の一角に、二階建て六畳ぐらいの小さいテナント小屋があって、その一階の照明がついていた。これもやっぱりいつの間にかなくなって
「工事の時だけ使うので、もう撤去してありません」
 といわれても仕方ないような造りだった。こんな所で、本当に面接なんて出来るのか? 待合室はどこ? 外で待つの?
 え、もしかして、入り口から延びる十人程度の列は、面接を受ける順番を待っている列だろうか?
「すいません、皆さん面接希望者ですか?」
 人の声一つしない静けさに圧倒されながら、最後尾に待つ真面目そうな若者に聞いてみた。
「ええ、そうですよ」
「ひょええええ!」
 突然何者かの唸り声……いや、叫び声があたりにこだました。思わず列の先に目を凝らす。
 声の主は……あの眼鏡かけた出目金か。気持ち悪い。なんだか知らないが、いかにも神経質そうな容貌である。春だというのに、何であんなコートを羽織っているんだろうか。ギョロッと出た目がきょろきょろあたりを見回している。じっと見ていたら目が合ってしまった。気持ち悪い。男は、自分では我慢できないのか、ゆらゆらと前後に揺れながら、しきりと手を揉んでいる。ありゃ駄目だ、イカレてるよ……。
 テナント小屋の扉が開き、男が出てきた。
「ひゃあああああ! 昨日から草やってねえから禁断症状で死んじまいそうだぜ!」
 おいおい。いいからそのまま死ね。
「大丈夫ですかね、あの人」
「そうですね」
「まあ、大きな声では言えませんが……新卒じゃなくてもいい、なんて言ったら、集まってくるのは前科者か、麻薬の常習犯ぐらいのもんですよ。ここだけの話、私も売人で……どうですか、お一つ」
「い、いりません。私普通の、堅気の人間なので」
「そうですか。残念です」
 私の後ろに並ぶ人は誰もいない。一人ずつ、部屋に入っては出て行く。風が吹いて、コンテナと地面の境目から生えている草が、そよそよとそよぐ。就職できない私たちへの、餞別とでもいうべきか。だが、この中でいったい何人が就職するのだろう。二人。何となくそう思った。次の瞬間、その二人の中に自分が入っているかどうかを考えて、愕然とした。無理だろう。
 もう諦めて早く帰ろうかしら。
 いや、そういうわけにはいかない。妹の織の鼻を明かしてやるんだ。絶対に内定を取る。そのために、ここにやってきたのだ。
 同じ志社大学……確かに、「Fラン並の難度の割に就職はいい」とか、「コネを使って生徒をねじ込む」とか、散々にいわれている。でも、そう馬鹿にしたものでもない。京大や東大を出てホームレスになっている奴だっているんだ。文系学部を出てもシステムエンジニアになっている人もいる。同情を禁じ得ない。まあいい。
 部屋に入る以前から、のべつ幕なし何事か呟いていた奴が、部屋から出てきた。足取りも覚束ないながら、ボツボツ呟きながらどこかへと去っていった。
「所詮こんなのは無理だったんですわ。私の職歴でこんな仕事に受かろうなんて虫が良すぎる。ほんまにアホや俺は。もうどうでもいい。どうでもいい。無理やったんですわ。無理やったんですわ。……」
 ぐっ!
「私は受かる!」
「ん?」
「私は受かる! うおお!」
「なんや、やめときやめとき。滅多なことじゃ通らんよ、ここの面接は……」
「同じ志社舐めんな! 絶対受かってやる!」
「ああ……なんにもいわれへん。こんなところの面接受かるぐらいやったら、うんこでも食ってた方がマシかもしれんな……ふふ……」
「何いってるんです! あなたのやる気がないから落ちたんでしょう!」
「違うで、ワシはただ……」
「聞く耳持ちませんから! さよなら!」
 長かった列は半分になった。もう、どんなことがあっても驚かない。何を訊ねられても、動じない。絶対だ。弁論術には自信がある。必ず勝つ!



 中に入ると、まるで刑務所のような……いや、みどりの窓口のような構造で、マジックミラーの、こちらから見えないボックスに人が入っているらしく、女性の声だけが聞こえた。
「いらっしゃいませー。お待たせしました、大林建設です。本日はどのようなご用件でいらっしゃいましたか?」
 え? 面接でしょ。もちろん面接を受けるためだよな。
「面接を受けるためです」
「そうですか……では、あなたはこの会社のために何が出来ますか?」
「え、ええと……未熟者だけど、それでも精一杯努力して、この会社をよくすることに貢献したいと思っています」
「そうですか……それでは、あなたはこの会社のために、どれほどまで努力が出来ますか?」
「ええと……出来る限りのことは致したいと思っております」
「ほう、では……具体的に言って、あなたはこの会社で何かミスをしたら、土下座できますか?」
 ゲッ。ま、まあ、そのぐらいならできる!
「はい、できます」
「はい。では、この場で土下座してみてください。できますよね?」
 え? い、今?
「はい」
 この通りだ。私の誠実な気持ち、会社に通じてくれ!
「では、次です……」



「あなたは会社のために、ウンコを食べられますか?」
「え?」
「ウンコです。食べられますか?」
「無理です! 失礼しました!」



「フン、ゴミが……使い物にならぬわ。誰もお前らのことなど求めていないと弁えろ。フッ……。いいなりにならない社員などゴミ以下の存在価値しかないのだ。ひたすら従順、追従する社員以外は必要ではない。その上残業は百時間でも耐えられるような社員、それこそ理想の社員なのだ。頭を使って考えるような奴は必要ないんだ! くたばれゴミ共が!」



「では四川警部、事件の概要を説明してください!」
「先日私の家で、ボヤ騒ぎがあった……ほ、本当に事件なのか? これは……事故じゃないのか?」
「そうでーす。なぜなら、仕事がなさすぎる絣お嬢様は、何もかも破滅して失えば開き直れる、と思っているから! 立派な動機です! 絣お嬢様は、投げやりになっていたのよ! そして、LINEで犯行予告を繰り返していたから! 駄目ですねー誰も見てないと思って犯行予告しちゃ! 犯人は四川絣、あなただー!」(ビシッ!)
「ふ、ふん。動機だけで、状況証拠と犯人の自白以外に証拠もないんじゃ、探偵の名折れよね」
「そんなことない! 大体名探偵コナンでも、江戸川乱歩ですら、証拠とトリックに凝るあまり、動機はおろそかになる。だが、私はそうじゃない! 動機こそが推理の神髄!(ビシビシッ!)そして証拠はこれ! 四川警部の家に仕掛けた、沢山の盗聴器を使っての録音!」
「な、なんですって! いつの間に!」
「知り合いの家に盗聴器を仕掛けるぐらい、今時当たり前よね!」
「そ、そんなことをしたら……」
「それからこれ、北京、言われちゃう前に早く!」
「はいお嬢様。僭越ながら申し上げます。このようなことをしていると、法に触れてしまいます。違法行為はおやめくださいませ」
「何いってるのよ北京、もう触れてるわよ! なんちゃって! みんな、聞いてる? 法律違反は駄目よ、絶対! 真似しちゃ厭よ!」



「こうなったら……逆にプライバシー侵害で訴える!」
「無理よ、なぜって、今日本では司法取引がある! そんな物じゃ私は捕まらない!」
「十兆円でよろしいでしょうか」
「十分よ!」
「そ、そんな~!」



 めでたしめでたし 完
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