来たれ てきすとぽい作家! 800字小説バトル
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サクリファイス・ミー
muomuo
投稿時刻 : 2014.10.23 03:49
字数 : 800
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サクリファイス・ミー
muomuo


「佐和子、なにしてるの起きなさい!」
 ふいに布団をはぎ取られ、朝の冷気が襲てきた。
「髪、凄いわよ? そんなんじどうせ、お風呂に入てから行くんでし?」
 ……生きている。おばさんの声が頭に響いてつらいのは、たぶん低血圧のためだ。それ以外は何の支障もない。
「ひどい顔ね……。早く洗てきなさいよ」
 母親の顔をしているおばさんは、なんだか別人だ。でも間違いなくそれ以上に……いま僕は、本当に別人の顔になている。佐和ちんの顔。少なくとも学年で一番の美少女の、泣き腫らした寝ぼけ顔だ。普通、男子には絶対に見せない顔だろう。正直、それが見てみたくて何とか起きられた。低血圧の体が想像以上に重い。そして洗面所に着いて……気づく。お風呂て、顔どころの話じないじないか!

    ◆

 勇者の末裔である僕が命を賭して魔王を滅ぼし、駅前広場の戦いは終わた。高名な霊媒師の家系である佐和ちんが僕のご先祖を召喚して、禁断の魔法を特訓したんだ。偉大な勇者の助言を得たとはいえ、たた二人の高校生が世界を救たなんて誰も信じないだろう。……でも僕に信じられなかたのは、召喚した魂に体を譲り渡すという奥義を佐和ちんが使たことだた。
……たかい」
 佐和ちんの体で浸かる僕……佐和ちんは何もかも見通していたはずだ。すべてを僕に知られ、見られてしまうということ。家族を、未来を、すべてを擲ち譲り渡す意味……。そう思うと変な気持ちもすぐにどこかへ消えていた。もう男ではなくなたせいかもしれない。
『もしこの一年のうちにまた何か起きたら、この手紙を読んでね』
 最初はなぜ僕に託すのか分からなかた。託すなら僕のほうじないかて。
「大丈夫、雄一くんは死んだりしないから……か」
 佐和ちんの声。気休めだたら誰でも言えるけど、佐和ちんは違た。
……さよなら、佐和ちん」
 そのとき漸く涙が溢れてきて、すぐに湯船に消えた。

                         <了>
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