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投稿時刻 : 2013.01.18 23:21
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ヘリベマルヲ


 あたしの彼氏になりたい、あんたが? 本気でいてんの? だたらテスト受けなさいよ。と大富豪の娘であるところの彼女は言た。超絶美少女、高嶺の花で知られるあの彼女だ。て、て、て、テストて? と例によておれはどもた。好きだからつきあてくれと言たときにはどもらなかた。息継ぎせずに一気に言たからだ。もちろん練習の成果だ。ひと晩練習した。おれがひと晩というからには文字どおりの意味だ。つまり朝までだ。だから寝不足だ。放課後に彼女をつかまえて体育館の裏までひていて言い終えたときには全体力を使い果たしていた。どもたにせよテストて? と聞き返せたおれは偉い。とても偉いと思う。だから全体力を使い果たした上にテストて? と間抜けな問いを発したおれが卒倒したとしても不思議ではないしだれもおれを責められまい。
 気づいたときには白い病室だた。壁も天井もベドもシーツも、どこもかしこも白い窓のない病室だた。点滴を打たれていた。しかしそうした一切はあとで気づいた。最初に視界に入たのは点滴でもなく天井でもなく彼女のドアプだた。べつに唇が迫ていたとかそういう展開ではない。醜い実験動物を観察するように、彼女は眉根を寄せておれをのぞきこんでいた。テスト? とおれは訊いた。かすれた声だたが彼女には聞こえたようだ。テストよ。と何事もなかたかのように彼女は答えた。まるでおれがどもたあの直後に何事もなくその答えを続けたかのようだた。何をすればいい、とおれは尋ねた。というか尋ねるつもりだたが言い終える前に筆ペンを握らされた。届いた年賀状にあわてて返事をだそうと引き出しからひぱりだしたらインクが切れていて慌ててコンビニに走る、あのときにしか必要性を感じないあのペンだ。
 その筆ペンを握らせて彼女は要求した。一時間やるから書きなさいよ、と。すべて言葉で埋めつくしたら認めてあげる。どこを? とおれは尋ねた。そのころにはすでにそこがただの病室ではないことに気づいていた。彼女は白いワンピースをするりと床へ脱ぎ落とした。下には何も着ていなかた。滑らかな白い肌にはあちらこちらに蛇のような刺青があた。よく見るとそれはすべて文字だた。これはこれまでの落選作よと彼女はいた。あなたはもとましな小説を書いてあたしを楽しませてくれるわよね? と彼女はいた。下書きに一時間。十五分でそれを刺青に刻むわと彼女はいた。合格しなかたやつら、選ばれなかたやつらはどうなたんだい? とおれは尋ねた。知たことじないわと彼女は答えた。
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