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第26回てきすとぽい杯 誤字修正版投稿所
〔 作品1 〕
それって地球何個分?
(
朝比奈 和咲
)
投稿時刻 : 2015.04.12 10:34
字数 : 2339
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それって地球何個分?
朝比奈 和咲
「東京の人
っ
て、東京ドー
ムが好きなんですか?」
三日ぶりに家へや
っ
て来た春香に、背後から藍香はいきなり言われ、キー
ボー
ドを打つ手を止めて振り向いた。振り向くと高校のセー
ラー
服姿で部屋のドア前に春香がいた。
藍香はアメリカで生まれ六年前に日本に来たため、生粋の日本人とは言い難い。さらに日本に来てから神奈川県で暮らしているため、東京タワー
も東京ドー
ムも一度しか見たことがない。
確かに母と二人で日本に住み始めたとき、東京ドー
ム何個分とか、プー
ル何杯分の何とか、レモン百個分のビタミンCとか、そういう倍々的な表現を目にはしていたが、別に気にすることはなか
っ
た。それよりも、マイクロとかナノよりもも
っ
と微細な量子の世界の方が藍香には興味があり、今もこうして学校を三日ほどずる休みしてパソコンに向か
っ
て実験結果を眺めていた。
「それは、東京ドー
ム何個分とかよくマスコミが使うからとか?」
「そう! 伊賀ではそういうの全く聞かなか
っ
たのに、関東に引
っ
越してきてからというもの、忘れたころに東京ドー
ム何個分ですよ!? しかもだー
れも不思議に思わないで納得していますし、だから、みんな東京ドー
ム一個分の分量を知
っ
ているのかなあ、
っ
て。そんなに好きなのか、と」
「好きだから
っ
て、東京ドー
ムのことを全て知
っ
ているわけじ
ゃ
ないでし
ょ
うが」
「えー
、そんなことないですよ。だ
っ
て私、彼氏の身長体重から足のサイズに足音まで分かりますし」
屈託のない笑顔で言う春香に対し、「あのねえ」と藍香は言葉を濁した。
「でも、どうして私に聞くのよ、そんなこと」
「ええ、だ
っ
てアイち
ゃ
んす
っ
ごく物知りじ
ゃ
ないですかあ」
私はそんな物知りじ
ゃ
ないよ、と藍香は溜息をつくと、インター
ホンが鳴
っ
た。藍香は椅子から立ち上がり電話機があるところへ向かおうとすると、春香が言
っ
た。
「夢人くんですよ。間違いなく」
「どうして分かるのよ」
藍香は目を細めて睨むと、鼻を鳴らして春香は言
っ
た。
「足音で、分かります」
「嘘つくな。春香の彼氏は夢人じ
ゃ
ないでし
ょ
」
「ご名答」と春香が言い、続けてい
っ
た。
「本当を言うと、この家にアポなしで訪れる人
っ
てい
っ
たら、私と夢人くんぐらいしかいないです」
藍香は返答せず、「どいて」と春香を押しのけて部屋から出ると、階段を下りて玄関へ向か
っ
た。
その後ろを春香が着いて行くと、なんとなしにこう言
っ
た。
「ほらあ、三日も学校来ないと心配なんですよ、夢人くんも。いくら好きなことだから
っ
て家に引き籠
っ
てば
っ
かじ
ゃ
だめですよ」
「う
っ
さいなあ。別にいいじ
ゃ
ないの」
「今日はこのまま私帰りますから、夢人くんとそのまま外に出て散歩でもした方がいいですよ。三日も外出しないと、筋肉がみるみる痩せてい
っ
て、その綺麗な足が鳥の骨にな
っ
ち
ゃ
いますからね」
「知
っ
たかしないでほしいね。足が鳥の骨になるのは運動不足よりも栄養失調の方が原因率として高いし、外に出なくても家の中歩いているだけで若いうちは十分なカロリー
を消費できるんだよ。太る理由は暴飲暴食によるカロリー
過剰摂取だし、は
っ
きし言
っ
て学校に毎日行くほうが太るよ。ストレス過剰による暴食で」
「へえ!? い
っ
つもカ
ッ
プラー
メンしか食べないアイち
ゃ
んが暴食するんですか? どれだけのカ
ッ
プラー
メンを食べるんですか? 東京ドー
ム何杯分? それとも地球何個分?」
その春香の悪気のない言葉に藍香は舌打ちだけで反応すると、玄関に辿り着いた藍香はサンダルも履かずに土間を歩きドアを開けた。
外には自分より背の低い夢人が自信なさそうにして立
っ
ていた。「やあ」
夢人は挨拶と同時に手を上げつつも、笑顔は引きつ
っ
ていた。藍香はそれを見ると「どりあえず、上がれば」とだけ言い玄関へ入れた。
すると、それと入れ違うかのように春香がするする
っ
と出ていこうとした。夢人は、どうして春香がいたの、というふうに不思議そうな顔をして、藍香はそそくさと逃げるように帰ろうとする春香を引き止めようとした。
「いやあ、お邪魔しても悪いですし、私もこれからデー
トですし」
にへらにへらと笑う春香の言葉に藍香は「ふざけんな」と言い、どうして私の家に急に来たのかを尋ねた。
「彼との待ち合わせまでに少し時間が余
っ
たので、アイち
ゃ
ん元気かなあ、
っ
てそれだけです」
その言葉に睨む藍香に対し、夢人がまあまあ、と宥めようとした。
「その、春さんも心配だ
っ
たんだよ」
その言葉に春香は何度も頷いた。バツが悪くな
っ
た藍香は「ああ、そう」と言うと、急に夢人にいじわるしてやろうと思
っ
た。
「どんぐらい心配だ
っ
たのよ? ええ? 地球何個分ぐらい?」
突然の質問に驚いた夢人に対し、春香が大笑いして、「時間に遅れるといけないので」とだけ言うと、ささくそと去
っ
て行
っ
てしま
っ
た。
夢人は急にどうしてそんな質問がきたのかわからず、とりあえず、「二個分ぐらい」とだけ答えた。
「ふー
ん。た
っ
た、二個分なんだ。そのくらいなんだ、へー
」
「いや、じ
ゃ
あ、も
っ
と」
「いいよ、別に。二個分かあ、そ
っ
かあ」
藍香も地球二個分がどのくらいなのかさ
っ
ぱり見当はつかないが、それでも一個ではなか
っ
たことに少し嬉しさを感じていた。
「でも、どのくらい好きなの
っ
て訊かれたら、たぶん答えられなか
っ
たと思う」
その夢人の突然の言葉に、藍香は自分の顔が真
っ
赤にな
っ
ていくのを感じた。
とてつもなく頬が熱くなるのが自分でも分かると、急にここに居られなくなり、と
っ
さにこう言
っ
た。
「散歩行こう。なんか風に当たりたい」
「うん。どこ行く?」
「いや、いま、夢人は来ないでほしい」
「どうして!?」
どうしてもこうしてもない。三日ぶりに外に出た藍香は、季節は春先でありながら二月中旬の寒さであるにもかかわらず、この冷たい風がいまは非常に心地よいのであ
っ
た。
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