加工屋の僕と父さんの話
やあ、工房エリアにようこそ。
今日は僕の仕事と父さんの話をしたいから、よければ聞いてい
ってくれ。
君は何期団だい? 青い星には会ったかい? ……え? そんな事より僕のことかい?
何から話せばいいかな。加工屋ってどんな仕事かは説明するまでもないよね。だけど最初に断っておかなきゃならないのは、いつもカウンターにいる親父さんやセリエナのお弟子さんが僕とは格の違う存在だって事。素材とお金さえ持ってくればみんな気楽に加工してもらえると思ってるけど、実は作る側はそんなに甘くないんだ。
それじゃどうして僕が、こうして君とカウンター越しに話してるんだって?
もちろん、それは店番を任されたから。普段はどこにいるかって、今度通りかかった時によーく見て欲しい。毎日カマドの前で相槌を打ったり薪をくべてるのが僕さ。そう、上半身裸でね。
あ、そう言えば今君がしてくれたけど、あいづちを打つって僕たちの仕事から来てるんだよ? 大きな槌で熱くなった素材を叩くのが親方。それに併せて小さめの槌で補助をするのも僕の仕事ってわけ。
僕の父さんは1期団で少しだけ加工をしていたけど、2期団が来てすぐに今の親方に交代した。あの人は本当にすごくって、竜人族にも一目置かれてるんだ。
でも、僕の父さんは違った。1期団は伝説的な人達の集まりだけど、人手が足りなかった時になんとか入団できて、それなりの腕もあったけどクシャルダオラに、ね……。
歳も歳だし、連れてきた僕に色々と引き継がせたかったみたいだけど、2期団が来てそれも諦めた。親方はああ見えて素材や加工法に詳しくて、技術も超一流だ。父さんも痛めた腕で何とか仕事を続けていたけど、あの人が来てすぐに工房を明け渡したよ。そうして僕はずっと下働き。
ああ、だけど別に後悔なんかはしていないよ? 5期団の活躍をこんなに近くで見る事もできたし、3期団や4期団の狩ったモンスターも素材も目にする事ができたしね。
君はまだ若いから分からないかもしれないけど、世の中ってそんなに花形の仕事ばかりじゃなくて、それを支える仕事がたくさんあるんだ。そしてそれを支える仕事をまた支える人がいて――、そう、つまり僕はそういう立場で満足してるんだ。
あれ? 今、君は僕の事をちょっと情けないやつって思ったね? 加工屋にすらなれないのに、何をそんなに偉そうにって顔してるよ、君。だけど――、
まあいいや。とにかく座りなよ、武器や防具の事なら多少は詳しいんだから。
そうだな、父さんの話は後にして、まずはこの武器を見て欲しい。
なんだか分かるかい? この曲線美、光り輝く羽根飾りのような鍔、これが冥灯龍の素材から削り出した片手剣、ゼノ=マーブラーだ。
おっと、手を触れないでくれよ? 僕がいくら口が上手いって言ってもこれに妙な汚れでもつけたら親方だって笑ってはくれない。注文したハンターさんから珍しく預かってるだけで、僕だって滅多な事で触れるものじゃないんだ。この間は薪や炭を仕入れに来ていた船長さんにものすごい値段で譲ってくれって言われたけど、親方が怒鳴りつけて追い散らしたくらいだ。
それに冥灯龍に関してはちょっと僕も思い入れがあってね? 実はアイツが生まれる前に少しだけ姿を目にした事があるんだよ。――あれは3期団、いや4期だったかな? 父さんのケガがもう少しよくならないかって思って僕は新鮮な薬草とヒンヤリダケを取りに行った時、火山地帯の裂け目から水晶のようなものを見たんだ。
いや、本当だよ? みんなは見間違いだって言うけど、あれが地脈の収束地だったんだよ! 僕はそう信じてる。でも家に帰ると父さんは「どうせ治らないんだ! そんな事で油売ってるヒマがあったら槌でも手入れしてこい!」なんてさ、まったく顔さえ見れば、槌の手入れだ素材の勉強だ、って。
そりゃ、僕だって自分で打った武器や防具をカウンターでハンター達に見せつけたいさ。そう思う事だってあるよ。だけど親方には敵わないんだ。もう僕だってここに来て40年も経ってる。自分の身の程ってのが分かる歳なんだよ。
ああ、またそんな顔をする。
いいかい? 全員が一流のハンターになれないのと同じように、全員が一流の加工屋になんかなれないんだよ。親方だって機嫌が悪ければ僕に怒鳴ったり、セリエナの弟子を殴りつけたりもする。だけどあの人は、そのあとちゃんと酒を飲ませてくれたり父さんの身体を気遣ってくれたりもするんだ。口には出さないけど僕達が助けになってるって思っててくれてるんだよ、きっと。
それなのに父さんときたら……、
大体、親方も父さんも無口過ぎるんだよね。研究班のリーダーを見習って欲しいよ。
父さんは毎日何をしてるかって?
まあ、簡単に言ったら御用聞きだね。歳だし、毎日じゃないけど。研究基地に加工屋のお使いがいるだろ? その内アイツが父さんの代りになるんじゃないかと思うけど、昔のツテで色々な物の仕入れを手伝ったりしてるよ。工房ってのはモンスターの素材以外にも色々なものがいるからさ。僕達の食事だってあるし。
それから家で加工の手引き書みたいなものを読んだり書いたり――、まあそれも青い星の相棒にはとても敵わないレベルで、覚え書きみたいなものだけどね。
ああ、僕も一度でいいからゼノシリーズの防具を自分で打ってみたいなあ……。
そうだ、工房の中、見てみるかい? え、遠慮しとく?
もっとおもしろい話はないのかって? 僕さ、ゼノジーヴァが現れた時にピンと来たんだよ、あの時に見た水晶みたいなものは絶対に巣の一部だったんだって。
だけど誰も信じてくれない。父さんはそんなことどうだっていいって言うんだ。
もっと勉強をしろ、もっと技術を磨け、体を鍛えて工具の手入れをしろ、毎日毎日毎日、顔を見ればそればっかりだ。故郷に残してきた母さんの話だって、するのはアステラ祭の時くらいだよ。
だけどもう、歯が弱くなって背も縮んで来てるからね。
この間はとうとう言い返してやったんだよ。「そんなに言うなら父さんだってもっと勉強しておけば親方でいられたんじゃないか!」ってね。
そしたら父さん黙っちゃってさ、昔だったら殴られたかもしれないけど、今は俺が面倒見てるんだしそれくらい言ったっていいだろう?
……え? そういう話は聞きたくない? なんか嫌な顔したけど。
違う? そういうわけでもないって?
ああ、まったくため息が出るな。
僕さ、大冒険だったと思うんだよ。そりゃ僕はハンターになんか逆立ちしたってなれないし、アプトノスの子供だって狩れないよ。草食獣だって危ないんだぜ? 頭突きだってすごいし、尻尾が当たれば肋骨くらい簡単に折れるしさ。だけどどうしても新鮮なヒンヤリダケを試してみたかったんだよ。加工屋の下っ端だって薬草くらい採りに行ってもいいだろう? 安全なルートも時間も調べて、群生地もしっかり聞いて、それでなんとか一度くらいは行商のしなびた安い素材じゃなくて自分で手に入れた素材で作った塗り薬を父さんに試して欲しかったんだよ!
それなのに父さんは、父さんはさ……!
何がおかしいんだよ! どうせ君も下っ端の人生なんてつまらないって思