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〔 作品1 〕
加工屋の僕と父さんの話
投稿時刻 : 2020.10.05 00:25 最終更新 : 2020.10.05 00:37
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更新履歴
- 2020/10/05 00:37:56
- 2020/10/05 00:25:52
加工屋の僕と父さんの話
ゲームスキー


 やあ、工房エリアにようこそ。
今日は僕の仕事と父さんの話をしたいから、よければ聞いていてくれ。
 君は何期団だい? 青い星には会たかい? ……え? そんな事より僕のことかい?
何から話せばいいかな。加工屋てどんな仕事かは説明するまでもないよね。だけど最初に断ておかなきならないのは、いつもカウンターにいる親父さんやセリエナのお弟子さんが僕とは格の違う存在だて事。素材とお金さえ持てくればみんな気楽に加工してもらえると思てるけど、実は作る側はそんなに甘くないんだ。
 それじどうして僕が、こうして君とカウンター越しに話してるんだて?
もちろん、それは店番を任されたから。普段はどこにいるかて、今度通りかかた時によーく見て欲しい。毎日カマドの前で相槌を打たり薪をくべてるのが僕さ。そう、上半身裸でね。
 あ、そう言えば今君がしてくれたけど、あいづちを打つて僕たちの仕事から来てるんだよ? 大きな槌で熱くなた素材を叩くのが親方。それに併せて小さめの槌で補助をするのも僕の仕事てわけ。

 僕の父さんは1期団で少しだけ加工をしていたけど、2期団が来てすぐに今の親方に交代した。あの人は本当にすごくて、竜人族にも一目置かれてるんだ。
 でも、僕の父さんは違た。1期団は伝説的な人達の集まりだけど、人手が足りなかた時になんとか入団できて、それなりの腕もあたけどクシルダオラに、ね……
 歳も歳だし、連れてきた僕に色々と引き継がせたかたみたいだけど、2期団が来てそれも諦めた。親方はああ見えて素材や加工法に詳しくて、技術も超一流だ。父さんも痛めた腕で何とか仕事を続けていたけど、あの人が来てすぐに工房を明け渡したよ。そうして僕はずと下働き。
 ああ、だけど別に後悔なんかはしていないよ? 5期団の活躍をこんなに近くで見る事もできたし、3期団や4期団の狩たモンスターも素材も目にする事ができたしね。
 君はまだ若いから分からないかもしれないけど、世の中てそんなに花形の仕事ばかりじなくて、それを支える仕事がたくさんあるんだ。そしてそれを支える仕事をまた支える人がいて――、そう、つまり僕はそういう立場で満足してるんだ。
 あれ? 今、君は僕の事をちと情けないやつて思たね? 加工屋にすらなれないのに、何をそんなに偉そうにて顔してるよ、君。だけど――
 まあいいや。とにかく座りなよ、武器や防具の事なら多少は詳しいんだから。

 そうだな、父さんの話は後にして、まずはこの武器を見て欲しい。
なんだか分かるかい? この曲線美、光り輝く羽根飾りのような鍔、これが冥灯龍の素材から削り出した片手剣、ゼノ=マーブラーだ。
 おと、手を触れないでくれよ? 僕がいくら口が上手いて言てもこれに妙な汚れでもつけたら親方だて笑てはくれない。注文したハンターさんから珍しく預かてるだけで、僕だて滅多な事で触れるものじないんだ。この間は薪や炭を仕入れに来ていた船長さんにものすごい値段で譲てくれて言われたけど、親方が怒鳴りつけて追い散らしたくらいだ。
 それに冥灯龍に関してはちと僕も思い入れがあてね? 実はアイツが生まれる前に少しだけ姿を目にした事があるんだよ。――あれは3期団、いや4期だたかな? 父さんのケガがもう少しよくならないかて思て僕は新鮮な薬草とヒンヤリダケを取りに行た時、火山地帯の裂け目から水晶のようなものを見たんだ。
 いや、本当だよ? みんなは見間違いだて言うけど、あれが地脈の収束地だたんだよ! 僕はそう信じてる。でも家に帰ると父さんは「どうせ治らないんだ! そんな事で油売てるヒマがあたら槌でも手入れしてこい!」なんてさ、またく顔さえ見れば、槌の手入れだ素材の勉強だ、て。
 そり、僕だて自分で打た武器や防具をカウンターでハンター達に見せつけたいさ。そう思う事だてあるよ。だけど親方には敵わないんだ。もう僕だてここに来て40年も経てる。自分の身の程てのが分かる歳なんだよ。
 ああ、またそんな顔をする。
いいかい? 全員が一流のハンターになれないのと同じように、全員が一流の加工屋になんかなれないんだよ。親方だて機嫌が悪ければ僕に怒鳴たり、セリエナの弟子を殴りつけたりもする。だけどあの人は、そのあとちんと酒を飲ませてくれたり父さんの身体を気遣てくれたりもするんだ。口には出さないけど僕達が助けになてるて思ててくれてるんだよ、きと。
 それなのに父さんときたら……
大体、親方も父さんも無口過ぎるんだよね。研究班のリーダーを見習て欲しいよ。

 父さんは毎日何をしてるかて?
まあ、簡単に言たら御用聞きだね。歳だし、毎日じないけど。研究基地に加工屋のお使いがいるだろ? その内アイツが父さんの代りになるんじないかと思うけど、昔のツテで色々な物の仕入れを手伝たりしてるよ。工房てのはモンスターの素材以外にも色々なものがいるからさ。僕達の食事だてあるし。
 それから家で加工の手引き書みたいなものを読んだり書いたり――、まあそれも青い星の相棒にはとても敵わないレベルで、覚え書きみたいなものだけどね。
 ああ、僕も一度でいいからゼノシリーズの防具を自分で打てみたいなあ……

 そうだ、工房の中、見てみるかい? え、遠慮しとく?
とおもしろい話はないのかて? 僕さ、ゼノジーが現れた時にピンと来たんだよ、あの時に見た水晶みたいなものは絶対に巣の一部だたんだて。
 だけど誰も信じてくれない。父さんはそんなことどうだていいて言うんだ。
と勉強をしろ、もと技術を磨け、体を鍛えて工具の手入れをしろ、毎日毎日毎日、顔を見ればそればかりだ。故郷に残してきた母さんの話だて、するのはアステラ祭の時くらいだよ。
 だけどもう、歯が弱くなて背も縮んで来てるからね。
この間はとうとう言い返してやたんだよ。「そんなに言うなら父さんだてもと勉強しておけば親方でいられたんじないか!」てね。
 そしたら父さん黙てさ、昔だたら殴られたかもしれないけど、今は俺が面倒見てるんだしそれくらい言ていいだろう?
 ……え? そういう話は聞きたくない? なんか嫌な顔したけど。
違う? そういうわけでもないて?
 ああ、またくため息が出るな。
僕さ、大冒険だたと思うんだよ。そり僕はハンターになんか逆立ちしたてなれないし、アプトノスの子供だて狩れないよ。草食獣だて危ないんだぜ? 頭突きだてすごいし、尻尾が当たれば肋骨くらい簡単に折れるしさ。だけどどうしても新鮮なヒンヤリダケを試してみたかたんだよ。加工屋の下端だて薬草くらい採りに行てもいいだろう? 安全なルートも時間も調べて、群生地もしかり聞いて、それでなんとか一度くらいは行商のしなびた安い素材じなくて自分で手に入れた素材で作た塗り薬を父さんに試して欲しかたんだよ!

 それなのに父さんは、父さんはさ……

何がおかしいんだよ! どうせ君も下端の人生なんてつまらないて思てるんじないのか?
 薬草やキノコなんてアイルー族だて収穫してこれるて言いたいのかい?! それとも研究所から分けてもらえばいいて? ここの生活はそんなに甘くなんてないんだよ! あの研究所はハンターのためのもので、僕みたいな加工屋の下働きに譲てくれるものなんか栽培してないんだ!
 新鮮な素材は高いし、僕の給料じ父さんを食べさせていくだけで精一杯なんだよ!!
ちくしう、僕は一体なんだてこんなに役立たずなのにこんな島に連れて来られたんだ!!

  ***********

 そう言て加工屋は両手を振り上げ、カウンターに叩きつけるように振り下ろしてからその手を止め、がくりと項垂れてから店の奥へとゆくり踝を返した。
 旅行者である君が笑たのは、加工屋の中年を見下していた訳ではなかた。奥の竈の前で背を向けた男はつまらない話をしてすまないと呟き、それきりこちらに顔は見せない。
 ミラボレアス亡き今、アステラへの交易船は時折君のような旅行者を受け入れていたが、その全てが裕福な旅人ばかりではない。老いた祖父母の愚痴に嫌気がさした君は、学業を勧める親に言い返す事すら出来ずに家を飛び出し、逃げるように船に乗たのだ。

 アステラや世界を救た調査団達の世界は狭く雑然としていたが、それでも君の眼には活発な生命に満ち溢れていた。煌々と炎を燈す竈の前で加工屋は動かなかたが、君に掛けられる言葉はない。
 だがしばらく立ち尽くしているとやがて男は工房の奥へ消え、やがて彼らが現れた。
雀斑に望遠ゴーグルの似合う、脇に厚手の書物を抱えた騒がしい女と見るからに熟練のハンターだ。
 君は彼らに声を掛けられ、仕方なく店でのやり取りを話して聞かせた。
ハンターは何も言わずに話を聞いていたが、ゴーグルの女はすぐに名案が浮かんだようで書付を二通用意すると一通をお供のアイルー族に渡す。

 それから程なくして店のカウンターに大量の茸と薬草が積まれ、ハンター達は笑いながら手を振ると君に書付を渡して欲しいと頼んで去て行た。薬草の脇には水晶の様に輝く冥灯龍の幽鱗が、一枚。
 女が短くハンターと言葉を交わして書き付けられた言葉はこうだ。

 ありがとう。
貴方も世界を救た調査団の大切な仲間の一人です。

 君は笑顔で鋼鉄のコンベアの上に積まれた薬草と茸を見ながら、店の奥に声を掛けた。

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