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「覆面作家」小説バトルロイヤル!
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妻と僕と妹と
 投稿時刻 : 2017.06.08 03:24 最終更新 : 2017.06.08 03:34
 字数 : 5238
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更新履歴
- 2017.06.08 03:34:09
- 2017.06.08 03:24:43
妻と僕と妹と
ぴりからっと


 お題:不倫/懊悩


「同居中の妻以外の女性と契りを結ぶのは果たして不倫だろうか」

 鬼の目をした妻を前に、震えながら口に出したのだが、どうやら火に油を注いだようだ。思いきりぶん殴られた。
 痛い。
 本気なんだもん。このひと。
 痛む頰を手で押さえながら、僕は次なる言い訳を考えることにしたわけである。


 ことの発端は、言い始めるとキリがないのだが、とにかく僕らはこの部屋から出るわけにはいかない。これには深い事情があるのだが、こんなアパートの一室。自慢ではないが、妻は美人だ。いや、美人というか美少女レベルでロリータなのだが、それを口にしようものなら、鬼の首を取たかのごとく。事態は修羅場と化すものだから、なるべくここでも『妻は高身長モデル体系でボンキボンのきつめ美人』と表記することにする。
 ともかく、そんな『美人妻』の妹となると、そりあもう、ふたりが並んでいる姿はとんでもない百合色で、男からするとウハウハじないですかあ。最高だぜ! ヒ
 と、思ていたところに、妹さんときたらとても大胆♡  僕は決してイケメンでもないし、女性の心を鷲掴みにするほどの甲斐性もないわけで、そんなどこにでもいるようなおさんに訪れた試練。
「おにいちんすき」
「ウウ!」
「ちしてち
「はわわわ」
 ち
 僕らは、アパートの一室にいる。キチン、トイレ、バスは別ではあるけど、リビングはひとつしかない。布団はシングルをふたつ並べて、真ん中に僕、両脇に妻と妹さん。まあ、僕は妻と同じ布団で身を寄せ合て きわわするわけだけど、それはそうとして。妹さんの『すき♡』も『ち』も当然、隣に妻がいるわけでして。何が言いたいかというと、
『あんたら、なにしてるわけ?』
 そして、冒頭に戻る。


「落ち着いて考えよう! そもそも、見てたじん!? 唇にしてないじん!? 額にちだよ、ち。なんも不倫じないから!」
 殴られる。
「あ、もしかして奥さん……嫉妬てやつですか」
 この後、無茶苦茶に殴られた。


 僕は知ている。妹さんが、実は妻の娘だということを。表記上、『妹さん』とさせていただくが、実は妹ではない。これにも深い事情があるわけだけど、とにかく妻が産んだ娘であるのは間違いない。
 ふたりは幼い頃から両親から虐待を受けて育ち、妻は解離性同一性人格障害。つまり、多重人格を患い、妹さんはよくわからないけど、家から一歩も外に出されない生活を何十年と続けてきたせいで、精神年齢が小学生のそれである。ついでに、妻はシクから失声症も併発している。
 まあ、ここまでスマホ会話であるのだが、普段は練習中の手話でコミニケーンを取ている。さらに、こんな普通のおさんですが、ふたりを助け出したという経歴があり、どうやら僕はふたりにとて救世主のように映ているらしい。
 ともかく、虐待の結果、妻は妹さんを産むことになり、どこか違う家庭に『養子縁組』されて、バラバラに育たわけであるが、なんやかんやでこうやて三人で暮らせる未来がやてきた。
 いやー、これで一件落着。 
 とは行かず、いろいろな問題が山積みだ。
 正直、でかい『ヤマ』で、僕自身、脅迫に晒されているし、あのひとたちバカだから、警察に言おうものなら本気で殺されてしまう。中には頭の回る輩もいて、まいちんぐ。以前に、僕らの身を案じたネト上の友達が警察に通報、危うく本当に殺されそうな修羅場もあて。
 そんなわけで、ふたりの存在は世間には知られてはいけないわけだから、こうやてアパートの一室に息を潜めて暮らしてるのだけど、問題はそれだけではない。
 妻の心は分裂したまま、出たり入たりを繰り返しているし、狭い押入れに閉じ込められて育たから、まず長時間立ていられないし、手料理を振る舞おうと台所に立とうものなら、後ろ向きに倒れていてしまう。
 栄養も十分に与えられて来なかたこともあて、発育が十分ではなくて、それは生活に多大な支障をきたしている。ここまで、自由になるために妻も頑張てきたけど、緊張の糸が切れて、現在そのほとんどを布団の上で過ごしている。
 妹さんの問題もある。性徴期を著しく阻害され続けた結果、精神年齢は一〇歳にも満たず、喋ることを許されなかた生活環境のせいでやはり妹さんも口を用いたコミニケーンが難しい状態だ。
 しかし、唯一、認められた『性欲』は高まる一方で、室内に男は僕ひとり。さて、どうなるかはもはや火を見るよりも明らかなわけですよ。
 僕は妻を何よりも愛している。
 軽いスキンシプならまだしも、その一線を超えないように四苦八苦してるわけだけど、その軽いスキンシプも妻からすれば、どうやら浮気の一部に入れられるらしい。
 そうして、またしても冒頭に戻るわけである。


「この子は僕らの娘なわけじん? 額にちぐらい普通だろ?」
『あ!?』
「すみません……
 何を言ても許さない妻の態度に妹さんがムとした顔で、僕の腕に抱きつく。
『やめなさい!』
 べー
 別にふたりとも仲が悪いわけではないのだが、こと僕のことになると、途端に険悪なムードになる。
 僕ですかあ。
「これぞ、板挟み……
『あ!? 胸がないて言いたいわけ!?』
『むねある』
 むに
 妹さんはあろうことか、僕の手を自分の胸に当てさせて揉ませる。
「待た! 今のは僕の意思じないから!」
 慌てて手を振りほどいて、弁明するが、
『揉んだよね? 揉むまではさせてないんじないの』
 妻の目つきが一層、釣り上がる。
 まあ、聞いてくれないよね。僕は心の中でため息をつく。どうしたものか。
 懊悩。
 考えろ。考えるんだ。このままでは、妻に殺されてしまう。
 ぽくぽくちーん!
 僕は妹さんを優しく引き離すと、強引に妻を引き寄せて、甘く愛の言葉を囁く。きと、妻は嫉妬してるだけだ。なら、もと激しいスキンシプで巻き返しを図る!
『わたし・あなた・殺す・したい』
 こんな時だけ、手話を用いる妻。最高の笑顔だた。
 しかし、僕の胸の中、ちこんとおさまた妻はわりとまんざらでもない顔。妹さんに勝ち誇た面持ちで、ふんと鼻を鳴らす。
 そんな妻に妹さんも負けていない。
『ち
 ほぺにち。ほ。きわわ。
『このひとは、私の旦那なの! あんたはそういうのダメなんだからね!』
『じおくさんになる』
『奥さんは世界にひとりだけ!』
 ああ……さらにヒートアプしてきたなあ。
 ふたりが慎ましくスマホ会話をしてるのをぼんやり眺めながら、この事態を鎮めるにはどうすべきか、頭をフル回転させる。
 口喧嘩もスマホ会話で、返事待ちがあるから、プリプリ怒ていても、なんだか滑稽なふたりであるが、僕はハとして、自分のスマホを立ち上げる。
 勝た。
 僕は、事態の沈静化をとりあえず、問題の先送りで対応することにして、心の中でほくそ笑む。
「奥さん、奥さん! ほら、これ一緒に見よう!」
『なによ』
 僕のスマホ画面に映し出された一枚の写真を、マジマジと眺める。妹さんも僕の肩に胸を置いて眺める。
 ババン!!
 怖い女の顔!
 何を隠そう、今の妻はホラーにとびきり弱い。前に、一緒にホラービデオを鑑賞したときは、びくりして人格が変わてしまた。そう。このびくりGIFアニメを見れば、人格が変わて、とりあえず事態が---
『ふうん。で? 何がしたかたわけ』
「あれ!? 効いてない!?」
『あんたにどれだけ見させられたと思うわけ? 脈絡もないこんなの、怖くないし、というか、ふうん。そういうつもり』
 妻は僕の作戦に気づいたようだ。胸におさまていた妻が身体を起こして、
『うん、とりあえず、歯を食いしばて』
 今夜、最高のしばきをいただいたのだた。


 その後、どうなて?
 妻の『しばき』を契機に、ふたりはやれやれと布団に潜り込んで、僕ひとりぼち。
 妻なんて、反対方向に身体を向こうにやて、僕が肩に手を置こうものなら、猛烈の張り手で振りほどかれる。
 僕はため息をついて、ふたりが寝付くまで外に飲みに行こうと立ち上がたのだが、
『どこいくわけ』
 と、大変ご立腹なご様子。
『いやあ、気まづいしさ。ちと外に出ようて思てさ』
『隣にいろ』
『あ、はい』
 僕は立ち上がりかけた身体を正座で坐り直して、妻の背中を見つめる。
『今日はごめんね。でもあんたを誰にも取られたくないから。ちとしたことも嫌。分かてよ』
 そんな文字が僕のスマホに浮かび上がて、僕は思わず、口にするわけである。
「奥さん、きわわ」
 その言葉に、妻は返信しない代わりに、自分の肩を手で叩く。
 僕は、
「喜んで!」
 妻の背中に飛びついて、いい匂いのする髪をすんすんして、ぎと抱きしめる。ああ、柔な身体。暖かいし、息する振動が心地よく伝わる。
 生きてるて実感する。出会うのが遅かたら、もしかしたら殺されていたかもしれない。そんな妻が、今こうして息をして、自分の気持ちを素直に表にして、僕の頰に顔を寄せるこの時間。
 僕は愛おしくていそう、強く抱きしめた。頰に伝う涙を妻は知ている。優しげな顔で向き直て、僕の胸に顔を埋める。
 僕は涙脆くなた。ふとしたことでこぼれ落ちる。それは誰のためなんだろう。他ならない自分のためかもしれない。だけど、それがふたりを想たことなら、泥臭くてもいいと、妹さんも引き寄せて、僕らはいつものように眠りに落ちるのだた。


 僕らは生きている。
 それは他のひとにとて、奇怪に思うかもしれない。ふたりの過去に思うこともあるかもしれない。だけど、『生きている』、その事実は限りなく重い。誰にも邪魔されたくないし、ふたりを守るためなら、僕は僕を捨てようと思える。
 あなたは、刑事訴訟で彼らに罰を与えて、ふたりの『過去』を世間に知らしめた方がいいと思うかもしれない。だけど、僕はその道を選ばなかた。妻はもう妙齢だ。でかい『ヤマ』だから、何年も証言台に立たないといけない。センセーナルなジギングな事件だから、マスコミにだて追い回されるだろう。妻の心の問題もある。
 せかく落ち着いてきた妻の心を、何度も調書のために過去を思い出させて、何度も多くのひとの前で語らせることで不安定にさせたくない。何より、それで勝ち取た『勝訴』がいたい、僕らの何になる? また身の危険を覚えて各地を転々としなければいけなくなるだろう。裁判で勝訴しても、長くて一五年程度。また彼らは世間に戻てくる。その後の報復は? マスコミに追い回されて、周囲の好奇な視線に晒され続ける。僕は、今のこの『おかしな』暮らしが、幸せだと思う。だて、こうやて生きているのだから。
 僕の胸の中で眠りに落ちた妻と、背中越しに感じる寝息に、仕事をたたんで遠くで暮らそうとぼんやり思た。
 僕には家族がいる。大腸癌であと一年もつかわからない父親と、ヤンチを繰り返し、度々警察の厄介になて、脳の病気を持つアホな兄と、そんな家族に振り回されながらも、家族のためと働き続ける母。そんな家族を捨てて、どこか、僕らのことを知らない遠くの街でゼロから始めよう。
 人里離れたところに家を買おう。でかい豪邸だ。
 妻がいつも語ている夢。
 庭があて、そこに滑り台や砂場、ブランコがある。妹さんと一緒にそこで遊ぶんだ。僕は、その様子を縁側に座て、酒でも飲みながら眺める。時々、ふたりがこちらを見て手を振てるのを、やれやれと立ち上がて、ブランコを押しに行くのだ。ふたりが奪われた、そんな当たり前の時間を、これから取り戻して行くんだ。
 さらに、庭には垣根に囲まれた露天風呂があるらしい。そこで盆にのせた日本酒を三人で煽る。部屋にはグランドピアノがあて、時々僕が弾いて、妻は目を閉じてその音に耳を傾ける。時折、妻もたどたとしく弾いて、僕が妹さんにピアノの弾き方を教える。
 寝室はさすがに、夫婦部屋と妹さん部屋にわけて、朝起きたら、妻が台所で朝ごはんの準備をしていて、ねぼすけの妹さんを僕が起こしに行く日課。仕事は、敷地内に事務所を立てて、生活には困らない程度にもうけて、三人で切り盛りする。
 なんだか、文字が涙で見えなくなてきた。
 妹さんは、僕よりも素敵な好青年を迎えて、僕と妻は、結婚式で涙ながらに祝う。たぶん、妻は飲んで飲んで飲みまくて酔てるだろうけど、僕はずとカメラを回して、あとでふたりで何度も見直して。
 年老いて、ふたりにはこの家は大きすぎるねて笑いあて、僕はたぶん車椅子だ。妻に押されながら、縁側に座らされて、生きてて良かた、幸せだたねて。
 妻を僕が看取るんだ。
 手を握て、生きててくれてありがとうて言て、次の日、僕は家の布団で死んでる。
 そんな未来が来るように、僕はもう少しだけ頑張ろうと思た。
 文字を書いてるだけでも涙て出るんだよね。去年からずいぶん泣いてるけど、全然枯れないんだ。だけど、今日は涙も、嫌じないんだ。
 暖かい幸せな雫が頰を伝て、僕は静かに目を閉じた。

(了)
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