第18回 文藝マガジン文戯杯「Junction」
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今宵、小粋なBARで
ミラ
投稿時刻 : 2022.02.15 23:50
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今宵、小粋なBARで
ミラ


 フラミンゴを象た一本足のスツールに座り、マホガニーのカウンターに頬杖をついて、退屈そうにグラスを見つめる一人の女。
 黒いドレスには銀色のスパンコールが星のようにちりばめられている。
 アンテクなバカラの、琥珀色の海に浮かぶ流氷の欠片が、カランと鳴て小さく揺れた。
「お一人ですか」ずと機会を窺ていたのだろう、隣の男が声を掛ける。
「さあ、どうかしら」女は悪戯ぽく笑うと、小さな海を飲み干した。
「ねえ、何処かへ連れてて」
「今から、ですか」
「そう、今から」
 優雅な仕草でスツールから降り立つと、その場でくるりと一回転した。
「うふふ。楽しい夜になりそう」
「酔てますね」眩しいものを見るような男の視線。
「これからあなたが、もと酔わせてくれるんでし
「ご期待に添えるといいのですが」
 男はバーテンダーを呼んで素早く二人分の支払いを済ませると、女の細い肩を抱き寄せて、出口へ導いた。
「それで、何処へ連れて行てくれるのかしら」
「仰せのままに、お姫様」
「私、天国へ行きたい気分なのだけど」
「それでは天国へ」
「あら本当に」
「ええ。天国へ、二人で行きましう」

 二人が店を出て行た後、ゆくりと閉じていくドアを見つめながら、バーテンダーは小さなため息をついて、ひとり呟いた。
「馬鹿な男だ」

 しばらくすると、女が一人で戻てきた。
「もう店じまいなんですが」
 女はバーテンダーの声を無視してスツールに腰掛ける。
「一杯頂戴よ」と、気怠げに言う。
 バーテンダーは肩をすくめた。
「困りましたね」
「お・ね・が・い」そして、ウインク。
「では、一杯だけですよ。ところで、お連れ様は」
「天国、若しくは地獄へ」
「そうですか。いつものように」
「ええ、いつものように」
 同じような遣り取りを、これまで何十回繰り返しただろうと、バーテンダーは思う。この女が天使なのか、それとも悪魔なのか、彼には未だにわからない。
 多分、とバーテンダーは心で呟く。どちらでも変りはないのだろう。
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