第67回 てきすとぽい杯〈てきすとぽい始動10周年記念〉
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人の卵 - humans egg -
投稿時刻 : 2022.02.19 23:22
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人の卵 - humans egg -
犬子蓮木


 ずと昔、人間は人間のお腹から生まれていたらしい。今の時代のわたしらからすると、鬼島に鬼がいて、桃から生まれた桃太郎が実在していましたと言われるような気持ちなのだけど、国語の時間に物語として扱うのではなく(昔の物語で出てくることもあるけれど)、医療の授業で聞かされるのだから実際にそうなのだと思う。たしかに野生の動物はそうらしいと映像で見たことがある。犬や猫などはわたしたちと同じだけど。
 わたしたちは卵から生まれてきた。
 市が運営しているライフセンターで生まれる。
 みんな同じところで生まれて同じところで育てられ、同じように小学校、中学校と寮で暮らし、今では高校生になて、やはり寮で暮らしている。変わるのは周りの人間と場所ぐらいだ。育てられる過程で、それぞれの適正にあた学校やクラス、仲間に振り分けられる。
 だんだん、自然と自分が向いている分野に進むようにできていて、周りの仲間も同じような分野を得意とする人間になるデザインだ。わたしはどうも医療系が向いているらしいということで、こうして人間の歴史を学ぶことになた。
 いたい、お腹に赤ん坊がいるなんてどんな感じなのだろうか?
 そもそも親てなに?
 昔は、人間がつがいとなて交尾をし、雌のお腹に子供ができていた。そうして1年弱の育成を経て、出産という儀式が行われていたとのことだ。どうもその儀式が危険を伴うとか、せかく産みはしても親がちんと育成しないからとか問題があり、さらには医療技術の進歩も合わさて今の形になたという話だた。
 それはまあいぱい問題があたのだろう。
 お腹に別の生命体がくついたまま生きなければいけないとか意味がわからないし、自分のお腹から出たからと言て、育てなければいけないなんて思えるわけがない。雄からすればお腹にすらいないわけで、別の雌のところに行く問題が多発したとのことも想像に難くない。
 またく、原始人はは野蛮だたのだな。
 そういた野蛮な世界が技術と知性の進歩とともに修正されて、今のこのまともな現代ができあがた。
 わたしはこの時代に生まれられてよかた。
 こんな昔に生まれていたかと思うとぞとする。
 交尾だ、出産だ、育成だ、を素人が管理するとか考えられない。
 子供も教育もプロとAIがルールに従て管理すべきなのだから。
 わたしもしかりと勉強しなければ。
 プロになるものとして。

   §

 ずと昔、人間は卵から生まれてきたらしい。今の時代のわたしらからすると、宇宙人と巨大ロボトが戦ていましたと言われるような気持ちなのだけど、実在の歴史コーナーにあるデータから読み取れるので本当らしい。映像も残されており、よくわからない奇抜な町並みを歩く昔の人の様子を見ることができる。これも、作り物ではないのかと疑いたくなるけれど。
 わたしたちは電子上の生物として作られている。
 一部をコピーして、一部を書き換え、そうして生成される。
 昔の人のような形は持ていない。
 自分たちの好きな容姿に好きなように着替えることができる。
 昔、人の卵は国家の下の地方自治体というものが管理していたらしいけれど、まず国とか地方自治体というのがよくわからない。昔は言葉が住む所によて違ていて、容姿もある程度、場所によて違ていたりで、多数派でない場所に行くと差別の理由などになたらしい。そういたことを起こさないように学校という場所で教育されるらしいけれど、そこでもいじめという謎の争いが発生していたらしい。意味がわからない。野蛮過ぎる。
 今では容姿に個人の趣味以上の意味はない。なにかあても十秒後には別の姿に変わることができる。まあ、スペースを取り過ぎたらちと嫌な顔されるぐらいはあるけれど、スペースが問題ならその空間を広げることもできる。大きさが違ても言葉は直接届くのだから問題ない。
 卵から物理的な肉体を持て、昔は人間が生み出されていた。
 物理的な肉体があるせいで、人間は転んで怪我したり、病気になたりしていた。それはそうだろう。なんでそんなリスクの高い生活を送ていたのかと思うけれど、技術が足りていなかたのだから仕方がない。
 今ではこうしてなんのリスクもなく生活できるようになた。
 好きなものを好きなだけ食べても、それは情報でしかないので、昔の人間にあた『健康を害する』なんて概念は存在しない。わたしのように歴史を学び活かそうとするものだけが知ているだけだ。まあ、ただの趣味だけど。
 狭い建物に押し込められて、学校などという集団生活を送らされ、いじめなんだのリスクを背負いながら、自由のない将来へただ生かされる。それではなんのために生きているのかわからないではないか。人間の持つ自由をなんだと思ているのかわからない。
 またく、原始人はは野蛮だたのだな。
 そういた野蛮な世界が技術と知性の進歩とともに修正されて、今のこのまともな現代ができあがた。
 わたしはこの時代に生まれられてよかた。

   §

 ずと昔、人間という生き物がいたらしい。
 いや、今も「いる」と言えるのかな。
 一応、この箱の中にね、いるようだ。
 接続してみれば、多数に増殖したなにかが、なんらかの活動をしていることはわかる。
 なにをしているのかはよくわからないけれどね。
 地上に残されていた遺物などによると、どうも争いを好まず、臆病な生き物だたらしいよ。だからこうして平和な世界に引きこもる道を選んだ。
 まるで生まれたひな鳥が、世界の眩しさに怯えて、卵に戻たようにね。
 いらなければ壊してしまおうかと思うけれど、どうする?
 そう、わかた。
 バイバイ、ニンゲン。                  <了>
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