第21回 文藝マガジン文戯杯「Illuminations」
嘘のない世界
hato_hato
投稿時刻 : 2022.11.04 05:23
字数 : 17490
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嘘のない世界
hato_hato


人類が嘘のない世界、真実だけの世界を手に入れて半世紀は経過しただろうか?
コンピターとIT、ネト技術の発展で、あまりにAIが進化しすぎた。Deep Learning、Machine Learningは行きつくところまで行きついて予測の的中率がほぼ100%になていた。
 ちと断りを入れておきたいが、CGもAI技術の数式を使たある種の予測演算のアルゴリズムだ。推論の技術。なにか意外と思われるかもしれないがそれが、いやそれもAI技術です。もちろん、会話などの音声を分析するAIもありますが、あれもデータを学習して、そのデータを基にある種の推論をしていく技術だ。会話自体を分析するのだけがAIと思われますが、推論するのがAIで、21世紀の大疫病が広がていた時点でこのAIがこれだけ急速に広がていました。
 もちろん会話AIもこの時期にかなりの進化を遂げました。特にあの大疫病で先進国がリモートワークにシフトしてチトやビデオ会議の会話のデータを大量に取得したのがひとつのターニングポイントとなていた。当時のメガプラトフマーがやていた?それは半分正しくて半分間違ている。たしかにメガプラトフマーのクラウドの基盤を利用しました。ただし、メガプラトフマー自身はインフラを提供しただけで、そのAI化の分析自体を推し進めたのは企業や行政、政府だた。メガプラトフマーはそれをやるにリスクを感じていた。当時、すでにデータ、情報の寡占化が問題となていたため、メガプラトフマーは手を出せなかた。企業や行政、政府が自らの組織に属する人間のデータを収集し学習をはじめました。それも最初は当時の流行りだたコンプライアンス、ガバナンス順守のために。嘘を見抜いて事前に防止しないと組織運営上のリスクが大きくなる。不正に嘘がないことはほぼありえない。正直に本音ベースで話し合い、する不正は本物の犯罪です。そんなものは当時でも許されていなかたし、AIの進化の過程でもとも最初に対策がなされました。それでも人類は物足りず、嘘をつくと、すぐに推論して検知、分析できるシステムを求めました。人類は嘘のつけない世界にしました。メガプラトフマーの情報監視もここで終わりになた。
 それが暴走をはじめた?いや、逆で、人類は誰も嘘をつけない真に自由で公正な社会基盤を手に入れたのだた。

 僕は授業で21世紀はじめのアメリカ大統領の演説を見ている。公民の授業だ。トランプだた。アメリカが内戦になて、もう何年だろうか?アメリカは嘘をつけない世界になり、共和党と民主党がお互い本音をぶつけあうようになた。一方では白人vs黒人vsスパニの主張もはきりし、さらにもう一方では中絶容認vs中絶反対などと言う複雑な対立状況になり、連邦制度が破綻した。そして、青い州と赤い州の内戦が起こた。ただ、これが面白いところなのだが、銃社会のアメリカだからさぞかし死者が増えたことだと思うだろう。しかし、嘘をつけない社会になり、嘘を見破るカメラやゴーグルが普及し、人が銃を持ているか?いつトリガーを引くかがわかるようになり銃撃戦で死者が出なくなた。そうです、銃が発射されるのがわかるのなら、簡単なことで逃げればいいだけだた。そういうわけですべての暴力は成立しなくなた。ただ、お互いににらみあうだけ。そのとおりで、お互いの発する言葉で嘘をつけば、すべては相手に嘘とわかるのだからコミニケーンは成立しない。だから、正直ベースで状況が発生すると言うおかしな内戦になたのです。それまでの戦争はだましあいの戦略の出し合いでした。いまや、それは成立しなくなりました。緊張がピークに達して銃撃しあうようになりそうになるとお互いに引く。ただ、合意も成立しない。妙な妥協点がなく解決しない内戦。

 ドナルド・トランプ。この大統領はかつて評価が低かたようだが、いまではすべての思い、正直に話していた大統領と評価が高い。逆にバイデン、オバマ、クリントンはいいことを言ていたが、自分の本当の思いではなかたとわかり、評価が低くなた。
 日本では安倍晋三の評価が高また。民主党で評価が高また首相経験者は野田佳彦だけだた。特に安倍晋三への追悼演説は全部、本音で話していたこと理解され評価された。とにかく評価が低くなたのが、岸田だ。たしかに彼は嘘を言ていなかた。ただ、嘘を言ていないのがわかると言うことは、ほぼイコールでなにも考えていない、つまりはなにかを聞かれた時の反応でなにも考えていないこともわかり、分析される。ただ、オウム返しの返事をしていただけだた。岸田は、当時、私は聞く耳を持ちますと言ており、たしかに聞いていたが、そこから先はなにも考えていなかたのだ。この技術、嘘を分析する研究段階の初期で、このことがマスコミにリークされ、岸田体制はぶち壊れた。
 だが、この岸田的態度が日本から消えたわけではなかた。日本の多くの国民はこの岸田的態度のただ聞くだけの人間になり、一部の自分の意志を発するリーダーのみが政治家、官僚、企業の幹部となた。
 しかし、これは格差ではなかた。人間の能力が公平に評価された結果だた。日本人はアメリカ人のようにみなが本音で自分の意志を持て話す人種ではなかただけであた。それが本来の日本の気質だた。匿名掲示板やSNSでただ誹謗中傷だけをしている人間もあぶりだされた。結果として、人の能力の差がはきりして、適切な職や職位に人々は属し、長年の日本の問題だた労働生産性も改善した。そして、再び日本は世界の工場となり、世界で一番の成長を手にした。それと、中国とEUがかなり変化したためだ。
 中国は、そうはうまくいかなかた。もともと、個性のはげしい人種だ。おもしろかたのは共産党指導層がいかに共産党員いや国民を恐れているかが表出して、共産党指導体制が崩壊したのだた。習近平は三期目の就任の時に台湾侵攻を謳ていたが、実はことが失敗した場合の自分の党の体制や亡命先などを優先して考えており、それが白日のもとにさらされ失脚した。これ以降は台湾や解放されたウグル、チベトなどを巻き込み、統一どころか各地域が独立した。アメリカと違うのは、中国人と言ても、この中国人と言う単語も習近平体制の頃のものだが、彼らは本音で話し合うとお互いの利益を尊重し、攻撃をしあうことは無益だと察したのだた。独立して各地域で最低限の貿易関係だけは成立していた。アメリカのような内戦にはならなかた。だが、当然、世界の工場としての機能は失た。
 EUにしても中国と似たようなものだた。通貨としてのユーロも残り、各国の自由な行き来も廃止されることはなかたが、各国が要塞都市化して最低限の貿易だけになた。20世紀に誕生した相互依存のEUと言うシステムを破壊するまでのメリトはなかたのはわかていた。嘘がつけず、本音だけで話すと、異文化のコミニケーンは成立しづらくはなるが、20世紀以下の生活・文化水準までは落としたくないと言うのもまた嘘のつけない世界での相互の本音だた。
 
 これは僕が公民で習た現代だた。もちろん、これにも嘘はない。多分に差別的な要素も混ざている。ただ、嘘のつけない世界なのだから、これは当然だ。検閲とは違う。検閲の逆だ。ただ、これを、検閲をしない検閲だというもののも一部にはいたのも事実だ。とは言え、多くの人は、嘘をつきあう真実のない世界よりいまの世界のましだと教育で学んでいた。フクニスを利用した世論誘導もなくなていた。
 プーチンの大虐殺。この戦後処理は四半世紀かかた。あらゆる嘘が暴かれていた。これももともとプーチンの嘘からはじまていた。だが、それ以上の嘘がこの戦争では吐かれていた。人類はそうやて、歴史からちんと学べるように変化していた。

 僕は授業が終わり、隣の女子に話しかけた。たいして仲はよくない。
「いまの授業、面白かたね」
「そうね」
 僕のゴーグルにメセージが流れる。
「こいつは本音ベースでなんでも話すけど、趣味が悪い」
 僕は一言だけ言た。
「そうだね」
 彼女も察したようで、笑顔で「そうね」と言た。僕は教室を出てトイレに向かた。
 この時代、生徒間のコミニケーンはそんなものだた。
 冷たい?いや、嘘をつかれて傷つくよりはいいでし。ただし、メンタル疾患は人類全体で増えていた。僕のクラスは20人だたが、抗うつ剤、睡眠薬なしだたのは僕を入れて、5人程度だたろうか。多くの生徒はなんらかのメンタル疾患と付き合ていた。
 それなら、なんで不登校にならないかて?だて、家でインタートをやているともとひどいからだ。インタートのヘイト?そんなものは当たり前だ。テキストメセージなんて特に本音を分析しやすいので、嘘が通用しなくなた。逆検閲とも言えるシステムが導入しようと言う機運が先進国では広がていた。嘘をつかない言葉を検閲しようと。本音をもと隠そうと。それぐらい真実でインタートはあふれていた。もう、美辞麗句でも嘘をついてはいけない。
対人コミケーンでは嘘を見破るゴーグルをつけていないと、生活できないと言うよりそれを前提で社会が動いていた。本当にひきこもり、部屋からトイレ以外に出ないで家族とも顔を合わせないで暮らす、それしかない。家族が本音で自分を心配してくれている?そんなものはゴーグルをつけないと本当にはわからない。両親が自分を愛していると言う保証はゴーグルを通してでないとわからない。そんな状況で不登校をするなら、学校に来た方がまだましだ。だから、メンタルが傷ついていてもみんな学校に通学していた。会社や役所も似たようなものだた。
 ところで、この社会に変化して日本から消えた業種いや職種はなんだと思うだろう?いわゆる、キバクラやホストクラブ、風俗と言われるものだ。ただ、これは時々、そんなものが都市伝説だと言われている。それが本当に存在していたのかと。誰が異性からお世辞を言われるためだけに高いお金を払ていたのかと。そんな嘘はゴーグルをかけていなくてもわかるだろと。そんなものが面白かたのかと。この時代になて、もう長くなり、たまにLIFE SHIFTに成功した方から、こういう職種が昔はあたと言われるが、誰も知らなかたし信じなかた。さらにある都市伝説だとSMとかいう本音で女性から男性が責められ、ののしられるセクスがあたとも言われていたが、これも本音で男性にそこまでののしる情熱がある女性がいないことや、ののしれるほどの愛を持つ女性などもいないということも常識になており、これも都市伝説と言われていた。ゴーグルをかけていればすぐにわかる。と言うか、年頃の少年いや男性になると「俺たち、毎日、女子にののしられているからSMプレイだね」と言う程度の冗談にしかならなかた。愛のあるののしりもなかたが、男性にとて気持ちのいいののしりなどもなかた。豚だの言われても、女性に本当に男性を豚と思われて楽しいと思う男性はいない。そんなことを言われて平気な男性は嘘をつかないとは違う意味で危ないので、だいたい、当局から危険分子とマークされることになていた。この作品の目的とは離れるので書かないが、こういう男性の行きつく先がろくなところではないのはわかるだろう。

 僕はトイレで用を済ませて、屋上へ昇る階段へ向かた。屋上、なに?これはいまも昔も変わらない喫煙だ。いや、この時代は一時期、廃れた紙巻きたばこを吸う人間が増えた。公平な社会と言うのはそれなりにストレスが溜まるのだ。先生にしてもそれがわかているので、黙認状態だた。一応、まだ日本の法律上では満二十歳未満は禁止だた。諸外国では大麻の未成年への解禁が増えたが、日本では法律、刑法と税法の関係をうまくコントロールができず、結局、大麻解禁はできなかた。アンダーグラウンドでは大麻の流通が増えてはいたが、うちの学校はそれなりに昔で言う高偏差値校、いまなら嘘をつかない優秀な生徒のエリート校だたので、さすがに校内での大麻はNGだた。ちなみにこの時代はもう偏差値は意味をなさなかた。なぜか?AIの発展で人間が一生に学ぶ領域があまりに増え、従来の義務教育では追い付かなくなた。義務教育は基本的なコンピターの操作と嘘を見破るゴーグルの使い方を教えるので精いぱいだた。国語、算数、理科、社会などは三歳児、幼児教育ですませていないと義務教育で取り残される。そのため、高等教育は学士がAI進化以前の高卒扱い。修士で大卒の学士。そこでもすでに専門家だが、さらに専門家になるには博士の二つぐらいの取得が当たり前だた。博士がひとつでは、専門家としてはあまり使いものにならなかた。それぐらい各領域の重なり、広がりもあた。AI進化以前はMS Officeと言うのがあたと聞いたが、いまはそれで文章を書くのは各分野のエキスパートだけになており、それをさらにAIで査読をかけていたので、そのAIで追いつけない部分や、エラーを発見できるだけの専門性が必要となるように変化していた。AI以上の知識、知能が要求された。作業、営業報告程度のメモのようなものは音声で入力すれば、あとはAIがうまく書類にしてくれる。その程度のことのために人間がなにかを考えてキーボードを触るのは無駄になていた。それか専門家になれなければAIを作る側に回るかだ。こちらはAIがAIを作ることはまだ達成できていなかた。試されたこともあたがAI倫理の問題もあり、人類が実用化を止めてしまた。こちらはこのころの学士レベルでもプログラムの能力と統計学などの数学の知識でできた。これは妙な現象に見えるかもしれないが、この時代になると前の時代からの専門家のデータの蓄積が大量にあたので、このデータ自体はAIを使た応用プログラムを作る側は使うだけなので、それでもAIを本当の意味で使う専門家ほどの教育水準は要求されなかた。AIを使うシステムはインフラとしてほぼ行き渡り、それはそれでメンテをする人間を必要としていた。ただし、物理的なインフラの水道、電気などは思たよりAIでできないと言うかカメラやドローンで障害などが発見できるが、水道ならいざパイプを変えようとすると工具は進化していたが、全部、ロボトでやれるほどの進化がなかたと言うより、それをやるとコストがかかるため、それはそれで人間の手が必要とされた。ただし、ここでも、そのAIやコンピターを使いこなすだけの高等教育は要求されていた。
 
僕は屋上に出て、給水塔の脇で、たばこにライターで火をつけた。反対側でも喫煙している奴がいた。なんか、ぶつくさと独り言を言ている。病んでいるなと思た。僕はたばこの紫煙を吐いた。
 そこに彼女は現れた。
 肩までかかる髪を青色に染めた変わた少女だた。日本人とはちと顔つきが違う。もとエキゾチクな感じだ。背はこの時代には低く160cmぐらいだろうか。珍しくブレザーの制服を着ている。あまり、うちの学校の女子は制服を着なかた。でも、うちの学校てこんな色のブレザーけ?制服の青ではなく、茶色だた。かわいい。
 俺は、彼女に見つめられ一言を発した。
「かわいい」
 彼女は僕を見つめ言た。
「あれ、お世辞でもうれしい」
 にこりとした。驚いた。彼女はゴーグルをしていなかた。でも、僕の気持ちはわかた。なぜだ?
「あれ、なんで私があなたの気持ちがわかて顔をしているね。でも私はうれしいよ。君が本当に正直になたのはこの学校に来てからはじめてだよね?」
 僕はなんでとなた。そして、とまどい隠せなかた。
「あれ、私と会たのがはじめただと思ている?ずと隣の席にいたじない」
 僕は言た。
「でもさ、さき。趣味が悪いと」
「それは私じないよ。ひとして右隣。私は窓側、左隣」
 あれ、僕の左隣に席はあた?いや、窓だたような。
「私のことを忘れている。ま、そりそうよね、前学期から身体を壊して、休んでいたから。日本の冬はきつくて」
 それでも、僕は思い出せない。そうだ、僕の左隣は窓だ
「ええと、僕の左隣は窓なんですが。教室は1-Cです」
 彼女は笑顔をこぼしたかと思うと、困惑した顔になた。でも、猫のようでかわいい。
「あれ?私も1-Cのだたはずだけど?勘違い?」
 なにか、話がかみあわない。もしかして、一学年上でなにかの勘違いか。
「あの先輩。いまはまだ春になたばかりの一学期でして。もしかして留学生ですか?」
 うちの学校は国際化が完全に進んでおらず、日本の旧来の学期制度を採用していた。
「そう、私は去年の秋に編入してきたの?私の勘違い。てか、今日は教室に行ていないし」
 彼女がおどけた。
「あと、僕の左隣は窓です。そして、右隣の女子は先輩ほど性格がよくはありません」
「私の性格がいい?うれしい!」
「そうだ、デートしよ!もう、日本の授業はつまらないし、教室には行きたくない」
 先輩、デーて。それてなん十年前の風習ですか?
「私はとりあえず、駅前のマクでワパーを食べたい」
 先輩、それはマクドナルドではなくて、バーガーキングでは?
「後輩くんはオリジナルチキンが食べたい?」
 先輩、それはケンタキーですから。
 でも、それはいい提案だと思た。俺から先輩の手を握り、声を発した。
「ケンタキーへ行きましう!ただし、先輩のおごりですよ。先輩なんですから」
 先輩は笑いながら言た。
「しうがないな。初デートから女子持ち。ま、後輩くんだから許そう。Go!」
 俺もあわせて「Go!」
 僕たちは階段を駆け下り、昇降口、門と走り抜け、駅前のケンタキーまで走ていた。

 ケンタキーへ着いた。さきは先輩のおごりと言たが、さすがに女子におごらせるのは恥ずかしい。それを素直にレジの前で先輩へ言た。
「じあ、それぞれ好きなものを食べる?うーん、でも、それはつまらないな。なら、それぞれに自分の好きなものを相手におごろう」
 俺はおもしろいと思た。
「でも、お互いにここで見るとつまらないから、見えないようにオーダーをして、席ではじめて見せあう。一応、ジスの銘柄まで。ポテトはお互いにつけよう」
 ここでお互いに別々にレジでオーダーをした。
 その後、同時に席についた。自然と対面で座りあた。
 そして、お互いのトレーを交換した。
 俺にはオリジナルチキン。先輩には骨なしチキン。
「後輩くん、あたしはうれしいよ。これが食べたかた」
 俺はオリジナルチキンだた。ま、さき食べたいと言たからな。興味があたので俺は聞いた。
「なんで先輩は骨なしチキンなんですか?興味があるす」
 先輩は言た。いや、これを選ぶ時にゴーグルの出したサジストを無視した。もし、サジストに従たら、あまりにも野暮すぎる。
「私の国でチキンと言えば骨付きでね。だから、逆で。骨なしは食べやすし、文明の香りがするの」
 いまどき珍しいと思た。さらに興味を持ち、出身国を聞いた。
 先輩はあるアジアの新しい独立国の名前を言た。たしか王族を復活させたのではなかたか。冗談を言た。もしかしたら、俺が生まれてはじめて言た嘘かもしれない。先輩は王族ですかと。
「うん、私はそこの王族の長女。男系がいないから、いまの憲法だと継承一位。ま、日本に来たのは、日本のシステムを学ぶためだけど。ただね、こんなにつまらない国とも思わなかた」
 ここで気づいた、この先輩、屋上からずと嘘を言ていない。ゴーグルが反応していない。そんなことがありえるのかと思た。
 いろいろ聞きたいことがあたけど、ひとつづつ聞くことにした。
「ところで先輩はなんで、ゴーグルをかけていないのですか?」
「ああ、あれは、寝ている時に壊した言うか、寝ぼけた時にベドから落として、踏みつけた。ま、あんなつまらないものいらないから、そのまま。一応、私は国を代表しての留学生だから、学校はなにも言えないみたい」
 ここでも興味がわいたが、まずは乙女へ対する態度として、体調を聞くことにした。
「体調?春になて復活したけど、日本の冬がこんなに寒いとも思わなかたのは事実。結構、きつかた。ま、半分はさぼりかも。王様、わたしの父親にはしかられたけどね。正月にも帰国しないで布団で寝ているのかて。日本に来てよかたのは羽毛布団とこたつよ。これは暖かい私の国はないけど、いいものね。あの気持ちよさは南の国ではわからない」
 面白い先輩だ。確信的な質問をした。日本がつまらない。
「ああ、それね。そり私だて、最初の数か月はまじめに学校に通たわよ。ま、女子同士はいいけどと言うか、ま、王朝だて女子の仲はあんなもの。そり、あのゴーグルがあれば当然よ。それで仲がよくなれてのも無理。ほとくわ。ただね、男の子のつまらなさは異常。そり、私はそんなに妹ほどきれいでもないから、しうがないけど。日本でデートしたのは後輩くんがはじめてよ」
 もと気になること聞いた。妹はもときれいなのか。
 彼女はふてくされた顔になた。
「会たそばから、それ?あんたはデリカシーがないのか、スケベなのか。でも妹てまだ日本で言えば、中学生よ」
 それを先に言てください。
「ま、私の勘違いだたけど。後輩くん、かわいい。名前はなんていうの?」
 僕は名前を答えた。英一だ。
「英一?長いし、呼びにくいわ。Aでいい?」
 ま、僕もそれで構わない。ところで先輩の名前は。
「日本人だと、呼びにくいかもね。サイ・シン。シンでいいわよ。あ、Mis.とかMiss.はやめてね。どちも大嫌いだから」
 じあ、Mumでと、俺はまた冗談を言た。
「あら、なんでわかたの?私、将来は軍隊、それも海軍に入て、船の船長になりたいと思ているわ。マム・シン、かこいいじん。いいわよ、マムて呼んでも。イエス、マムとか」
 それはご勘弁をこうむりたい。
 シンはしべり、のどが渇いたのか、ストローからジスを飲み始めた。そして、言た。
「レモネードね。これは私の国にはないし、日本に来ておいしいと思たわ。ここでメロンとかおこちまなのを選んでいたら、この後のデートはなしだたけど」
 先輩が選んだジスを飲んだ。コーラいやケンタキーだからペプシだた。それを言た。
「マクだたらスプライトてのも、ありなんだけど、ここはペプシで勝負したの」
 先輩、それはあたりです。いい女だ、シンと言た。
 先輩はしおらしい顔になた。
「やだ、ほれちうじないA」
 先輩の食いぷりは上品さはありながら、おいしそうに食べていて、気持ちがよかた。
 僕も負けずに食べた。骨もした。それを見たシンが。
「そうよね。やぱり男の子はケンタでは骨をしぶらなき。A、わかているわ」
 僕らは食べ終わり、トレーを片付けた。
「さて、次はどこへ行こうかしら。実を言うと、私、アパートは駅前だし、電車に乗たことがないのよ。公用があると大使館から車を出してくれるし」
 なら、電車に乗て、ちと乗り継ぎがあるが港を見に行こうと提案した。
 先輩はちと困惑した。
「その提案自体はグドアイデアなんだけど、私、電車の乗り方を知らないの。ごめん」
 なんだ、先輩。僕がそんなことを気にしていたのか、僕に任せてください。
「お願いなんだけど、日本の電車はICカードと言うのがあるて聞いたことがあて、あれが欲しいの」
 僕らは切符売り場に向かい、シンのICカードを買い、僕のICカードの定期券もチジをした。この時代になても、スマホの通学定期券は私鉄とJRを挟むのが面倒だたりした。だから、僕は使ていなかた。
 シンにICカードを渡すとはしいでいた。
「これこそ自由へのチケト。私の自由はこのICカードにあるのよ」
 てきり冗談だと思い。ちと笑た。
 そうするとちとシンの表情が暗くなた。
「ま、私の国はこれから電車や地下鉄の開発をするから、たしかにこれは国のための勉強でもあるわ。それに日本で新幹線以外の電車にはじめて乗れるからうれしい。でも、自由へのチケトなのは、そんなに冗談でもないの」
 なんだろうと言う顔を僕がすると。
「うん、でもこれはAにする話ではないわ。行きましう」

 僕らは下り線ホームに来た急行電車に乗た。席が空いていたので、僕らはロングシートの真ん中に二人でこぶし一つぐらい離れて座た。
 次の駅は各駅停車と待ち合わせ、一気に席は埋また。僕らの前に腰が悪そうな老女が来た。
 シンは、彼女に「お席どうぞ」と言い立た。
 老女は「ありがとうございます。いまどき珍しいけど、ありがたく座らせていただくわ」と言い座た。老女は僕を見て「お兄ちん、しかした彼女さんだね」と。
 僕は照れくさかた。さらに次の駅で、妊婦が僕の前に来た。僕は彼女に席を譲た。
 そして、シンが立ている隣に立た。
「いや、Aもちんとしているのね。お姉さん、うれしい」
 逆にシンになんで、老女に席を譲たマナーを知ているかを聞いた。ゴーグル時代になて、そういう親切なことをするマナーも日本では消滅していた。
「よく言われれば。それもそうね。国ではバスに乗ることもなかたのに。日本の昔のドラマでも見て覚えていたかな。あれね、AI以前の日本の2時間サスペンスは好きよ。THE STAR 船越英一郎とか。犯人との腹の探り合いがいいのよ。水谷豊はだめね。あの時代でゴーグルをかけなき、事件を解決できないなんて」
 シン、あんたはいくつだ。たしかにサブスクで配信はされているが。
「あれね、日本語学習のために見たのかしら」
 結局、僕らは乗換駅までの20分ぐらいの立ちぱなしだた。僕らは、席の取り合いのゴーグルを使た、誰がどこの駅で降りて、そこで座るとかの競争に参戦もしなかた。僕はゴーグルをかけているから、やればできた。でも、それをシンの前でやると野暮な気がしたし、シンの隣でこうしているのは気持ちがよかた。
 乗換駅で港へ行く路線へ乗り換えた。いや、スムーズには行かなかた。シンがICカードをうまく自動改札にかざせず、二回失敗した。シンは泣きそうな顔になた。シンはゆくり自動改札を通りたいようだたが、後から人はどんどんと来る。僕はシンを空いている自動改札に行くように指示をして、自動改札のゲートの向こうから、がんばれと声をかけた。
 シンは五回目に人と人の間でICカードをかざし、自動改札のゲートを通り抜けた。そして、僕の胸に飛び込んできた。ちと泣いていたかもしれない。でも、うれしかたが。
「怖かたよ、A。私の国はもと簡単な自動改札にする」
 俺はシンの頭をなでた。やわらかな髪だた。彼女はちと照れた。
「てへへへ。Aがほめてくれた。うれしい」
 僕らは今度こそ電車を乗り換え。港へ向かた。

 港の最寄り駅に着くと、夕暮れ前になていた。記憶している限りでは展望台が閉まる時間だ。ただ、遊園地はもうちと営業をしている。僕はシンに聞いた。展望台と遊園地のどちにするか。シンは悩んだ末に答えた。
「遊園地も楽しそうだけど、この国の風景を見たい。もしかしたら、私の国の将来かもしれないし」
 ここでもゴーグルが反応しない。なんで、シンはこんなにますぐなんだ。シンの言ていることを所詮はきれいごとだと僕は一瞬、思た。だが、シンは本気で母国のことを考えているのかかもしれない。それは僕では追い付かない意識の高さだ。ゴーグルで嘘を見抜いて立ち回るだけの人生とは別の世界かもしれない。もしかしたら、僕はそんなシンの世界を見たかたかもしれない。そんなシンに僕は惹かれた。僕は気付かないうちにシンの手を握ていた。シンはそれを気にしていないようだた。いや、それはいまとなてはわからない。僕らは手をつなぎながら、展望台のあるビルへ向かた。
 チケトを買い、展望台へあがた。地上296mだ。
 シンにまず展望台のフロアを一周することを提案した。シンもまずはそうしたいと言た。
 シンがおどろいたことは、日本の風景よりこんなに高いビルを人類が建てられて、それにアクセスするエレベーターを作れることと言た。
「私の国で一番高いビルが、いま私が日本で住んでいるアパートの15階建てぐらい。これが私の住んでいる国の建設の限界。建設技術もそうだけど、それ以上の高さのエレベーターの管理もできない。でも、こんなタワーができたら国のみんなは未来へ進めるし、なにより元気になる」
 シンを疑た自分に嫌悪感を抱いた。シンは真剣にこの風景がシンの国の未来と考えているんだ。
「あの、コンテナのクレーンもそう。私の国ではまだあそこまでの規模の港は作れない。単に海外の援助を使た技術で作ても、そこまでの需要もない。ただ、将来はそれだけの国になて欲しい」
 陽が落ち始め、だんだんと人口密集地帯に明かりが灯りはじめた。それを見てシンは。
「でも、女性としては、あの明かりが灯る暖かい風景が好きだし、その明かりの中で旦那さんや子供と暮らすだけの普通の女性がいいけど」
 その言葉を発した時、僕はなにも言わなかた。国を思うシンの気持ちも嘘ではない。ただ、一人の女性として生きたいシンの気持ちもそれは嘘ではない。二つはアンビバレントかと言うと、それも違う。ところで、僕はなんでゴーグルを使わずにこんなことをわかる、考えるようになれた、いや、なたんだろう。なんか、おかしいぞ、僕。
「ね、お願いがあるんだけど」
 僕はなにかと思た。
「私、いや、私と写真を撮てくれない」
 僕は「と」を聞き逃し、シンにスマホを貸してと言た。シンはむくれた。
「いや、私と写真を撮てくれないなんだけど。夜景を背景に」
 そして、照れくさそうになた。
 僕はシンの隣に行き、窓を背にした。シンはスマホを出し、セルフで撮影をした。
 僕のスマホに写真を転送してくれないかを頼んだ。そうしたら、シンは言た。
「えー。後でね」
 その後は、結局なかたのだが。

 次に僕らは観覧車に乗た。ここは東洋一、大きい観覧車だ。
 シンははしいでいた。
「観覧車て海外の映画で見たことあるけど、はじめて。結構、揺れるのね」
 窓に顔がくつくぐらいの勢いだた。
「展望台もいいけど、観覧車もいいわ。これも私の国に欲しい」
 展望台が一番、高いところに近づくと。シンが言た。
「ところでAがメガネ萌えでゴーグルをした私が見たいなら、かけてもいいわよ」
 見たい。でも、それは逆だ。僕は思い切てゴーグルを外した。
 シンは驚いた顔になた。いや、すぐに赤くなた。
「え、嘘、Aてゴーグルを外すと、こんなにかこいいの。私、一日、気づかなかた。私こそちんとしたゴーグルをかけるべきだたかも」
 そして、彼女は僕に唇を重ねてきた。僕らがそうすると遊園地のイルミネーンが点滅して祝してくれた。
「A、今日はありがとう。あなたを忘れないわ」
 そして、もう一言を言た。
「実は私、お姉さんみたいなフリをしていたのが今日、最大でただひとつの嘘。私、2学年飛び級だから、Aより二つ下。日本だとまだ中学生。ごめん。でも、Aとデートするにはこれしかないと思たの。なんか、強引に誘わなきいけないと思ていたの。私、日本での思い出が欲しかた。でも、いまはAと会えたことが最大の思い出」

 僕は、結局、シンに翌日は出会えなかた、いや、その翌日も翌週も。
 3年生の教室にも行たが、ここでもゴーグルの障害が。先輩たちに怪しまられた。
 シンの消息をまず、知たのは1年後のことだた。
 インタートのニス速報だた。
 シンが女王になたのだ。王、つまりはシンの父親が急逝し、継承1位のシンが女王になた。この時、僕が18歳になたので、シンはまだ16歳だた。それで世界は注目するかと思われたが、そこではなかた。父親が進めていた、嘘がつけないシステムの国への導入を中止したのだ。これは日本だけではなく、アメリカ、ロシア、中国がすでに常任理事国の機能を失ていたが、それでも国連があわてた。彼女は中止の明確な理由を言わなかた。事態が落ち着いてから一言だけ言た。
「私は日本で学んだのです。日本はすばらしい国です。だからこそ、このシステムの導入を中止しました」
 シンの髪はいつの間にか黒くなていた。だが、これはこれで女王の品格があた。僕はさすがにシンの言ていることはわかたし、これは嘘ではない、しかし、本音いや所詮は理想論だ。ただ、おもしろいことにシンは日本には援助を求めてきた。日本の昔の教育を知ている古い方に私の国に来てもらえないかと。これは日本政府も最初はよく理解できていないようだた。とは言え、シンの国の権益、特にエネルギー権益を握りたい政府としては応じた。それと、おしんなどの日本のドラマ・コンテンツも。ここまで来ると、僕は笑てしまた。シンよ、君は僕の想像なんかはるかに超えている、そうだ嘘をつけないシステムなどくそなのだ。僕はシンとデートをしたことが高校時代の最大の学びだた。それは一生の誇りとなるだろう。
 いい意味で彼女は僕なんかが敵う相手ではなかたのだ。本当におもしろい女性になた。
 シンの国は5年でアジアの最強国入りをした。逆に世界は嘘をつけないシステムを疑いはじめた。それくらい、シンの国の成長はすごかた。実は嘘をつけない時代になり、人類の効率はあがり、一見、平和になたように見えたが、成長も止まていた。それがアメリカの内戦、ロシアの戦後処理の長期化、中国の分断だ。人類はシンのやり方こそが地球の未来だと気づきはじめた。
 シンの国で世界一の観覧車ができた時は、ある意味で世界はおどろいた。二つある。これはこの国だけの技術で作られたこと。そこまで国力があがていた。もうひとつ、観覧車なんて密閉空間を好む人類はもういないだろう、こんなものが無駄だと。嘘をつけない世界では息苦しいだけの空間だと思われていた。しかし、これは見事に人類の予測は裏切られた、シンの国の方々はこれを大好きになた。いや、この観覧車に乗るために世界中から観光客が訪れた。シンよ、君はどこまで人類を導いていくんだ。
 
 シンが女王になてから10年。たまにネトニスでシンを見ると、きれいになていた。こんな女性の15歳を半日でも独占できたのは幸せだた。
 僕は霞が関の官僚になていた。高校の同学年で言えばもとも出世していた。
 経済産業省にいたが、ある日、次官に呼ばれた。これも不思議だた、俺程度で次官に呼ばれる。この時代に犯罪はないので、こういうことはほとんど、いやなかた。なら、なんだろうと思た。
 会議室に入ると、次官がいた。一人だけのようだた。
 開口一番、「ゴーグルを外してくれ」と。
 なにか、おかしい。
「これから出す辞令はちんと内閣人事局の発令した正式なものだが、経緯は話させない。ただ、私としても解せないところがあるから、そこを言いたい。だから、ゴーグルを外してくれ」
 次官は辞令を僕に渡してきた。
 それを見るとシンの国への赴任だ。そこで僕は察した。あらら、シンも大胆な女性になたものだねと。ま、シンの国に興味はあたので、行くことに異論はない。そこで「拝承します」と言た。
 次官が納得していない。そして、次官が、「よく読め」と言た。
 俺は辞令を見直した。
「全権大使」と書いてある。
 僕のキリアではありえないし、ぼくの省の管轄でもなかた。
「官邸の要請なのは当然だ。私の権限では無理だ。普通はやらないが、外務省と公安に君の調査もしてもらた。たしかにあの国の女王と同じ高校にはいた。そこまでだ。それ以上の情報はなにも出てこなかた。いや、私のアクセス権限では参照するのが無理だた。とは言え、不正はない。ただ、この人事はなんだ」
 僕にもわかりませんと答えた。
「これは官邸からの要請だから、一応は伝えておく。君はあの国へ嘘がつけないシステムを導入することが、日本の権益だ。だから、全権大使と言えども、それだけをやてくれ。余計なことはやるな。とは言ても全権大使なのは事実だが」
 僕は、一応、覚えておいた。「全権大使なのは事実だ」。
 僕は、一か月後、シンの国についた。
 さすがに国賓扱いまでは行かないが、それなりにシンの国の方には歓迎してもらえた。シンとは会えなかた。いや、正確には謁見がかなわなかただけだ。日本が主催するレセプシンでシンの姿は見た。きれいになていた。目の前で会いたかたが、僕の立場ではそこまで近づけなかた。それなりにこの国は日本に好意的だた。全権大使の扱いとしては、それでも異例のレベルで現地の大使館の職員は驚いていた。冗談で首相扱いまではいかないが、うちの大臣が来ても、ここまで扱いはよくない。ゴーグルですぐにそれを言われているのがわかた。

 ま、シンに常識を求めた僕が悪かたんだが。
 ある深夜、僕のスマホのSMSにメセージが届いた。
「港にある観覧車に来て」
 英語でも、この国の言葉でもなく、日本語だた。
 そこで察した。僕は思た。しうがねな。シンは相変わらず、ますぐだ。ただ、それに応える義務も僕にはある。それは日本政府の代表ではない、日本人、日本文化の代表としてだ。
 遊園地に行くと、観覧車だけが回ていた。ここまでやるかと思たが、しかたがない。ああ、さすがに女王になただけあて、警備はいたようです。いや、僕もそれなりに霞が関にいたので、なんとなくはそういう筋がいるとはわかていました。シークレトサービスや諜報機関とかの類です。さすがに僕の目の届くところにはいませんでした。しかたがねな女王は。この国は大丈夫かと笑ていた。もう、いいやと思た。ゴーグル?そんな野暮なものはこれからのデートにはいらない。本音をぶつけあえ。宿舎のホテルのトイレに捨ててきた。
 観覧車の前に行くとあの時の制服を着たシンが立ていた。さすがに大人の女性になたのかいきなり抱き着いてきたりはしなかた。
 開口一番。
「私のジスを買てきて」
 レモネードは君の国にはないだろと僕は言た。
「日本はあの頃のままで時が止まているのかしら?私の国は世界中のあらゆるものが入てくるようになたのよ」
 しかたがないので、僕は、売店はどこだと聞いた。
「もう、なんで私と一緒に行かないのよ。今夜の私はただの15歳の女の子」
 俺はまたもや笑てしまた。シンは変わていないのだ。久しぶりだ、こんなに愉快になたのは。あのデート以来だ。僕たちは二人で売店へ向かた。もちろん、手をつないでだ。
 もう、あの時の僕らに戻ている。ここは僕のおごりかと聞いた。シンは言た。
「経費なんて野暮なことをしなければ割り勘」
 相変わらずだ。でも、変わた点があた。
「A、スプライトでいい?」
 あはは。ここでその勝負をしてくれるか。うれしかた。
 俺は、それでいいと言た。
「覚えていたんだから。ここは勝負をしたわ。で、あなたはどんな勝負をしてくるの?」
 僕は決めていた。この国の権益を獲得するために日本が出す援助を。しかし、観覧車に乗る前にそれを言てはおもしろくない。大人になたシンとの、大人の駆け引きを楽しむことにした。
「ま、いいわ。観覧車に乗てからにしましう」
 僕ら観覧車に乗た。すると、シンは黙り込んだしまた。黒い髪がきれいだねと僕は言た。
「ありがとう、うれしい。あの青い髪は父への反抗でもあたのよ。でも、あれはあれで、かわいかたでしう。でもね、あの時、写真をAに渡さなかたのはそのためよ。あの時の髪のあれが出回るとそれなりに困るから。やんちな自分なんて恥ずかしいじない」
 僕は笑た。じあ、いまならくれるかと聞いた。
「この交渉が終わたらお祝いにね」
 それを言うと、ちと二人とも黙り込んだ。
「実は女王に即位してから、いや、Aとのデートの後からかな?男性と二人だけになるのは今夜がはじめて。いまさらだけど照れくさいの」
 実は僕もだた。あまりに知りすぎている女性と二人だけになるのも気まずいものだ。
「とは言え、Aの答えは聞いておかないと」
 僕は言た。嘘をつけないシステムの権益として港の権益。タワービルの権益としてエネルギーの日本の独占。どちがいいて?と聞いた。日本国への離反行為?当たり前だ。シン相手に中途半端な駆け引きなんてできるものか。シンは答えた。
「わかているじないA。もう、答えは言わないでわかるわよね。やと、まともな男を日本が寄越した」
 そこでお前はなにをやたのだと尋ねた。
「私はなにもやていないわよ。ただ、日本の首相に我が国も条件次第ではエネルギー権益を日本と取引してもいいていただけよ。この国には水素プラントがある。あと、これからの生産量の伸びしろを。それを言ただけ。Aが来るのは正直、予想外だたけど」
 あれれと思た。
「もう、一生、会えないかと思ていたのよ。ところで私たちの高校の先生がいまこの国にいるの。最初の協力をお願いした時に入ていたの。もし、私たちのことを知ているとしたら、その人だけよ」
 まさか、その先生が政府に?
「私も女王の端くれよ。さすがにAのことを名指したら公私混同よ。それはしていないの。むしろAが日本政府を脅したのかとでも思ていたわよ。でも、くだらないシステムがまだ残ている極東の国では、それは無理だし。ただね、その先生の授業は受けていたし、なにかのパーの時にこちらから挨拶をしてお礼を言たことがあるの。それはそれで女王としての立場としては別に感謝はしていたから。その時に先生が私を教えたことを覚えていたのはたしかよ。でも、Aのことを言た覚えはないの」
 これ以上のことを聞くのをやめた。詮索は無意味だ。ただ、いまを楽しもう。
 嘘をつけないシステム、あんなものは、ただ人を委縮させるだけだ。高校の先生にデートがばれていた。別にいいじないか。いや、高校の先生をなめちいけない。生徒間の色恋、刃傷沙汰には敏感なものだ。嘘のつけないシステムなど高校の先生の前では通用しないのだ。
 僕は最後に余計なことを言た、ところであの時、中学生だた妹とパーで握手をしたよと。いや、僕はそれ以上のことも言わなかたのだが。
「A、あんたて奴は」
 平手打ちをくらた。乙女心はわからない。でも思た。いいんだよ、これが人類ではないかて。
 その後、僕らは唇を重ねた。どちらからともなく自然にだ。そして、この国のイルミネーンが全部、灯り、僕らを祝してくれた。
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