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第21回 文藝マガジン文戯杯「Illuminations」
マジックスネークとエアリアル
(
hato_hato
)
投稿時刻 : 2022.11.05 01:32
字数 : 8127
〔集計対象外〕
1
2
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4
5
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感 想
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マジックスネークとエアリアル
hato_hato
マジ
ッ
クスネー
ク
僕は田村君の家のクリスマス会を後にした。今日はクリスマスイブ。家を出た時は陽が出ていたが、帰りは曇り空にな
っ
ていた。街の電灯がつきはじめていた。
田村君の家のクリスマス会は楽しか
っ
た。カセ
ッ
トビジ
ョ
ンのバトルベー
ダー
大会をや
っ
た。田村君の家にはルー
ビ
ッ
クキ
ュ
ー
ブもあ
っ
た。僕はまだルー
ビ
ッ
クキ
ュ
ー
ブを六面、揃えたことがない。うちにもルー
ビ
ッ
クキ
ュ
ー
ブがあ
っ
たらいいなと思
っ
ていた。
うちは貧しくはないが、あまり欲しいものは買
っ
てもらえないと言うか、父の一存だ
っ
た。一応、夏の誕生日にはリクエストを受けつけてもらえ、今年の夏の誕生日はガンプラ、ガンダムのプラモデルをプレゼントしてもら
っ
た。うちは貧しくないと書いたが、まだ子供を甘えさせち
ゃ
いけない
っ
て時代だ。しつけが重要視されていた。
父はそういう意味では厳格だ
っ
た。母もそこは同意していたようだ。とは言
っ
ても、母は、ま
ぁ
、母が夕食を考えるのが面倒にな
っ
た時だろうが、そういう時は僕に夕食のリクエストを聞いてきて、それを作
っ
てもらえ、そう厳しいわけでもなか
っ
た。カレー
が食べたいと言えばカレー
。ハンバー
グが食べたいと言えばハンバー
グを作
っ
てもらえた。それに父も反対するわけでもなか
っ
た。父は結構、舌が子供のところもあ
っ
て、僕が寝てから家に帰
っ
てきて夕食を食べると喜んでいたと母は言
っ
ていた。
いま思うと、この当時の父はそれなりの権力を持
っ
ていたのだろう。プレゼントでもら
っ
たガンプラはガンダム、ガンキ
ャ
ノン、ガンタンクの3機、3個だ。主人公側のモビルスー
ツのプラモで人気があ
っ
た。当時のガンプラの人気では店舗でそう買えるものではない。まだネ
ッ
トなんて当然ない。よく、父親は買えたものだと、いまでも思う。いまは都市銀行も3メガバンクにな
っ
てしま
っ
たが、父は上位都市銀行の本店勤務ではあ
っ
た。そのつてだとは思うが、まだ40歳手前の父にそれだけの権力があ
っ
たのがいまでも、なぜかはさ
っ
ぱりわからない。これは本編とは関係ないが、父は僕が大学を出て、就職をしたば
っ
かりの頃、バブルが崩壊した時期だ、勤務中に倒れ、そのまま旅立
っ
てしま
っ
た。父は舌が子供と書いたが、当時のバンカー
としては致命的なぐらいにアルコー
ルに弱か
っ
た。接待に行けないわけではないが、お酒が飲めず苦労していたらしい。だが、仕事ができないわけでもないようだ
っ
た。亡くな
っ
た時もかなり経営状況の悪か
っ
た取引先の建て直しに行内を代表したリー
ダー
として出向しており、行内ではそれなりに重宝されていた。それも大蔵省に漏れないように処理すると言う、かなり重要な案件だ
っ
たらしい。仕事はできた人だ
っ
たらしい。通夜も会社の人は支店時代の地方の人や融資先の方も参列されて人格的にはすぐれていて、周囲から信頼、慕われていたらしい。逆に言えば清廉潔白なぐらいで、だからガンプラを用意した謎が残る。そういうことをやるタイプでは僕の知
っ
ている限りではない。俺の心残りは父に孫を見せてやれないか
っ
たことだ。
さて、俺はガンプラを誕生日に買
っ
てもら
っ
たので、ルー
ビ
ッ
クキ
ュ
ー
ブはあきらめた。
ガンプラを持
っ
ていることでそれなりに友達からはうらやましがられた。塗装もしておらず、素組、説明書のままで組み立てたものだ。値段はともかく、その程度のできでも、子供の中の価値観で言えばルー
ビ
ッ
クキ
ュ
ー
ブ以上だ
っ
た。が、子供の欲望とはそんなものではすまない。
家に帰るのはゆううつではないが、父親のいないクリスマス。そんなに楽しいものではない。母と二人だけで過ごすのだ。サンタは来るかもしれないが、やはり子供心に父と一緒にすごせないことはさみしか
っ
た。母もそういうクリスマスがさみしいようだ
っ
た。
家は田村君の家から5分くらいのところにあ
っ
た。社宅だ。ただ、住んでいる行員の家族の中に子供を小中学校で私立に通わせている人もいなか
っ
た。みんな学区内の公立学校だ
っ
た。だから、社宅の外の子ともクラスが一緒にな
っ
て仲良くな
っ
たりしたら遊びの行き来があ
っ
た。社宅の中には小さながらも公園があ
っ
たりするので、そこに社宅の家族でない子も遊びに来ていた。おおらかな時代でまだそんなことを気にする人もいなか
っ
た。
社宅の僕の家は2階だ
っ
た。これはたまたま支店から本店に父が戻
っ
て来た時、たまたま空いていた部屋だ
っ
た。ただ、近所からいい部屋だと嫌味は言われていたらしい。母親はそれなりに社宅内の人間関係いやカー
スト制度にはうんざりしていたようだ。とは言え、母親はもともと父の銀行の情報システムを開発する大手の開発会社にいて、家で当時、出始めたPCのソフト開発の仕事をしていた。これで息抜きをしていた。これは、父がなくな
っ
た後に母に聞いたのだが、当時の収入は母の方が上だ
っ
たとのことだ。僕はいま、それなりに稼げるコンサルタントをや
っ
ているが、いまの僕のフ
ィ
ー
が当時の母のフ
ィ
ー
を上回
っ
たことがない。それぐらい稼いでいて社宅に住む必要などないと言うか社宅を出てマンシ
ョ
ンを買うぐらいの資金はあ
っ
た。ただ、父は頭取コー
スまでは行かないが、それなりに行内の出世コー
スには乗
っ
ており、そういうところで目立つのを父も母もいやがり、社宅を出なか
っ
た。母は父の仕事をする姿が好きだ
っ
たから、父を応援していた。これも本編とは関係ないが。母は妻としては父のことを尊敬していた。ただ女としては、さみしか
っ
たと僕の結婚式の前に言
っ
ていた。さすがに親子で、そこまで話はしないがもうひとり子供も欲しか
っ
たようだが、父とはすれちが
っ
ていたようだ
っ
た。
家についた。家の鉄製のドアのドアノブを回し、手前に開いた。部屋が暗か
っ
た。そこに母が出てきた。
「潤、おどろかないでね」
「おかあさん、なに?」
「はー
い、おとうさん」
お父さん?今日は木曜日。父がこんなに時間に家にいるはずはないのだから、なんだろうと思
っ
た。
と同時に部屋で電球のイルミネー
シ
ョ
ンが光
っ
た。赤、青、緑の電球だ
っ
た。
「潤、メリー
クリスマス!」
父のほがらかな声がした。
僕はよくわからなか
っ
た。
「おとうさん、どうしたの?」
「いやー
、上司にたまには家に帰れとおこられた。だめなおとうさんだな」
父はツリー
のイルミネー
シ
ョ
ンしか点いていない暗がりの中で苦笑していた。
母がすかさず。
「いいじ
ゃ
ないの、おとうさん。さあ、潤、ケー
キとチキンを食べまし
ょ
う。おかあさんもおとうさんが帰
っ
てこないと思
っ
て、たいしたものは用意していなか
っ
たの」
僕はリビングに入り、テー
ブルについた。
「ま
ぁ
、おとうさんもケー
キとチキンとコー
ラしか買
っ
てこなか
っ
たけどな」
僕はうれしか
っ
た。
「ありがとう。おとうさん」
「ま
ぁ
、今年だけかもしれないけどな」
僕たちはケー
キとチキンを食べ、こたつのある部屋に移
っ
た。