第21回 文藝マガジン文戯杯「Illuminations」
決戦の夜
投稿時刻 : 2022.11.14 05:50
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決戦の夜
勝共連合


 と言うより、晴海ふ頭公園からレインボーブリジを見ようなんて、和美からの誘い断らなかた俺がそもそも間違ていた。
 年の瀬も迫る頃に昔の会社の同窓会があり、新橋で集まていた。当時、一緒に働いていたメンバーが男性3人、女性は和美が1人の計4人。場所は新橋の静かな居酒屋。ま、新橋にはガキがいないので、数年前からこのメンバーで集まる時は新橋か有楽町になていた。
 わりと落ち着いた感じの和風居酒屋だた。料理も刺身から火を通したものまでいい。もう、酒類提供店の人数制限は終わていたが、リモートワークが増え、家から出てくるのが面倒と言う奴もいて、この数年は集まる人数も減ていた。かくいう、俺も去年は緊急事態宣言の最中で誘いを断ていた。もう、このメンバーとは20年越しの付き合いだ。当時は30歳そこそこでみんなぎらついていた。ただ、コロナがあたとは言え、それでも企業というものは冷酷でちんと出世の昇進競争はあり、もう俺たちはその競争での出番は終わていた。レース結果は出ていた。えらくなりすぎて集まりに来ない奴もいれば、逆もいた。実を言えば、当時からこの4人がえらく親しかたと言えば、それほどでもなかた。だいたい、一緒に働いていた頃から、その会社に残ているのは、今夜集またメンバーにはひとりもいなかた。会社に残ているのは、えらくなりすぎて出てこない奴だ。彼は、もといい店で飲んでいる。俺たちレベルのビジネスパーソンではちと手が出ない店だ。俺はとくにサラリーマンをやめて、季節働きのフリーランスになていた。そもそも、当時と同じ仕事すらしていなかた。金になればなんでもやていた。他の連中には、ちんとしろと言われていました。それでも、わりと収入も近いメンバーたので、なんとなく付き合いやすかた。
 なんか、こういう時、昔話をすると思われるようだが、わりとそれはない。そもそも、20年も経つと記憶がかなりあやふやで、当時、お互いにどこのポジシンにいたかも実は覚えていなかた。みな、それなりに生活が落ち着いて、話も落ち着いたものになる。ただ、ここで気づけばよかたのだが、和美はやけに俺のことを覚えていた。それも、それを今夜は話してくる。今夜の和美はグレーのワンピースを着ていた。シルバーの首飾りもしていた。あの頃は黒髪だたが、いまは淡く茶色が入ている。言うまい白髪隠しとは。俺もそれなりに髪も細くなり、白髪も増えた。ただ、年々会う度にお互い柔和な表情になていた。
「あの頃、恵介くんが乗ていたオープンカーはなんだた?」
「プジ。会社を辞めて金がなくなて売ちまたけどね」
「一度だけ私が助手席に乗たのは覚えている」
「いや、覚えていない。あれの屋根を開いてクライアント先に乗り付けて、目玉を食らたことしか覚えていない」
「もう、本当は覚えているのでしう(はーと)」
 ここでいい雰囲気と思うでしう?あなた。お互い、50歳を超えた身だ。ちなみに和美は独身で俺も独身だた。はい、いい関係になても問題ないです。ただね、友情と言うか、お互い、超えない一線てものをずと気をつけていたのですよ。今更ね、恋愛からはじめるのも俺は面倒なわけです。
 話を変えた。
「和美はいま、なにをしているの?外資に行たんだけ?」
「そこは、もう辞めた。いまは商社で社内SE。若い子の扱いに疲れるわ。で、リモートでし。恵介くんみたいにものわかりのいい男の子が最近は少なくてね」
 どうやら、俺は墓穴を掘たらしい。和美の頬は赤らんでいた。
「ちと、喫煙所に行てくるわ」、そう言て、俺は席を立た。
 これで一安心と思た。あまいぞ、俺。
 喫煙所で紙巻きたばこを吸ていたら、和美が来た。ちなみに俺は加熱式なんてなんじくなものは吸わんぞ。信念だ。これがヤクザなフリーランスになた理由でもある。喫煙所すらないオフスビルに閉じ込められるのは勘弁だ。
「ね、この後、あのクライアントのビルの近くへ行てみない?」
「晴海?」
「ええ、新しく公園ができて、夜景がきれいみたいなの」
 普通はここで断るだろう。どうなるかがわからないほど、俺もばかではない。でもね、女性にはじをかかせちいけないてのは、祖父の言葉だ。ちなみに祖父はまだ生きている。デケアで女性を泣かせているらしいておふくろに愚痴られていた。
「じあ、夜景を見るだけで」
「うん!」
 和美は20年前のプロジクトでひと段落した時にする飲み会でしていた笑顔になていた。それを断るわけにはいかないだろ?

 俺たちは新橋の駅前のタクシー乗り場から、タクシーに乗た。
 俺ははじめて、ジパンタクシーに乗た。おかしいな、リアシートはクラウンコンフトより広いはずなのに。なんか、席が狭い。
 和美が俺の肩にもたれていた。でも、なにも言葉を発しないのだ。そこで察して欲しかたのだろう。だが、俺は察しないのだ。手でも握ればよかたかもしれないが、それをやたら一線を越えてしまう。
 晴海交差点で、俺たちが働いていたビルを横切た時、和美は口を開いた。
「あの頃は若かたな
 これになにも言わないわけにはいかないだろ?しかたがない。
「いまもあの頃と同じくらいきれいだよ」
「あら、ありがと」。
 そう言て、和美は黙り込んだ。

 晴海ふ頭公園にタクシーはついた。ま、『若い』カプルがうじうじしていた。
 自撮りてやつをしていますよ。陽キですね。俺は陰キです。書いているやつがそもそも陰キですから、陽キは書けません。
 晴海ふ頭から見えるレインボーブリジと都心部はたしかにきれいだた。暗くなた海がさらに雰囲気をよくしていた。
 イルミネーンが輝く街。東京は夜の7時て感じだ。
「いま、くちずさんだのはピチカートフイブ?」
 俺は、照れて笑た。
「なんとなくね。でも、そんな気分だね」
「私を待たせないでね。てへ」
「ま、俺らの世代は好きだたものな」
「あれは何年の曲?」
「93年。ウゴウゴルーガのテーマ曲」
「そう、私が社会人一年生の時」
「和美は短大だたね。俺は大学三年で研究室で見ていた」
「ところで、二人で写真を撮らない」
 これはヤヴイ。証拠物件になる。と言うか、それ以外のなにがある。とは言え、気持ちがわからなくもないが。
「今日のために最新の夜景に強いスマホにしたから」
 もとヤヴイ。決戦は金曜日。核心へ迫りつつある。
 でも、ここまで来て断れない。一応、言ておいた。
「SNSにはアプしないよね?」
「しうがないな
 俺たちは七色にまたたくレインボーブリジをバクに写真を撮た。むろん、ちんとSNSにアプされていたのは言うまでもない。とは言え、なぐさめとも違うし、なんとなく、そういうこともあるのが大人の世界だ。
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