第72回 てきすとぽい杯〈紅白小説合戦・白〉
〔 作品1 〕
夢の住人、現の住人
投稿時刻 : 2022.12.10 22:58
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夢の住人、現の住人
犬子蓮木


 私はたくさん眠らなければならない。
 私がたくさん眠りたいわけではなく、体が要求している。
 普通の人間は、1日に8時間眠るらしいのだけれど、私は20時間眠らなければならない。そういう体らしいのだ。子供の頃からたくさん眠ていた。両親は心配して、私が眠ているときにいろいろなお医者さんに見てもらたらしいけれど、難しい病名がついただけで、私の睡眠時間が大きく変わることはなかた。
 だから私は、1日に4時間しか起きていることができない。
 だから私は、普通の生活を送ることができない。
 学校にも当然行けなかた。
 働きに出ることもできない。
 恋愛なんてしたこともない。
 だて4時間しかないのだ。起きて、生きるのに必要なことをしたら、それでもう残り時間はほとんど残ていない。機械に繋がれて、寝ている間に栄養をとたりしているけれど、それで私の時間が大きく増えるわけではない。
 これだけ眠ているのだから、なにかいいことがないのかとも思う。たとえば頭がすごく天才的だとか。でもそういうこともなかた。私の頭はどうも普通で、勉強する時間がないぶんだけ、普通の人より劣ているぐらいだ。
 起きている時間を人生とすれば、私は普通の人の1/4しかないことになる。
 それもまとまてとれないから、なにかやろうとしてもすぐ眠る時間だ。
 時間が来たら眠てしまうし、起きることもできないので、気軽にでかけることもできないのだ。
 夢。
 普通の人は夢というものをよく見るらしい。将来の、とかではなく、寝ているときのやつだ。私はほとんど見たことがない。どうしてこんなに眠ているのに夢を見ないのかと思たけれど、どうも夢というのは記憶の整理のために見るもののようで、つまり私には整理すべき記憶もほとんどないということなのかもしれない。いつも眠ているから。
 またく、夢も希望もありしない。

 と、昔は思ていた。だけど私には夢や希望ができたのだ。
 こんな私が待ち望んでいたものが今日やてくる。
 それは夢を自由に操る機械だ。
 希望のストーリーなどを入力した機械を頭に取り付けて眠ると見る夢をそのとおりに好き勝手できる装置らしい。またく、一般の人間どもは普段、好き勝手生きられるんだから夢ぐらいほとけばいいのに、と思うけれど、そんな人達の望みのおかげで研究資金が集まり、機械を作ることができたらしいので、感謝しようとは思う。ありがとうございました。
 私はずと眠ているので、この機械を使えば、20時間を自由にできるということだ。
 普段、夢を見ないのに、ないものを操作できるのか気になたけれど、そこはうまく行くらしい。
 これで私は学校にいける。
 お金は稼げないけど、夢の中で働いたりもできる。
 友達を作たり、恋人を作たり、普通の人の暮らしを味わうことができるのだ。たとえそれが仮初の夢の中だとしても。
 まだまだ機械が大きく、ごつごつしていて、眠りにくいらしいのが問題とのことだけど、それは私には関係ない。普段からいろいろなものを体につないで、そこから栄養を得たり、私の体からとれるデータを売て、私は生活するためのお金をもらている(というていで、生かしてもらている。実際、あまり世のために有効なデータはとれていないらしい)。
 ああ、楽しみだ。
 今日はまず学校に行くのだ。
 明日は仕事か。いや、学校にも種類はいぱいある。まずは小学校から順番にやていくべきか。アルバイトとかもしてみたい。友達もつくるんだ。

 部屋の外で音がした。研究者の人たちが、機械を持てきてくれたらしい。
 入てきた人たちに、挨拶をする。研究者の人たちがいろいろ機械を組み上げていく。
 私はとてもワクワクしていた。
 この機械のおかげで私は普通の人のような生活を送れるようになるのだ。

「準備できたよ」
「ありがとう、リカねえ」

 リカねえ、隣の家に住んでいた。子供の頃、よく遊んでもらた。リカねえは、きれいで、頭がよく、努力家で、お医者さんになり、研究者になり、この機械を作てくれた人だ。
 私は昔からリカねえの話を聞くのが好きだた。学校に行たこと、アルバイトに出たこと、友達のこと、男の子に告白されたけど断たこと、聞いていると私もそんな生活をしているような気持ちになた。だけど、現実では違くて、うらやましい気持ちもあた。
 どうして私はリカねえのような普通の人間に生まれてこなかたのだろうと。

「大丈夫?」リカねえが少し心配そうに言た。
「なんで? ワクワクだよ。夢の中で、私は学校に行くんだ」

 この機械に大きな危険はないとされている。一般の人の協力で確認されているし、なにか被害が出たこともない。まあ、ちと楽しすぎてはまた人がいるとかは聞くけど、そんなものはゲームなんかと一緒だ。
 私の頭や体が特殊なので、もしかしたら、体調が悪くなたりする可能性があり、今日まで慎重に調べて来た。でも、問題があたらすぐ外せばいいだけなのだ。しばらくの間は、リカねえ達がちんと交代でデータを見てくれる。またく、リカねえは心配性だなあ。昔から、そうなのだ。

「ならいいけど」まだリカねえの顔はすぐれない。
 それでもリカねえや他の研究者の人達の手は止まらず、ついに私の頭にごつごつした機械がはめられた。機械には私が以前から望んでいたストーリーが設定されている。
「それじあ、行てくるね!」
「おやすみなさい」

 こうして、私の人生がはじまた。           <了>
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