てきすとぽい
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◆hiyatQ6h0cと勝負だー祭り
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キャッシュをデリバリーした記憶
(
MOJO
)
投稿時刻 : 2024.07.23 23:16
字数 : 5056
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キャッシュをデリバリーした記憶
MOJO
「今年の夏も台風が多いでし
ょ
う」
テレビで気象予報士がいう。
梅雨も明けぬうちから、報道される九州地方の水害映像はまるでパニ
ッ
ク映画の特撮のようで、画面に見入
っ
ていると、リアルに起きていることなのにどこかシ
ュ
ー
ルな心持になる。
台風といえば、おれにはこんな思い出がある。まだ若い頃、塾の講師をしていたころの話。
おれは大学をしくじり、しばらくガテン系のアルバイトを続けた後、アメリカ、カリフ
ォ
ルニア州の大学に留学した。留学とい
っ
ても、正規の学生にな
っ
たわけではない。通常、アメリカの大学には、英語力が不十分な外国人留学生のためのクラスがあり、おれはそういうクラスに籍を置いていた。そのクラスでは毎学期末、正規の学生たちが期末試験を受けるのと同時期に、TOEFL、という留学生の英語力を審査するテストを受けることが義務付けられていて、そこで基準に達した者が、次の学期からはレギ
ュ
ラー
の学生になる仕組みにな
っ
ている。おれはそのクラスに在籍し、もう少しで基準に達すところで、実家の経済が破綻しやむなく帰国した。
帰国してみると、実家は渡米前とは様子がまるで違
っ
ていた。広い一戸建てだ
っ
た住まいは市営団地に変わり、その狭い一室に両親と高校を中退し髪を赤く染めた弟に加え、二匹の犬が同居していた。
ここには自分の居場所がない。
そう悟
っ
たおれは、新聞の求人広告で小中学生向けの英会話スクー
ル講師の職を見つけ応募した。運良く採用され、千葉の郊外にマ
ッ
チ箱のような小さい借家を借り、犬たちを引き取り、おれの塾講師としての生活は始ま
っ
た。
一学期が終わり、講師稼業も板に付き始めたころ、その英会話スクー
ルが、生徒たちの夏休みを利用し、サマー
キ
ャ
ンプを企画したのである。
アルバイトの講師たちは、なかば強制的に引率に駆り出された。参加しない者は、二学期以降、採用しない場合もある、などと遠まわしに脅されたのだ。おれは通常、中学生のクラスで教えていたが、そのときは小学生男子のグルー
プの引率を任された。
当日の早朝、集合場所のJR某駅前ロー
タリー
には、色とりどりの傘をさす子供たちで溢れていた。そのとき、関東には台風が接近していたが、運営側は見切り発車で決行するつもりでいたようだ。子供たちは100人以上いたから、決行すれば徴集したキ
ャ
ンプ費用から手配を依頼した旅行会社に支払う手数料を引いても美味い儲けにな
っ
たのだろう。中止にすれば、手配された観光バスや宿泊施設の費用が、当日キ
ャ
ンセル、として無駄になり、生徒の親達から徴収した費用を返却したら赤字になる。運営側にはそういう思惑もあ
っ
たのだろう。
雨足は強まる一方だ
っ
たが、子供達はロー
タリー
沿いにコの字に配車されたカラフルな観光バスに乗り込んだ。三号車の最前列の席に座
っ
たおれは、運転席のラジオが「この雨は台風に変わる模様」と告げるのを聴いた。この時点で、おれはまだ、中止、を予想した。しかし数分後には豪雨のなか、バスは隊列を組んで発車した。
まあいいさ。台風なら宿泊施設に缶詰になり、一晩泊
っ
て帰
っ
てくるだけのことであろう。おれはそう高を括
っ
ていた。
観光バスは左車線をキー
プしながら、中央高速を走る。風がごうごうと唸り、横殴りの激しい雨が車窓を打ちつけている。ワイパー
は最速モー
ドでフロントガラスを拭いているが、視界はあやふやで交通標識や中央分離帯の輪郭が滲んでいる。
相模湖インター
から一般道に降りたバスは、うね
っ
た坂道を登
っ
てゆく。つづれ折りの山道が続く。車窓から見下ろす谷底にカフ
ェ
オレ色の濁流が流れている。落石注意、の標識がところどころに立
っ
ているが、運転中にどうや
っ
て落石に注意しろというのだろう。落石、という以上は上から下へ落ちてくるはずであり、ドライバー
の視線は常に水平を保つものではないか。
そんなことをぼんやり考えるうち、ワイパー
が放つ擬音とそのリズムが耳から離れなくな
っ
てくる。ギ
ッ
コ、ギ
ッ
コ、ギ
ッ
コ、ギ
ッ
コ。山の神がおれにメ
ッ
セー
ジを発しているが如く、おれは軽いトランス状態に陥
っ
てしまう。ギ
ッ
コ、ギ
ッ
コ、ギ
ッ
コ、ギ
ッ
コ。バスが山の奥地にあるキ
ャ
ンプ場に到着したのは夕刻に近か
っ
た。
着いてみると、キ
ャ
ンプ場はおれの予想を裏切るものだ
っ
た。おれは箱物の民宿のようなものを考えていたのだが、そこは山の斜面にバンガロー
が点在する本格的なキ
ャ
ンプ場だ
っ
た。暴風雨に針葉樹の森は揺れ、轟々と音を立てていた。バンガロー
とバンガロー
を結ぶ畦道には雨水が滝のように流れている。あの小さなバンガロー
のひとつに、小学生のガキどもと缶詰になるのか。そう思うと、おれは暗澹とした気持ちになるのだ
っ
た。
強い雨風は一向に止む気配をみせない。そのため屋外に設置された炊事場は使用不可にな
っ
ていた。唯一煮炊きの出来る管理人の住居が仮設の本部となり、そこで炊き出された握り飯とタクアンの夕食を食い終わると、狭いバンガロー
のなか、することはなくな
っ
てしま
っ
た。子供たちのするトランプも、どうにも付き合う気にはなれない。予想の範疇とはいえ、退屈であること極まりない。
「おい、おまえら。プロレス好きなやついるか?」
おれはトランプに興じる子供たちに訊いてみた。
「ぼく、ダイナマイト・キ
ッ
ドが好きだよ」
子供の一人が言う。
「ほー
、おまえ、通だな。あれは中々良いレスラー
だ。あいつの、ロー
プ最上段からのフライング・ヘ
ッ
ドバ
ッ
トは凄いよな」
「うん。先生、プロレス好きなの?」
「好きだよ。おまえら、ブレー
ンバスター
の掛け方、教えてやろうか」
「え? でも痛くないの?」
「大丈夫、こうすれば痛くないさ」
おれは、隅に積まれていたマ
ッ
トレスを小屋い
っ
ぱいに敷いて特設のリングを作
っ
た。
「ブレー
ン、バスター
!」
大げさに叫びながら子供たちをマ
ッ
トレスの床に投げる。手加減しているから痛くはないはずだ。
「ぼくにもや
っ
て!」
子供たちは既にトランプには興味がないようだ。おれは群がる子供たちを順番に投げる。
「よし、次はダブルアー
ム・スー
プレ
ッ
クスを教えるぞ」
「それでは、これから卍固めの脱出方法を教える」
狭いバンガロー
は、いつの間にか、プロレスの道場のようにな
っ
ている。外の豪雨は、夜更けても降り止む気配を見せない。そんなふうにしておれは退屈な時間をやり過ごしたのだ
っ
た。
翌朝は昨夜の暴風雨がうそのような快晴だ
っ
た。それでもキ
ャ
ンプ場の中心を流れる渓流は茶色く濁
っ
ていて、当初の予定表にあ
っ
た魚釣りとバー
ベキ
ュ
ー
は中止となり、バスは山を下
っ
た麓にある相模湖ピクニ
ッ
クランドへ向か
っ
た。
台風一過の影響か、バスを降りると猛烈な暑さで、アスフ
ァ
ルトの駐車場は陽炎にゆれていた。子供たちは昨日の分を取り戻すが如く、勢いよくバスから飛び出してゆく。
子供たちがバスに戻
っ
てくる集合時間までのあいだ、おれは駐車場に隣接した喫茶室で講師仲間のジ
ェ
ー
ンと話し込んでいた。ジ
ェ
ー
ンは日本文学を専攻する大学院生で、アメリカ人留学生である。
「ジ
ェ
ー
ン、昨夜はどうしていた?」
「夜通し、ア
ィ
ワナゴー
ホー
ム、と心の中で呟いていたわよ。太一はどうだ
っ
たの?」
「おれは子供たちにプロレスの技を教えていた。おかげで退屈しなか
っ
たよ」
「それはそうと、太一はアメリカの大学に復学しないの?」
「したいけど無理さ。アメリカの大学は外国人には冷たいからな」
「そうかな。アメリカは日本と比べると外国人に寛大よ」
「それはそうなんだが。州立大学なのに月謝が高すぎるよ。おれがいたのはカリフ
ォ
ルニアだ
っ
たが、州内に戸籍がある者は日本の国立大学程度の月謝で、州外から来るやつはそれよりいくらか高い月謝を払う。しかし外国人は日本の私学並に高い月謝を払わなければならないんだぜ?」
「それは知らなか
っ
たわ。わたしの大学では日本人も留学生も月謝は同じよ。わたしは生活費を稼ぐために講師のアルバイトをしているけど」
「ジ
ェ
ー
ン、日本文学ではどんな作家が好きなんだい?」
「太宰治かな」
「へえ、太宰か。日本じ
ゃ
あれは麻疹
っ
ていうんだぜ? だれもが一度は罹る病気のようなものでさ」
「うん。それはよく聞くよ。でも太宰は谷崎や川端のように外国の文学を読んでいる
っ
て気がしないのよね。初めて読んだとき、このひとはわたしの代弁者、と思
っ
たの」
「へー
、そういうものか。太宰は文章がチ
ャ
ー
ミングで、そのせいで日本じ
ゃ
エバー
グリー
ン作家のひとりだが、まさかアメリカ人の女の子までイカれるとは思わなか
っ
たよ」
ジ
ェ
ー
ンと話し込んでいるうちに集合時間になり、子供たちはバスが並ぶ駐車場に集ま
っ
てきた。
台風が過ぎ去
っ
たあとの美しい夕焼けを背にして、バスは中央高速を東京方面に走る。途中、調布ICの手前から渋滞したが、バスは日が沈む前にJR某駅ロー
タリー
に到着し、サマー
キ
ャ
ンプは無事に終了した。
ところが数日後、ややこしい問題が起きたのである。
おれは、校長室のソフ
ァ
ー
にかしこま
っ
て座
っ
ている。
「じつは、きみに対するクレー
ムがあ
っ
てね」
スー
ツの前ボタンを外した校長がきりだした。
「はあ、どんなことでし
ょ
うか?」
「きみは、あのキ
ャ
ンプで子供に暴力をふる
っ
たそうじ
ゃ
ないか」
「暴力です
っ