第76回 てきすとぽい杯
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非違なるもの
投稿時刻 : 2024.10.19 23:59
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非違なるもの
うらべぇすけ



「それはさすがに君、非違行為じないかね」
 居酒屋の隅のテーブルでビールジキを傾ける大学生ふうのふたり組。そのテーブルに広げられた写真に、眼鏡の男が眉をひそめる。これでは、ただの盗撮だ。しかし、もうひとりの男は、信じて疑わない。これは、昔、死んでしまた恋人の生まれ変わりなのだと。
「そりあ、良くないとは思うけどさ……これを見てよ。明らかに、なにかが取り憑いている。この白いモヤみたいなもの。きと翼なんだ」
 ああ、そうか。眼鏡の男がため息をつきながら、写真を取り上げて、じくりと眺める。対象者は、四、五歳くらいの女児。こんなものを撮ていると知られれば、保護者にどつき回されて、警察に突き出されるだろう。女児の背中には、確かに友人の指摘するように翼とも取れる、白いモヤがあるが。光の加減のせいだろう、と写真を裏返して返す。そろそろ、こいつと友人を辞めるときが来たのかもしれない。
「すまない、君の元恋人というのは、翼でも生やす天使かなにかだたのかい。ああ、いや。認識の話をしているのではない。君からすれば、彼女は天使であただろうが、ここでは生物学的な話をしている。なぜ、翼が生えていたら、君の恋人と断定できるのか、その点、わかりやすく、天地を衝く勢いで話をしてもらいたいものなのだが」
 と、眼鏡の男が、スマートフンをテーブルに置いて、エマーンシーモードで一一〇をタプしておく。話のいかんによては、このままコールだ。
「待てよ、早またらダメだて。これには、ちんとした根拠があるんだ。いいかい、人間というのは、死んだらどこに行くと思う? そりあ天国か地獄か、そういた目に見えない世界に行くじない。これはそういうことだよ」
 一ミリも理解させるつもりがないのは、よくわかた。眼鏡の男がコールボタンの上に指を掲げる。
「ああ、だから待てば。こんな白いモヤが出ているのは、まず、この子は人間じないてことなんだ。それはわかるだろう。普通、こんなにも都合よく、白いモヤが撮れるなんてこと、あり得ない」
 と、わざわざ、ひくり返してやた写真を、次々にオープンしていく。料理を持てきた店員が、ヒ、と声を上げて、足早に去ていく。どうやら自分が通報するまでもなかたか、と眼鏡の男が目を細めながら、身を引く。
「ほら、連続一週間、時間帯も場所もすべて異なるのに、必ず、この位置。ここに白いモヤがある。僕だて、煙かなにかとか、光の加減かなて疑たよ。でも、これだけ同じ場所に写り続けるなんておかしいでし。それに、服を脱いでも写るんだ。この写真を───」
 男が写真をひくり返そうとするのを、眼鏡の男が必死に抑え込んで、非違行為の自白を止める。児童ポルノ製造罪だ。それをわたしに見せるのだけはやめてほしい。
「君はいたい、公衆の面前でなにを見せようというのだね。わたしは、まだ人生に希望を持ている。君は、これをいつどこでどうやて撮影したのか、それを説明すべきなのは、わたしではなく、取調室の捜査官たちだ。いいか、罪は素直に認めたほうがいい。ああ、なんと恐ろしい友人を持てしまたのだ。悪いが、留置所には見舞いにいかんぞ」
 風呂場でも覗いたのだろうか。最悪な友人だ。いや、友人から知人に格下げだ。馬鹿者。
「そんな、やましいものじないて。これを見れば、この子が人間じないてわかるからさ」
 あ。眼鏡の男の手を強引に跳ね除けて、知人が写真をオープンにする。眼鏡の男は思わず、眼鏡を片手で叩き落として、宙を向く。やめろ、わたしを共犯にでもするつもりか。
「ほら、よく見て。この子、身体が全部モヤなんだ。人間じない決定的証拠だよ。これで、この子が人間とは異次元の存在であることはわかてくれたよね」
 眼鏡の男の視力は自慢ではないが、眼鏡を外せばほとんどぼやけて見えない。見えないが、鼻先に突き出されてしまえば、見えてしまう。ええい、やめないか。わたしは、まだ捕まりたくない。
「落ち着きたまえよ、君。仮に、その女児が人間ではなかたとしよう。そして、君はその決定的証拠をついに捉えた。素晴らしい。人間の偉業を果たしたのだ、この世に次元違いの世界が存在することをな。すぐにでも、家に帰り、論文の制作に取りかかるべきだよ。そうして、注釈にでも書くといい。『この写真は、人間ではないことを疑い、庭に不法侵入して、女児の入浴する風呂場の窓にカメラを差し入れて撮影されたもの』とな。君はなにをやているんだ。女児が人間であろうが、なかろうが、それはただの覗きであり盗撮であり児童ポルノ製造である。付きまといも追加されるな。二度と、君はこの辺には住めなくなるだろう。そして、わたしはそれを強く希望する。すまない、早く捕まてくれないか」
 本当に、知人はどうしてしまたというのだ。死んだ恋人の面影があて付き纏た。まあ、わからない心情ではない。次に、写真に収めた。ギリギリ、わからなくもない。しかし、女児を自分の恋人と疑い、あまつさえ、異人間の嫌疑にかけて、入浴シーンを撮影する。これはまたく、理解できない行為だ。
「だから、結論は急いだらダメだて。いいかい。彼女は生前、よく言ていたんだ。『もし、わたしが死んでも、君。悲しむことはない。わたしは身体から思考体が抜けられる特異的な人間なのだ。それを幽霊とも言えるし、アセンシン体とも言える。とにかく、君。白いもやを見つけたら、それをわたしと思うんだよ』てね。これでわかてくれたかい。この子は、間違いなく、彼女の思考体そのものなんだ」
 ああ、本当にバカなやつだ。そういうことなら、白いもやそのものが、その彼女と言えるだろう。つまり、入浴中の女児の全裸が写らないよう配慮して、身体に取り憑き、君を変態にしないようにしてくれたのだ。背中に見えるものも、撮るな、と言ているようにしか見えないだろうに。
 居酒屋の扉が開き、警察官たちが三人ほど入てくる。やれやれ、これでは、わたしまで巻き込まれてしまうじないか。警察手帳を示して、警察官たちに囲まれるなか、眼鏡の男は、床の眼鏡を拾て蔓を耳にかける。どうだい、わたしはなにも見ていない。頼むから、取り調べだけにしておいてくれ。テーブルの上の写真を覗き込む男性警察官の後ろに立つ女性警察官を見る。その彼女がニカ、と笑て言た。
「じ、児童ポルノ所持罪で現行犯逮捕ね。詳しい話は署で聞くわ。そこのあなたも。話を聞かせてもらうから。ほら、ふたりとも立て───○○移動交番から本部。午後八時二〇分、通報店内にて児童ポルノ所持罪で男一名を現逮。同席の女性一名を参考人として取り調べを───」
 またく、君には参らされるよ。いつになたら、現実を認識するのか。ちんと写てやてただろ、ツートのときに。いくら、君。わたしがシトカトで、三原山のようななだらかな胸だからと言て、男だと思い違いされるのは、さすがにシクなのだがな。眼鏡をかけた女は、肩をすくめて、警察官たちの後に続いた。
付記
投稿締め切りテラ間違えてて草。
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