てきすとぽい
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第77回 てきすとぽい杯
〔 作品1 〕
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怨霊はすぐそばに
(
月狂 四郎/月狂 紫乃 アルファポリス「第7回ホラー・ミステリー小説大賞」参加中!!
)
投稿時刻 : 2025.05.17 23:28
字数 : 2480
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怨霊はすぐそばに
月狂 四郎/月狂 紫乃 アルファポリス「第7回ホラー・ミステリー小説大賞」参加中!!
「ねえ、今の人だれ?」
言いながら、あたしは見てはいけないものを見てしま
っ
た気がした。スマホで推しの写真を次々とめく
っ
ていく颯太は、さ
っ
き映り込んだものに気付いていないのか。
「いや、別に。逆に何か映
っ
ていた?」
いや、なんでも
……
ない。
あたしは口にまで出かけた幽霊という単語を飲み込む。でも、ついさ
っ
きに次から次へと出てくるアイドルの中に、明らかに青白い顔のヤバい奴が映り込んでいた。
――
なんて言うか、伽椰子さん?
そんな感じの女性が一瞬だけ映り込んで、他のアイドルの写真と同様にサ
ッ
とめくられてい
っ
た。
喫茶店のざわめきが遠くに感じる。さ
っ
きの幽霊はもう見えなくな
っ
ていたけど、背筋の冷たさは消えない。颯太はまだスマホをスワイプしながら、推しの新曲について何か楽しそうに話している。でも、あたしの頭はさ
っ
きの「それ」でい
っ
ぱいだ。颯太の話がま
っ
たく頭に入
っ
てこない。
あれは何だ
っ
たの? あたしの見た幻覚? いや、でも明らかにヤバそうな顔の女が映
っ
たよね? いてもた
っ
てもいられなくて、あたしは颯太へ抗議するように話しかける。
「颯太、ち
ょ
っ
と待
っ
て。さ
っ
きの写真、もう一回見せてよ」
「どうしたよ、急に?」
颯太は明らかに怪訝な顔をしていた。それほどあたしの様子はおかしいらしい。
「まあ、別にいいけどさ」
颯太はスマホを差し出して、さ
っ
きのアイドルの写真をこちらへ見せてくる。キラキラした笑顔の推しが画面い
っ
ぱいに映る。背景にはライブ会場の色とりどりのライト。あたしは勝手に画面をスワイプしまく
っ
て写真を前のものへと戻していく。でも、さ
っ
きの青白い顔はどこにもない。
「なんか知り合いでもいたの?」
「いや、違うの。も
っ
と前、ほら、さ
っ
きスワイプしてたやつ。」
あたしは焦りながら颯太の手を止めて、画面を戻そうとする。でも、颯太は怪訝な顔でじ
っ
とあたしを見ている。その目は、明らかにヤバい奴を見る目だ
っ
た。
「何?
なんか変なことでもあ
っ
た?」
颯太は笑いながら、でもち
ょ
っ
と興味を持
っ
たみたいに画面をスクロー
ルし始める。
何枚か戻
っ
たところで、指がピタ
ッ
と止ま
っ
た。颯太の顔から笑顔が消える。画面には確かにそいつがいた。青白い顔、長く垂れた黒髪、目だけが白く光
っ
てる女。伽椰子さんみたいな、見てはいけないやつ。
「な、なにこれ
……
?」
颯太の声が低くなる。普段は能天気なやつなのに、さすがにこれはヤバい
っ
て気づいたらしい。あたしは唾を飲み込む。
「颯太、これ、いつ撮
っ
た写真?」
「え、こないだのライブ
……
先週の土曜、渋谷の会場で
……
」
颯太は目を離さず、画面を拡大しようとする。でも、指が触れた瞬間、画面が一瞬ブラ
ッ
クアウトして、すぐに元のアイドル写真に戻
っ
た。女の姿は消えている。
「何だよ
……
? なんだよ、今の?」
颯太が慌てて写真をチ
ェ
ッ
クし直すけど、もうどこにも「それ」はない。あたしは心臓がバクバクしてるのを感じながら、テー
ブルに置いたカフ
ェ
ラテのカ
ッ
プを握りしめる。冷めき
っ
たコー
ヒー
が手に冷たい。
「見なか
っ
たことにしよう」
「
……
うん」
それでいいのかと思
っ
たけど、ホラー
映画でこういうミステリー
を追及した登場人物は大体が死ぬ運命にある。あたしはまだ死にたくはない。そういうわけで、さ
っ
きのは見なか
っ
たことにした。颯太もき
っ
と同じ意見だろう。
せ
っ
かくのデー
トがホラー
体験になり、怖くな
っ
たのでお開きとな
っ
た。だけど、夜にあいつが出たらどうしようという至極当然の考えが浮かんできて、今日ばかりは一緒にホテルで過ごそうとな
っ
た。
ホテルの部屋に入ると、あたしはとりあえずシ
ャ
ワー
を浴びて落ち着こうと決める。
颯太はベ
ッ
ドに転が
っ
て、またスマホをいじり始める。
「もう写真見るのやめなよ!」と叫びながらバスルー
ムに向かうと、颯太は「はいはい」と笑
っ
て手を振
っ
た。
シ
ャ
ワー
で頭を冷やした後、ふと思いついて、スキンケアでもしようかと洗面台の鏡の前に立つ。昨日買
っ
たフ
ェ
イスパ
ッ
クを試してみよう。
パ
ッ
ケー
ジを開けて、冷たいパ
ッ
クを顔に貼り付ける。鏡に映る自分の顔が、青白いパ
ッ
クで覆われて笑えるビジ
ュ
にな
っ
た。髪をタオルでざ
っ
と拭いて、濡れたままの黒髪が顔に垂れる。うわ、ち
ょ
っ
とホラー
っ
ぽいかも。
ふとスマホを手に取
っ
て、ノリでセルフ
ィ
ー
を撮
っ
てみた。パ
ッ
クした顔、濡れた髪、薄暗いバスルー
ムの照明。
「わ、ガチで伽椰子感」
自分で撮
っ
ておきながら、ち
ょ
っ
とゾ
ッ
とする。颯太に見せたらビビるかな
っ
て、ニヤニヤしながら部屋に戻る。
「颯太、これ見て!」
スマホを突き出すと、颯太が一瞬で飛び上が
っ
た。
「うわあああああ
っ
!
何!?
またあの女!?」
「は?
何
っ
て、あたしだよ。パ
ッ
クしたセルフ
ィ
ー
」
あたしは笑いながら画面を見せる。確かに、青白いパ
ッ
クと垂れた黒髪、照明の加減で目がち
ょ
っ
と光
っ
てる。さ
っ
きの写真の「ヤバい女」とそ
っ
くりだ。
颯太は目を丸くして、しばらく固ま
っ
てたけど、急に大笑いし始めた。
「マジかよ!
お前、め
っ
ち
ゃ
怖えよ!
っ
ていうかさ、さ
っ
きの写真、あれお前のセルフ
ィ
ー
が混ざ
っ
てたんじ
ゃ
ね?」
え、待
っ
て。確かに、颯太のスマホにこのセルフ
ィ
ー
を送
っ
た記憶はないけど、クラウドで写真が同期されてた可能性は
……
あるかも?
あたしは急いで自分のスマホのアルバムをチ
ェ
ッ
ク。すると、昨夜撮
っ
たパ
ッ
クセルフ
ィ
ー
が、確かにクラウド経由で颯太のスマホにも共有されていた。ライブの写真の間に、誤
っ
て混ざ
っ
ち
ゃ
っ
たんだ。
「え? ガチで? これ、私の顔だ
っ
たんだ
……
」
あたしは恥ずかしさで顔を覆う。颯太は腹を抱えて笑
っ
ている。
「やばい、最高のホラー
体験だ
っ
たわ! お前のパ
ッ
ク姿が伽椰子さんとか、才能ありすぎ!」
颯太は涙を拭きながらまだ笑
っ
てる。
結局、恐怖の正体はあたしのスキンケアだ
っ
た