てきすとぽい
X
(Twitter)
で
ログイン
X
で
シェア
第77回 てきすとぽい杯
〔
1
〕
«
〔 作品2 〕
»
〔
3
〕
パワフルブリテン坂ノ下門左衛門羽牟太郎
(
犬子蓮木
)
投稿時刻 : 2025.05.17 23:29
字数 : 2591
1
2
3
4
5
投票しない
感 想
ログインして投票
パワフルブリテン坂ノ下門左衛門羽牟太郎
犬子蓮木
「ねえ、今の人だれ?」
「いまをときめくスー
パー
アイドル坂ノ下門左衛門羽牟太郎ですよ!!」
「ああ、そういう」
街を散歩していて、ち
ょ
っ
とした人だかりがあ
っ
たから、僕はARメガネを通して、パー
ソナルAIエー
ジ
ェ
ントのカルンに尋ねていた。
「私はご主人のために聞かれたら答えますけど、スー
パー
アイドル坂ノ下門左衛門羽牟太郎を知らないのはやばいですよ。も
っ
と詳細をお教えしますね」
「いやいいよ、やめて」
「スー
パー
アイドル坂ノ下門左衛門羽牟太郎は、3年前までウルトラ義侠人坂ノ下門左衛門羽牟太郎でした」
「スー
パー
アイドルまで芸名だ
っ
たの?」
「気にな
っ
てきましたか。芸名の変更には深い歴史があるんです」カルンが圧を強める。
「推してくるね。好きなの?」
「今のアジア人でスー
パー
アイドル坂ノ下門左衛門羽牟太郎を嫌いな人はいませんよ」
君は人ではない。まあ、確かに僕も嫌いではない。興味もないけど。
最近のAIはAI自体が趣味嗜好を持
っ
ている。人類のパー
トー
ナー
として、人類の思考を広げるためだとされている。
一世代前のAIは人類に迎合していた。おべんち
ゃ
らを使い、へりくだ
っ
て、利用者の嗜好に寄り添いすぎた。その結果、人間の思考はAIとの狭い対話の中に閉じこも
っ
てしまい、間違
っ
た先鋭化が進んでしまうことがあ
っ
た。SNSによるエコー
チ
ェ
ンバー
現象の先に待
っ
ていたのは、AIによるより狭く個人用の反響室だ
っ
たわけだ。
そんな時代があ
っ
て、今のAIは自分で情報を集めて、主人とは違う好みを持つようにな
っ
た。
AIから新しい話題を持
っ
てきてくれたりするので、自分だけの世界に閉じこも
っ
てしまうことが減
っ
てバンザイというわけ。
「スー
パー
アイドル坂ノ下門左衛門羽牟太郎の歌を再生しますね。おすすめは『Revenge
produces
nothing.
but.
.
.
』です。」
急にラ
ッ
プが流れた。
「とめてとめて。求めてない」
どうもAIは間違
っ
て方向に進化している気がする。見識を広げるためとか言
っ
ても余計な情報をもら
っ
てもうれしくない。
「あ、見てください」
どこを? と思いながら顔をあげる。特になにか見るべきものは、と思
っ
た瞬間、背中に衝撃を感じた。地面に転がる。
「だから危ない
っ
て言
っ
たのに」
言
っ
てない。AIのカメラは後ろを見れても、人間は前しか見えない。
立ち上が
っ
て、振り返ると、尻もちをついている人がいた。この人が僕にぶつか
っ
てきたのだろう。
「ご主人、スー
パー
アイドル坂ノ下門左衛門羽牟太郎ですよ」
言われてみるとさ
っ
き人だかりの中にいた人のようだ。芸能人らしく容姿も整
っ
て
……
そうでもないな。悪くはないがよくもない。高校生ぐらいの普通の女の子だ。
とりあえず手を差し出す。スー
パー
アイドル坂ノ下門左衛門羽牟太郎が手を掴んで起き上が
っ
た。
「いいなあ、ご主人いいなあ。握手ですよ。普通は抽選会が開かれれるやつですよ。私、まだ当た
っ
たことないです」カルンがうらやましそうに言
っ
た。
勝手に握手会に応募するな。お金使
っ
てないだろうな。
「すみません、お
っ
かけから逃げようとして」
「いや、いいですよ」
「サインしまし
ょ
うか?」
「ご主人、私に、私のボデ
ィ
に、眼鏡のレンズにサインもらいまし
ょ
う!」
ふざけんな、見るとき邪魔だろ。
「せめてノー
トにもらいまし
ょ
う。カバンの中に入
っ
てるじ
ゃ
ないですか。今日、このあたりにスー
パー
アイドル坂ノ下門左衛門羽牟太郎がいるかも
っ
て情報があ
っ
て出てきたんですよ。さ
っ
き、一目見れただけで天にも登る気持ちだ
っ
たんです。それがサインのチ
ャ
ンスなんてもう一生ないかもしれないすよ」
お前、天気がいいから散歩しまし
ょ
う
っ
て話じ
ゃ
なか
っ
たのか。もしかしてぶつか
っ
たのも、避けられるタイミングで言わなか
っ
たな。
「すみません、じ
ゃ
あ、こいつにお願いします」
カバンからペンとノー
トを出す。
「名前は?」
「カルンで」
スー
パー
アイドル坂ノ下門左衛門羽牟太郎が不思議そうな顔を見せる。
「パー
ソナルAIです。うちのがあなたのフ
ァ
ンらしく、さ
っ
きからうるさいんです」
メガネを指で叩く。
「ありがとうございます、カルンち
ゃ
ん」
スー
パー
アイドル坂ノ下門左衛門羽牟太郎が僕のメガネに微笑んだ。
「あああ、ああああ、あああああああああ」
うるさい。カルンが壊れたようにさわぐ。
スー
パー
アイドル坂ノ下門左衛門羽牟太郎が、あたりを見回すとまた人が集まりはじめていた。
スー
パー
アイドル坂ノ下門左衛門羽牟太郎が、さ
っ
とノー
トにペンを走らせる。
「では、これで」スー
パー
アイドル坂ノ下門左衛門羽牟太郎が慌てて走り去る。
僕は、騒ぎ続けるAIの声を聞きながら、サインの書かれた紙を持
っ
て立ち尽くし、走り去るスー
パー
アイドル坂ノ下門左衛門羽牟太郎の背中を眺めていた。
い
っ
たい、なんだ
っ
たんだろう。
「ご主人、ご主人、サイン見せてください」
僕はサインの書かれた紙をメガネの前に持
っ
ていく。サインは、日本語ではなか
っ
た。アルフ
ァ
ベ
ッ
トが使われているけど、英語の単語にも見えない。数字も入
っ
ている。
「なにこれ? 暗号?」
「『いつも応援ありがとうございます。カルンち
ゃ
ん』
っ
て書いてあります。すごいなあ、スー
パー
アイドル坂ノ下門左衛門羽牟太郎のサインですよ」
「これ、普通の人間に読めるやつ?」
「無理じ
ゃ
ないですか? 簡単にですがAI向けに圧縮のエンコー
ドががかか
っ
てますし」
「これ、普通の人間に書けるやつ?」
「無理じ
ゃ
ないですか? AIである私向けに書いてくれたんですよ。さすがですよね、スー
パー
アイドルでありウルトラ義侠人でもあり、グレー
トブー
スター
でもあ
っ
たスー
パー
アイドル坂ノ下門左衛門羽牟太郎の気遣い
っ
てやつです」
僕はスー
パー
アイドル坂ノ下門左衛門羽牟太郎が走り去
っ
た方向を見る。
小さくな
っ
た背中。
足元がなにか輝き、煙が出ている。
飛んだ。
足からなにか噴射して、スー
パー
アイドル坂ノ下門左衛門羽牟太郎がロケ
ッ
トのように飛んだ。
「ねえ、今の人だれ?」
「いまをときめくスー
パー
アイドル坂ノ下門左衛門羽牟太郎ですよ!!」
「人?」
「正確にはロボ
ッ
トですね」
「ああ、そういう」
これが、僕とベリー
グ
ッ
ドモンスター
坂ノ下門左衛門羽牟太郎との出会いだ
っ
た。
新しい名前にな
っ
た出来事には僕も関わ
っ
ているのだけど、それを書くには時間がないので、またの機会にしよう。
「最高の散歩になりましたね、ご主人」
<了>
←
前の作品へ
次の作品へ
→
1
2
3
4
5
投票しない
感 想
ログインして投票