第78回 てきすとぽい杯
〔 作品1 〕» 2  5 
犬が来る前に
投稿時刻 : 2025.10.18 23:06
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犬が来る前に
犬子蓮木


 暗い道。
 歩く。
 静かで、足音は1人分。
 背後から光。
 車が音をたてて通り過ぎる。
 再び静寂。

 帰ろう。
 どこへ?
 もう帰る場所なんてないじないか。
 あの日から。
 進め。進め。進め。
 果たせ。果たせ。果たせ。

 目的の家。
 表札を確認する。
 家を見る。
 普通の家。
 小さな門をあける。
 扉の横に、精悍な顔つきの犬の置物。
 犬は苦手だ。
 本物だたらと怖くなる。

 扉にはふれず、庭の方へ。
 ガラスの向こうにはリビングがある。
 住人は3人。
 寝室は2階で、静かにしていれば気づかれない。
 カバンを下ろし、道具を出す。

 今ならまだ間に合う。
 帰れば、なにもなかたことにできる。
 それでいいか?
 許せるのか?

 このいえでわたしのたいせつなひとをころしたにんげんがかぞくとしあわせそうにくらしている。

 自転車の音。
 塀の外を通る。
 夜回りの警察官だろう。
 息を潜める。
 音が遠ざかていた。

 家の中で明かりがつく。
 身をかがめる。
 なにをしている?
 少しして、明かりが消えた。
 眠たのか?
 まだ起きているか?
 わからない。
 わからない。
 進めない。

 復讐を果たせさえすればいい。
 3人を……
 だが、失敗は許されない。
 中途半端に終われば、やつは笑て新しい家族を見つけるかもしれない。

 帰ろう。


   §

「おはようございます!」
「おはよう、元気そうな声のわりに眠そうだな」
「あまり寝れなくて、空元気です」
 お互いに笑い声をあげる。
「先週はありがとうございました。料理おいしかたです。先輩、うらやましいなあ、あんな家を建てれて」
「ローンがいぱいだけどな」
「家の前の犬いいですよね、置物の。あれ何犬ですか?」
「さあ? うちのが決めたからわからないな」
「本物犬は飼わないんですか? お子さん動物好きみたいでしたけど」
「ああ、実はちと考えてて、来月、譲渡会に行こうかと思てるんだ。教育にもいいし、番犬にもなるしな」
「へー、いいですね」
「また、遊びにこいよ」
「ええ、ぜひ、遊びに行きたいです」
                                        <了>
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