◆hiyatQ6h0cと勝負だー祭り2025秋
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ボクらの コスパ最強 和栗菓子
投稿時刻 : 2025.11.01 19:03
付記更新 : 2025.11.01 19:05
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11/01 19:05:03 付記更新)
- 2025/11/01 19:03:37
ボクらの コスパ最強 和栗菓子
合高なな央




 Scene 1:部室は蒸し風呂、コスパ上々逃走劇。

 郷土研究部の部室は、半地下というどうにも運の悪い場所に陣取ていた。そのせいで、部室は常にじめじめしており、埃が湿気を吸い込んで、壁の外にいるテニス部の熱量だけを、やけに生々しく伝えてくる。窓は地面の近くにあり、つまり半地下の部屋から見たら肩より高い位置なのだが、外のテニスコートの風景はまるで青春という名の同調圧力的な映像を流す環境映像のようだた。「ペシーン、ペシーン」というボールの打球音が、何かの催促のようにも聞こえる。乾いた空気ならもとキリリとした音が響くんだろうに、この蒸し暑さが情けなくもなる。

 向かいでゲンキは、椅子を降りて地べたに腹ばいになり、下に向けた扇風機に顔面を向け風を当てていた。汗が頬を伝い、額でキラリと光る。まるで動物園の河馬だな、と僕は連想した。

「あーつーいー。この扇風機、もはやドライヤーだよ。で、なーんで俺たち、この世の誰にも需要がない豊年祭の資料なんてまとめてるんだ。一種の罰ゲーム?」

 僕はテーブルの向かいで、黙々と資料にペンを走らせていた。この作業は僕にとてパズルを解くようなものだ。だが、その手が、まるで誰かに呼ばれたかのようにピタリと止また。僕は資料から目を上げ、窓の外のテニスコートの思春期女子の躍動を眺めて、少し保養する。

「このあと、庄司さんに会いに行く」僕は淡々とゲンキに告げた。「幻の和菓子、『琥珀練り』の手がかりを探すためだ。だから、取材する資料は最低限まとめておく必要がある。コスパの悪い行動は嫌いだ。非効率な行為は、人生という名のゲームにおける致命的なバグだ」僕は青空の下のテニスコートから再び資料に目を戻した。僕の中では、すべてが計算されている。

 今度はゲンキが窓の外の女子テニス部員に目を向けた。彼女たちは炎天下で激しく動き、そのたびにスコートがめくれる。

「でも、こんな暑いのに、わざわざこのカビ臭い場所に籠もるのもコスパ悪いと思うけどね。まあ、炎天下でテニスするのも一種の罰ゲームだけどさ……。あ、一人転んだ。大丈夫かなあ」

 僕は、一瞬だけ、本当に一瞬だけ、窓の外を鋭い視線で捉えた。

「やらなくてすむなら、部室の隅で涼んでるさ」僕は言た。「この状況下でも動いておく方が、将来のリターンが大きいんだ。これは自己投資だよ。……あと、パンツは白だたな。白は、なんつーか、無駄がない色だ」

「パンツじないよ、スバル。アンダースコートだよ」ゲンキが訂正した。「あれは『見せていいパンツ』という、現代社会が生み出した奇妙な発明品だよ」

 その瞬間、「ペシーン」というテニスボールの音が途切れ、唐突に静寂が訪れた。女子テニス部員がコートから引き上げていく。そのうちの一人が、この部室の窓にほんの一瞬、憤慨と、僕のクールな合理性を嘲笑ているような視線 を送てきた。

 カチと。僕は手元のペンのキプを勢いよく閉じた。部室に響いたその音が、タスク完了のサインだた。

「よし終わた」僕は立ち上がる。「さあ、庄司さんに会いに行く準備ができたぞ。伝説の和菓子のレシピは、いつも時間に追われている」

 ゲンキは扇風機をぶつかりひくり返しながら立ち上がた。汗でぐたりとした表情。

「お、終わたか。あー、もう限界寸前。意識朦朧。俺、このままじ溶けて、この部室の埃と一体化する。壁のシミとして、後世に語り継がれちうよ」

 僕は少しだけ口元を緩めた。

「じあ行きがけに、コンビニでガリガリ君の補給すか。最高の冷たさと、最高のコストパフマンスを持つ、小さな正義の塊だ」

「や。でも、偶然、テニス部の練習終了と同時だたね。この偶然、何だか作為的じない?」

 僕は再び真剣な顔になた。

「行くぞ、ゲンキ。競争だ。最も効率よく動機づけを行い、目標を達成するための戦略を実行する。先にコンビニに着いた方に遅れた方がおごりな! 嫌ならゆくりくればいい。だが、おごりで済めばいいが、今、顧問が特別棟の扉を開けた音がしたぞ。あの音は、『郷土愛』という名の長いトンネルの入口を意味する」

 遠くから、重いドアの開く音。そして説教の準備のためなのか、重い咳払いが幾度か聞こえてきた。ゲンキの顔が恐怖に歪む。

「マジかよ! あの咳払いの後、『まず郷土愛とは何か』から入る話が、尋常じなく長いんだ! あの人に捕またら、俺たちの時間は宇宙の彼方に飛ばされる! ダメだ、逃げよう!」

 部室の半地下窓。ゲンキと僕が、まるで映画のスタントマンのように机に飛び乗り、バタバタと半地下の高めの窓から外の地面へと這い出す。そして僕たちは屋根のある渡り廊下を、時間の流れを追い越すように疾走した。

 自転車置き場。僕たちはそれぞれの自転車にまたがり、勢いよく校舎の門から飛び出していく。低いアングルからの映像は、僕らの逃走劇を強調する。青春とは、いつだて逃げることと見つけることの繰り返しだ。て言てたのは何のアニメだけ?


 Scene 2:生き字引きから教わた幻の栗。

 町外れの古老の家は、分厚い屋根瓦と黒く煤けた木材が、時間の重みを静かに語ていた。庄司さんは縁側に穏やかに座り、僕とゲンキは正座している。遠くのセミの鳴き声が、僕らの緊張を和ませていた。

「庄司さん、郷土研究部の部長、相楽スバルと、コイツは平部員の日室ゲンキです」と僕は律儀に挨拶した。

 庄司さんの顔には深い皺が刻まれていた。これから聞き出す話との連想で、その顔は故郷の歴史書に見えてくる。生き字引てやつだ。

「ああ、顧問の先生から聞いておるよ。まあ、座りなさい。まず、あんたらが聞きたがているう「豊年祭」が縮小してきたのは、『琥珀練り』がなくなたからじ

「琥珀練り?」ゲンキが復唱した。

「四十年前に姿を消した、幻の和菓子じ」庄司さんは穏やかに語た。「特別な栗を使た、祭の主役の供物だたんじ。栗月堂という和菓子屋の秘伝だたが、今は廃業して蔵が残るだけじ。もしかしたら、その蔵に何か手がかりがあるかもしれん」

 僕は早速、資料にペンでメモを取る。さすが、僕の行動には一切の無駄がない、と自画自賛。

「栗月堂の蔵…ありがとうございます」

「わしが栗月堂の当主に話をつけておこう」庄司さんは続けた。「それと、五利(ごり)さんという大学院生がフルドワークで来ている。顔を合わせるかもしれんがよろしうな」

 僕とゲンキは顔を見合わせた。次の瞬間、僕らの顔の近くには、プロレスラーのような筋肉隆々の男が、頭に栗を乗せて微笑んでいるコミカルなイメージがフラクした。

「ゴリさん! どんなムキムキの男なんだろう……。栗を握りつぶしそうだね」ゲンキは小声で囁いた。

「どうだろうな、大学院生の研究だぜ。でもフルドワークなんてアクテブなことしてるんだしな……」僕は結論を保留して冷静を装た。


 Scene 3:ゴリラとの出会いは想定外?

 翌日の昼過ぎ。蔦に覆われた古い蔵の内部は、湿気と古い砂糖の微かな甘い匂いに満ちていた。懐中電灯の光が、宙を舞う埃を照らす。

「うわ、すげホコリだ。デブが動くと、余計に舞うから、俺は動かないことで蔵を守るよ」ゲンキが言た。

 ところがゲンキが大きな棚の横を通り過ぎる時、彼は見事に体をぶつけた。ガシン!という大きな音と共に、棚の上のものが音を立てて崩れ落ちる。

「やべ! ご、ごめんなさい! 蔵の中の神様、ごめんなさい!」

 と、蔵の奥の暗がりから、長い黒髪を一つにまとめた、すらりとした清楚な美人が静かに現れた。逆光が彼女の美しさを際立たせる。

「コラ。大事に扱いなさい」彼女の声は、低く、静かだた。

 ゲンキの顔のアプは、驚愕と混乱で塗り潰されていた。多分、僕の方もそうだたろう。突然人が現れたことに……、でも庄司さんから聞いていたあの人か?

「え…えええ!? あ、あなたは、もしかして、ゴリ、さん…?」

 僕は冷静を装い、一歩前に出た。

「失礼しました。郷土研究部の相楽です。こいつは日室。慣れない作業でお騒がせして申し訳ありません」

 五利さんは、軍手をはめた手で、ゲンキが崩して床に散乱した収納物の中から鍵のかかた小ぶりな桐箱を拾い上げた。桐箱には『栗月堂秘伝』と刻まれている。

「私は五利。植物学専攻の大学院生です。あなたたちは二人きりしかいなくて来年廃部確定の郷土研究部の二人ね、庄司さんから聞いてるわ」

「おい、ゴリラじなくて、美女だぞ! スバルの予想、大ハズレ!」ゲンキが小声で興奮気味に囁く。 「バカ、オレじなく、お前が言たんだろ」僕もゲンキを小突き返す。

 そんな僕ら2人を気にもとめずに五利さんは、慣れた手つきで精巧な工具を取り出し、あという間に鍵を開けた。華奢な指が、工具をまるで自分の体の一部のように操り、チ、コトという微かな音と共に錠前が開いた。それは、僕の論理回路を一瞬で破壊する、予期せぬ美しさだた。

 桐箱から出てきたのは、『琥珀栗の練り切り 秘伝の書』。五利さんは中身を確認し、難解な筆書き文字から植物学の用語を発見する。

「…これは和菓子の製法に加え、難解な植物学の用語で栗の生育条件が記されていますね」

「何が書いてあるか、全然わかんね。まるで古代宇宙人の暗号だ」ゲンキは首を振た。

 僕は古文書をのぞき込み、顔を上げた。クールに振る舞いるが、わずかだけど焦りを感じる。

「…自力での解読は、不可能だ。これは、僕らの手に負えるミステリじない」

 五利さんは知的な目元で穏やかな微笑みを浮かべた。

「よろしければ、私が協力しましうか。植物学と、古文書解析は専門ですから。鍵開けも、ついでに」そして輝き弾けた笑顔。能面のような美女かと思ていたら、表情の揺れ幅がすごい。

 五利さんの知性と優しさ、そして意外な特技に、僕のクールな心は客観的にみて、強く惹かれている。これは、僕にとて初めて遭遇する、計算外のロマンスだた。


 Scene 4:二十年に一度の奇跡を求めよ。

 蔵での発見から数日後。夜。五利さんが借りている地元公民館の一室は、まるで秘密基地のようだた。五利さんが秘伝書を広げ、専門資料と照らし合わせているのを、僕とゲンキは見守る。

 五利さんが、秘伝書の特定の記述を指さした。

「この栗は、クリザネラ・アンブレンシス。この地の固有種です。そして、この記述は…特定の気象条件と土壌サイクルが一致する周期を表しています」

「気象条件?」僕は前のめりになる。

 秘伝書の記述がクローズアプされる。『酷暑の夏が続き、秋の訪れが遅れ、なおかつ早朝に深い朝霧が発生した時、黄金の粒は奥深い透明感を放つ』。

「『酷暑の夏が続き、秋の訪れが遅れ、なおかつ早朝に深い朝霧が発生した時、黄金の粒は奥深い透明感を放つ』と。この条件が全て揃うのは、二十年に一度の豊作期です」

 僕はハとして目を見開いた。

「今年の気候だ…。二十年に一度の高品質ラキーが、今、僕たちに舞い込んできたのか」

「二十年に一度の豊作が、今、てことか! すげ! 俺たち、歴史上の主人公てこと!?」ゲンキも興奮する。

 五利さんは地図上の座標を特定する。彼女の指の動きは、まるで運命の糸を辿ているかのようだた。神様、その糸の先はどこに続いているんですか?

「秘伝書が示す自生地の座標も特定できました。この町の標高千メートル付近の沢筋の上流。急がないと、栗の最高の『透明度』の時期を逃してしまいますね。この栗の賞味期限は極度に短期間なようです」

 僕は五利さんを見つめ、決意を込めた。

「行きましう。幻の森へ。僕らの推理小説を完成させましう」

「では、山においては私の判断に従てください」五利さんは強い目線で言た。「皆で、二十年の奇跡を見つけに行きましう。ただし、クマには気をつけて」


 Scene 5:探検と発見(幻の森への探検)。

 早朝、午前二時頃。夜が明けきらない深い山の中は、肌を刺すような冷たい空気と、深い朝霧に包まれていた。五利さんが先頭を歩き、ゲンキは震えている。

「うー、さむいー! なんで山はこんなに寒いんだよ…。盆地はまだ窓開けても蒸し暑いてのに。そして霧で何も見えねえし。まるで世界がぼやけているみたいだ」ゲンキは呻いた。

「高地の早朝の冷え込みと朝霧。条件は揃ているな。ミステリはいつも、早朝に解決する!」僕は冷静沈着に、ありもしないメガネを光らせて、さらにあるはずもないカメラに向かて指を指した。

 しばらく、けもの道ともいえそうな山道を進んだ。ふとゲンキが水たまりに足を踏み入れ滑て転びそうになた。その刹那、五利さんが瞬時にゲンキの腕を掴んで引き上げた。彼女の動きは、まるで予知能力者のようだた。

「油断しないでね」五利さんは静かに言た。「私はね、大学院で植物学をやりながら、ロククライミングもやているから山歩きと体力には自信があるわ。でもあなたの体重だと、次は救えないかも」

 ゲンキは驚きで目を丸くした。

「え、クライミング!? そんな華奢な体で!?へ

 五利さんは地図を確認し、静かに顔を上げた。

「おかしい。地図と、予期せぬ地形との誤差に気づきました。このまま進むと目的地にはたどり着けません。少し戻て、さきの分岐を右に行かないと」

「ええー! また戻るの!? 俺たちの歩いた時間、無駄だたのかあ!?」ゲンキはがかりした。

 でも五利さんは励ますように「琥珀栗の最高の状態は、刻一刻と失われてます。急ぎましう。ミステリは、迷宮入りする前に解決しないと、でし?」五利さんは、すべてを見通すような知的な微笑みを浮かべた。その笑顔は、僕の「効率」という盾を崩壊させるような、抗いがたい力を持ていた。 単純なもんで、思春期男子2人はこれで息を吹き返したのだた。

 数十分後。沢筋の奥深く。またもやゲンキが肩で息をしている。

「は、は…もう限界…俺の寿命が削られてる気がする…」

 朝霧が徐々に薄れ始め、東の空がゆくりと色づき始める。 そしてその朝霧が完全に晴れると、沢の向こうから朝日が差し込んだ。その光を浴びて、一本の大きな栗の木が、数千の小さなガラス細工のように輝き、奥深い透明感を放つ実を無数につけているのが見えた。それは、あまりにも壮大な、二十年、いや百年に一度の奇跡かもしれない。

「琥珀栗……」僕は息をのんだ。僕のクールな理性でさえ、言葉を失ていた。

「うわ…! キレイだ! 本当に黄金色だ! まるで金色のドロプみたい!」ゲンキは目を輝かせた。

 五利さんの顔は、感動に震え、目元が潤んでいた。

「…これです。二十年の時を超えた、奇跡の輝き…。私たちは、歴史の目撃者です」

 僕はゆくりと栗の木に近づき、そと実を手に取た。黄金色の実が朝日に透けて輝き、肌に伝わる冷たさと、微かな栗の匂い が、これまでの苦労すべてを報いてくれるようだた。僕たちは、五利さんと協力して、琥珀栗を丁寧に専用の袋に収穫し始めた。


 Scene 6:マニアルを超えろ、考えるな感覚だ。

 探検の翌日。町の老舗和菓子屋の厨房。五利さんが白衣を着て、ビーカーや精密な秤で材料を計量している。まるでここは、和菓子工場という名の研究室だ。僕は和菓子作りの道具に向かう。

「この琥珀栗はデンプン質が極端に少ないんです」五利さんが説明する。「繊細な練り切り技法が必要です。少しでも熱や混ぜ具合が狂うと、すぐに濁りが出る。透明感は、ほんの少しの狂いも許さない」

 最初の試作。僕は慎重に練るが、熱の加えすぎで栗餡が白濁してしまう。

「くそ…! た…。何がいけないんだ…。手順は秘伝書通りのはずなのに! 最も非効率で最悪のコストパフマンスだ!」

 失敗作が並び、残り材料というチンスが減ていく。僕の焦燥感が募る。ゲンキは手を出せず、うつむいている。

「スバルさん」五利さんは冷静だた。「秘伝書には、文字にできない職人の手の感覚が必ずある。その微妙な差が、透明感を生む鍵になる。マニアルだけでは、人生は解決しないわよ」

 僕は五利さんの言葉を胸に反芻する。僕の人生のOSが、初めてバグたような気がした。

「手の感覚…」

「あなたの祖先たちが、この練り切りに込めた思いを想像してみて。和菓子作りは、一種のタイムトラベルです」

 僕は深く息を吸い込み、目を閉じた。これが最後の琥珀栗。僕は力を抜き、温度を確かめ、丁寧に練り上げていく。

 練り上げが完了する。僕が、完成した練り切りを漆塗りの台にそと乗せた。練り切りは、完璧な透明感を持つ琥珀色に輝いている。僕の心のタスクはこれで完了したはずなのに、なぜかこの余韻が、「人生の最大の報酬(バリ)」だと感じられた。

「…成功です。素晴らしい…」五利さんの目元が潤む。僕たちは、「失われた二十年の歴史」を、この一瞬で取り戻したのだ。

 ゲンキが涙ぐむ。

「うおおお…! 復活だ! 俺たちの夏の自由研究、大成功!」

 僕は達成感と安堵で、五利さんを見つめた。

「…ありがとう、五利さん。あなたがいなければ、これは不可能だた。たた一個だけだたけど、胸を張ります。これが僕たちの郷土への錦の御旗だ」

 五利さんは、僕の感動を沈着に聞き流して、裏の倉庫から栗の入た重そうな袋を運んできてドスンと台の上に置いた。彼女は少しいたずらぽい表情を浮かべる。

「今までのは予行演習です。少し前に収穫したよく似た栗を使て本番さながらの意気込みで練習してもらいました。たくさん失敗するのは想定内だたので……、さあ、いよいよこれからが本番ですよ」

 僕とゲンキは驚きの表情。

「え、え。まだ作るの? 俺たち体力、持つかなあ?」

「何言てるんです」五利さんは笑た。「試食用にたくさん作て、大勢の人に食べてもらわなければ、祭りの成功とは言えないですよ。奇跡は、分かち合て初めて価値が出る」

 僕とゲンキは顔を見合わせ、再び力強く頷き合た。


 Scene 7:これがボクらの豊年祭。

 豊年祭当日、夜が訪れ、町の広場には多くの住民が集まて過去の活気が戻ていた。提灯の光が鮮やかだ。舞台の袖で、僕、ゲンキ、五利さん、庄司さんが待機している。

「ようやた。これほど人が集まるのは、わしが子供の頃以来じ」庄司さんは感極また表情だた。

 僕らの中学校郷土研究部の顧問である佐々木教諭が、なぜか出して舞台に立ち、マイクを握た。

「えー、まず、郷土愛とは何か、という話から入らせていただきますが、その前に、この町に伝わる八+八の袋という……

 僕とゲンキは顔を見合わせ、小さくため息をついた。ずいぶんな時が流れてから、やと顧問の長い長すぎる挨拶が終わり、ついに舞台の中央に、『琥珀栗の練り切り』が置かれた。スポトライトを浴びて、琥珀色が鮮やかに、宝石のように輝く。

 会場全体から、どよめきと拍手が沸き起こる。

「ああ…琥珀練りだ! 黄金に光てる…。なんて美しいんだ。まるで、失われた宝だ」観客たちが声を上げる。

 となりで庄司さんが涙を拭う。

「…これじ。これこそが、この町の誇りじた」

 試食が始まり、集また人々はその味に感動の声を上げる。祭りは最高潮の熱狂に包まれた。僕、ゲンキ、五利さんは、強い達成感を分かち合うように目を合わせた。僕らの計画は、完全に成功したんだ。最高のコスパで。


 Scene 8:すべての未知は世界へ繋がる。

 祭りの翌日、昼下がり。郷土研究部の部室の前。五利さんがリクを背負い、僕と二人で立ている。ゲンキは少し離れた場所で、何か変な石を蹴ていた。

 僕は五利さんに向かて深々とお辞儀をした。

「祭りは大成功でした。本当に、ありがとうございました、五利さん。あなたの頭脳は、みなに最高のコスパをもたらせてくれました」

「私にとても、素晴らしいフルドワークでしたよ」と、五利さんは穏やかだた。「来春、卒業しますので、これで一旦、大学院の研究室に戻ります。……多分これで、この町での私の役目は終わりでしう」

 僕は驚き、言葉を失た。考えてみたら当然のことなのに、僕は今の今まで予想してなかた。なんだこれ? なんていうんだこれ? そうだ青天の霹靂? たしかに空は青空だけど。

「え! 五利さん、帰うんですか!? 俺たち、琥珀練りチームは解散!?」ゲンキが叫んだ。

 五利さんが僕に向き直る。

「大丈夫。秘伝書は全部解読して渡してますし、技法も確立できました。あとは、あなたたち二人が町の人々と守ていくんですよ。スバルさん。あなたのクールな視線の中に、故郷へのたしかな愛があることに気づきました。クールな外見の優しい心。この町のことはあなたたちに託します。それではまたいつか」

 五利さんが、優しく、しかし遠い輝きを放つ笑顔で僕に手を振る。あの五利さんが背を向けて立ち去ていく。僕は、その少し揺れながら小さくなていく黒髪の影をただ見つめている。僕はまだ、効率的に別れに対処する方法を知らない。別れは、なぜこれほど効率の悪い、リターンのない感情を産むのだろう。

「…また、いつか、か」僕は、誰にも聞こえない小声で呟いた。

 ゲンキが静かに僕の隣に立つ。

「…行ちまたな。美女は、いつも突然、現れて去ていく」

 僕の心のなかで雷が鳴り響き土砂降りになた、初めて切ない感情が浮かんでいた。それは、計算では出てこない、純粋な痛みだた。これが晴天の霹靂……

「…ああ。遠い輝きだたね。手が届いたかと思えばすり抜けていいくんだね。まさに百年に一度の奇跡のようだた」ゲンキが珍しく詩的に言葉を結んだ。

 それから僕らは、二人並んで部室の前に佇んだ。何をするというのでもなく何を話すというわけでもなく。何の生産性も目的もない。コスパで考えたら何の意味もない時間。しかし、この時間こそが、僕にとて「最高の人生の価値(バリ)」だた。 初恋の終わりと、小さな成長は、部室の静けさの中に、小さなミステリの結末として刻まれる。今はただ、そう信じたい。


 了
付記
生成AI ミニ GPT 使用、アイデア出し、壁打ち、整形、仕上げなど
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