勝手に連動 第10回ぽい杯スピンオフ賞(土日版)
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仮面パンダー -壱-
(茶屋)
投稿時刻 : 2013.10.19 14:34
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仮面パンダー -壱-
茶屋


「いったいいったいどうなっている」
 もじゃもじゃの白髪を掻き回しながら、今にもずり落ちそうな眼鏡越しにモニターを眺めている白衣の男。
「そんな馬鹿な馬鹿なありえんありえんおかしいおかしい」
 いかにも「THE 博士」といった風体の男の肩に止まった烏が甲高い声で真似をする。
「うるさいうるさい!」
 博士は烏を打つように拳を振り上げるが、烏はいつものことと言わんばかりに悠々と飛び立ってその拳を避ける。
「わからんわからん」
 博士の名は獅子神。世界征服を企む悪の秘密結社・ポイッカーの大幹部である。

 仮面パンダー本藤武は改造人間である。彼を改造したポイッカーは、世界征服を企む悪の秘密結社である。仮面パンダーは頭痛を治すために、ポイッカーと闘うのだ!
 戦え!仮面パンダー!
「頭痛ぇ」
 本藤は公園のベンチに座りながら、頭を抱えている。最後に「わるいやつ」を殺してからもう3日経つ。頭の痛みも段々と強くなってきており、そろそろ「わるいやつ」殺さないと無差別殺人でも起こしてしまいそうな具合だ。
「わるいやつは、どこだ」
「むにゃ、どうも反応が弱いにゃ」
「くそが」
 本藤は鉄パイプで猫を殴りつけるが、猫は優雅にそれを避ける。
「仕方ないにゃ。そろそろ敵も感づく頃だにゃん」
「くそが。何でこんなに頭いてぇんだ」
「そりゃ改造が失敗したからにゃん。遠隔操作のためのデバイスチップが不良品だったんにゃ」
「くそ。ぶっ殺す」
「その意気にゃ」
 失敗作として捨てられていた本藤が謎の猫に導かれ仮面パンダーとして覚醒したが、頭の痛みのせいで記憶も曖昧だった。猫が言うには悪いやつを殺せば頭の痛みが緩和されるらしいが、理屈はよくわからない。実のところ猫が本藤の頭の痛みをコントロールしているのだが、痛みに耐えることで精一杯の本藤はそれに気づいていない。そもそも全て現実感がなく、すべてが幻覚とすら思えている。
 ただひとつ確かなのはこの痛み。
 これだけは現実だ。
 最悪の、現実だ。

 『目標 世界征服 獅子神』と新年の書き初めが吊るされているここは博士の部屋だ。
 そんなことを書いておきながら博士は大好きな研究ばかりにのめり込み、役に立つかもよくわからない発明ばかりしていて、世界征服のことなどすっかり忘れてしまっている。時々は他の幹部にそのことを指摘されるのだが、「すんまへんすんまへん」とのらりくらりしているのだ。
 そんな獅子神博士は昨今の戦闘員連続殺害事件に頭を悩ませていた。
 戦闘員が事故で死ぬことは今まで無いではなかったが、ここまで連続したのは初めてだ。
 誰かが戦闘員を狙って殺して回っているとしか思えない。
 だが、どうやって?
 戦闘員は本人も無自覚のまま戦闘員となっているのだ。
 ポイッカー系列のフロント企業グループが提携して発行している「ぽいポイントカード」を所持するものが戦闘員と化す。ポイントカードに隠された機能はポイッカーからの通信を受け取ると所持者は戦闘員に強制的に変身させられ、洗脳効果により目の前のものと戦うことになるのだ。大量の従業員を雇用することの出来ぬ秘密結社ならではの問題を一挙に解決する名案だったのであるが、しっかりとした管理下あるわけではないので戦闘員であるというだけで狙われると対処が難しい事態となっている。
「ちょっとちょっと泳がせてみるかな。いやいや待て待て、新作を試してみるかみるか」
 博士の部屋にある手術台の上に横たわった女がいた。
「目覚めよ目覚めよもう朝だゆくのだゆくのだ犬犬怪人」

 臭いな。
 女はいつもより鼻が敏感になってような気がした。鼻の中もいつもより湿った感覚がある。
 何だろう。何かのアレルギーとかなのかな。
 異常は感じるものの、特段不自由があるというわけでもないので医者にもいかずに会社に出かけることにした。どことなくぼーっとする頭で歩いていると、いつの間にか知らない道を歩いていた。
 何かの臭いに引きつけられている。
 いくら道を修正しようと試みてみても、いつの間にか臭いの方向へ歩いて行ってしまうのだ。
 そうこうしているうちに、女は男とぶつかった。
「すいません」
「痛ってぇ」
「あ、大丈夫ですか」
 男は女の方など見向きもせずに頭を抑えながら通りすぎようとした。
 男の格好はボロボロで、薄汚く汚れている。
 ホームレスだろうか。
 顔はなかなかなのに勿体無い。けど、鉄パイプなんて持ってるしあまり深く関わらない方がいい。
 でもこの臭い、男の方から。
 どこか懐かしい気もする。
 どこかで、この臭い。
 何かを思い出そうとしたその時、女の体に衝撃が走った。これはもしかして恋ってやつなの。ほら、ビビビって来たし、いやビビビって言うよりゴリゴリゴリっていうかメキメキバキバキっていうか何これ体中痛いんですけど何か腕も変な方向に曲がっていつもより身長が高くなったような気がするし音はうるさいしガウいたたたいたいガウグルル何何なにが唸ってんの犬でもいんのガウワウグルル。
 
 仮面パンダーの目の前に犬の怪人が姿を現した。
 いつの間に、だが。
「悪いやつ、見つけた」
 本藤はニカッと笑うと鉄パイプで怪人を殴りつける。ガンっという大きな音がした。
 折れた。
 鉄パイプが。
 犬怪人は蝿でも振り払うかのように本藤を軽々と壁へと叩きつけた。
「痛ぇんだよ……」
 衝撃で頭痛が大きくなり、視界もぼやけている。犬怪人が大きな足音を立てながら迫ってくる。
「変身するにゃ!」
 猫が叫ぶ。
 犬も叫ぶ。
 パンダも叫ぶ。
「変身!」
 犬怪人が止めとばかりに本藤に拳を叩きつけると雷迅が駆け抜け、閃光の元、頭でっかちなシルエットが現れた。
「痛てえんだよくそが!!!!」
 着ぐるみパンダのヘッドを被り、手に持ちたるはオリハルコンのパイプ。
 犬怪人の攻撃を一撃ではねのけると、後は戦いの緩急など全く無視した一方的暴力。
 殴る殴る殴る叩く叩く叩く潰す潰す潰す。
 ボロボロになった犬怪人は一瞬の隙を見て逃げ出した。
「追うにゃ!」
 言われずとも仮面パンダーは追いかけ始めていた。
 殺さないと、痛みがとれない。
「痛ぇんだよ……頭……」
 パンダの顔がグラグラと揺れる。

路地裏/袋小路。
夜/満月。
人/パンダ。
「なあ」
 パンダが篭ったような声を発した。
「お前、悪いやつなんだろ」
 女は反論しようにも声を出すことが出来ない。犬怪人になった時、喉を潰されたのだ。
「知ってるよ。俺にはわかるんだ。誰が悪いやつか」
 月明かりの下、パンダは鉄パイプを振り上げた。

「なあ」

「知ってるか?」

「悪い奴は正義の味方にぶっ殺されるんだよ」

 どうして。どうしてこんなことになったんだろう。
 まだ死にたくない。
 まだ、何もできていないのに。
 まだ……。

 女は夢を見ていた。
 懐かしい。学び舎の夢だ。
 女は友達と楽しげに話している。
 友達の輪の中で、ついつい目が行ってしまう人がいる。
 本藤武。口数は少ないが動物好きで心優しい少年。
 彼のことなら何だって知ってるつもりだった。

 ああ、懐かしい。
 今年の目標は彼に告白することだ、なんて意気込んでいたのに、結局そのまま卒業しちゃったんだっけ。
 でも、何でこんなこと思い出すんだろ。
 何で。
 助けてよ。本藤くん。

 パンダは鉄パイプを振り上げ、女の脳天を砕いた。



 仮面パンダーとして覚醒した本藤は謎の組織ポイッカーの怪人を何とか退けたが、その存在を獅子神博士に知られてしまう。獅子神博士は打倒仮面パンダーのため、新たな怪人を作り出すのだった。
 次回「その名はパンダー二号」。ご期待ください。
 
 
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