てきすとぽい
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【BNSK】月末品評会 in てきすとぽい season 5
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〔 作品10 〕
花火セットを用意して
(
都宮 京奈
)
投稿時刻 : 2014.08.02 23:13
字数 : 31991
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花火セットを用意して
都宮 京奈
別れ際に交わされる「じ
ゃ
あ」という言葉の裏には、だいたいにおいて「また明日ね」とか「さよなら、お元気で」とか、そうい
っ
た言葉が続く。誰だ
っ
てお互いの表情を確認し合
っ
て、その言葉の裏を察しようと努める。察することができなか
っ
たのなら、その言葉の先に何かあると期待するだろう。だ
っ
て、言
っ
たほうと言われたほうにすれ違いが生じるから。「じ
ゃ
あ、またね」なのか「じ
ゃ
あ、お元気で」なのか。会うつもりがあ
っ
たのか、なか
っ
たのか。これが結構大事だ
っ
たりする。
もしその先が途切れて消えてしま
っ
たのなら、私は絶対「またね」と声を掛ける。「さよなら」なんて寂しいじ
ゃ
ないか。一億三千万のうちのた
っ
たひとつの出会いかもしれないけど、その中の二人が声を交わして、目と目を合わせて、気持ちを触れ合わせたのだ。こんなに奇跡的なことを「もう二度とない」とい
っ
て打ち切るのはあんまりすぎる。だから「今日はいい天気だなあ」とい
っ
た誰かの無意味なつぶやきにも、私は全力で「そうですね。絶好の布団干し日和ですね」と答える。そう思えるのは私の周りには素敵な人ばかりいたから(友人に恵まれていたのだ)でもあるし、ある少女と幼少時に唐突に別れて以来、そのことを後悔し続けているからでもある。
その少女は別れ際、私に向か
っ
て「今度『あそこ』に連れて
っ
てやる」と言
っ
た。『あそこ』とは何処のことを指すのか、私の頭には選択肢すら思い浮かばなか
っ
た。だから『あそこ』に連れて行
っ
てくれると言
っ
た少女と、また会うのを楽しみにした。でも会えなか
っ
た。
決して会いたくなか
っ
たわけではないのだ。私は「じ
ゃ
あな」と言われて「じ
ゃ
あね」と返事をしてしま
っ
た。そこで「またね」と言
っ
ていれば、少女はき
っ
と『あそこ』に連れて行
っ
てくれたはずだ
っ
たのだ。
一
夏の暑い夜中は、どんな手を使
っ
ても涼しさを手にしたいと思うだろう。少なくとも三依(みい)はそう思
っ
ていた。
涼しさを手にするには、どんな手があるだろう? クー
ラー
を稼動させて室温を低下させるのもいいが、それでは電気代が気になる。ビニー
ルプー
ルを膨らませるというのもあるが、ビニー
ルプー
ルというものは日中に楽しむもので、真夜中に楽しむものではないはずだ。真夜中の暗がりから「バシ
ャ
、バシ
ャ
」と音がするなんて愉快なものでもないし。氷を用意するのもいいが、あいにく三依の家の冷蔵庫には、涼しさを得られるほどの多量の氷をジ
ャ
ンジ
ャ
ン作ることのできる製氷皿は備えられていなか
っ
た。家の冷蔵庫は小さいのだ。
……
そこで扇風機の登場である。扇風機は一生懸命首を振
っ
て三依たち三人へ風を送
っ
ている。三依には少し物足りなか
っ
たが、いろいろな要素を鑑みたうえで「この部屋には扇風機で十分」と思
っ
ていた。
それもそのはず、この部屋で生活できるのは一人だけ、せいぜい二人までの四畳半一間のオンボロアパー
ト。家賃は、洗濯機の排水溝無しで二万五千円ポ
ッ
キリ。何をポ
ッ
キリと表わすのかいまだに定かではないが、取りあえず洗濯も容易に出来ない安物のアパー
トなのだ。贅沢は言
っ
てられないと三依は思
っ
てるし、我慢するのは自分一人でいいのだから安いものだとも思
っ
ている。き
っ
と大学を卒業して、この部屋を出るときまでもそう思い続けることだろう。経済的で大変よろしい部屋なのだ。後学にもなりますし。
「三依、ビー
ル取
っ
てきて」
この狭いオンボロ部屋にあぐらを掻いて、扇風機の風を独占しながら面倒臭そうに京香(き
ょ
うか)は言
っ
た。彼女は、この部屋の中心に位置しているち
ゃ
ぶ台に合わせて用意された座椅子に鎮座し、扇風機の『両頬』を掴んで静止させていた。
「できればオリオンビー
ル」
「そんなものはあー
りー
まー
せー
んー
。
……
っ
たく人使い荒いんだから」
三依は立ち上が
っ
て、台所の横に配置させた冷蔵庫に向かう。京香はなけなしのオモイヤリで「ありがと」と適当につぶやいた。
その二人のやり取りを見て、折りたたみベ
ッ
ド(三依が普段寝るベ
ッ
ドだ)にお人形さんのようにち
ょ
こんと座
っ
ている紗代(さよ)が笑
っ
た。
「なんだか熟年夫婦みたい」
三依は発泡酒三缶を冷蔵庫から取り出して、冷蔵庫からち
ゃ
ぶ台へとパタパタと戻
っ
てき、扇風機の風を独占し続けている京香の頭の上に一つ置いた。
「それで、その話のオチは?」
京香は顔を扇風機から翻すことはなく、頭上のビー
ルを片手で掴んで、これまた適当に言い捨てた。
「首吊り死体だ
っ
た。だから、男がず
っ
と見てたのは死体だ
っ
た
っ
てわけ」
三依は続いて、ベ
ッ
ドに座
っ
ている紗代に二缶目を手渡す。紗代はそれを受け取
っ
てから、ベ
ッ
ドの堅さを確認するように受け取
っ
た発泡酒の缶をベ
ッ
ドを押し付けてから、つぶやいた。
「生きてる人間と、死んでる人間、そんな簡単に見間違うのかしら」
京香は頭上に置かれた発泡酒のプルタブを小気味良く開けてから、答えた。
「その男もさ、普段から血色悪い感じなんだよ。死体と同じぐらいの青白さでさ、ところどころ腐
っ
てんの」
「そ
っ
ちのほうが怖いね」
三依は感心のため息を吐いた。この感心は、即座に適当な理由を考え付く京香の思考回路に対してである。
▽
今日は大学の講義終了日だ
っ
た。同じ大学に通う三依と京香と紗代の三人は、「お疲れ様会」と称して大学の近くで一人暮らしをしている三依の家に押しかけた。三依は文学部で、京香と紗代は経済学部だ
っ
たので、三依の知らぬ間に、京香と紗代の二人が今日一日の日程の計画を立てていたたのだ
っ
た。いろいろと候補が挙が
っ
たみたいだが、結局京香が主張した「今日は一日ホラー
尽くし」に決定してしま
っ
た。
紗代からそのことをスマー
トフ
ォ
ンの『ライン』という簡単にコンタクトが取れるアプリで教えてもら
っ
て、三依は紗代の優しさ(というか主張力の弱さ)をのろ
っ
た。それもそのはず、三依は京香と小学校からの幼馴染で、京香の思いつくことはだいたいろくなことではなか
っ
たのだ。だから、三依は京香と言い合いをした際には必ず京香の言い分を却下しようと必死になる。「今までの経験から言
っ
て、キ
ョ
ウち
ゃ
んの言
っ
てることはろくなことにならないんだよ!」
っ
て。
……
結局、三依は流されやすいから、京香が「絶対こ
っ
ちのほうが面白い
っ
て」と悪戯に笑うと、それでだいたいおしまい。気を張るための空気のようなものが鼻からぷすー
と抜けてい
っ
て、賛同してしまうのだ。
京香は男の子みたいに無鉄砲で思いつき、計画性はないしそういう行き当たりば
っ
たりなものに興味津々。何回彼女と遊んで痛い目をみたか。逆に紗代はお嬢様という言葉をそのままお出ししたような女の子だ
っ
たので、かなり前から気にな
っ
ていたことを聞くために。三依は紗代に電話を掛けてみた。
「ねえ、紗代ち
ゃ
ん
っ
てさキ
ョ
ウち
ゃ
んと仲良いと思うんだけど、なんで仲良くな
っ
たの?」
紗代は小首を傾げる。
「どうして?」
「いや、紗代ち
ゃ
んみたいなお嬢様はさ、キ
ョ
ウち
ゃ
んみたいなズボラな人間
っ
て敬遠するんじ
ゃ
ないのかな
っ
て。友達付き合いしてるのが珍しい
っ
ていうか
……
」
紗代は、三依に言われた言葉を一言一句間違わないように口内で復唱する素振りをしてから(復唱したように思えたのだ)、しばらくた
っ
て答えた。
「京香はズボラじ
ゃ
ないわ。だから敬遠しなか
っ
た。それじ
ゃ
答えにならない?」
紗代の言
っ
た言葉が、想像していた答えとぜんぜん違うもんだから、返答するのにまたかなりの間が空いた。
「ズボラじ
ゃ
ない
っ
て思
っ
たことなか
っ
た
……
。
っ
てことは、キ
ョ