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【BNSK】品評会 in てきすとぽい season 6
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銘菓、幻の恋人
 投稿時刻 : 2014.08.25 00:23
 字数 : 2838
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銘菓、幻の恋人
たこ(酢漬け)


 ある場所の、ある建物の、ある部屋に人が倒れている。その人物は口から赤い液体を流しており、手には菓子が握られていた。倒れた拍子で飛ばされたのか、体の近くにグラスが転がている。
 その光景が発見されたのは、夜九時の事である。その家の執事が、夫人が夕飯に現れないことから不思議に思い確認したところ、部屋で倒れているのが発見された。
 それが今回の死体発見の経緯である。
 そして呼び出されたのが、探偵Dと刑事Iである。二人は建物の中に通され、死体が倒れている部屋へと案内された。
 そしてそこには、死んだ夫人の夫と、息子、つまり家族と、執事も集まていた。その家には夫と夫人と、息子が三人で暮らしており、執事が身の回りの世話をしている。事件発生当時も、家の中にはこの四人しかいなかたようである。
 死体に目立た外傷はない。
「毒殺ですか?」
 探偵Dが聞いた。
「その可能性が高いね」
 刑事Iが答えた。
「そのお菓子に毒が入ていたんだよ」
 そう言われて二人が死体を観察すると、被害者の右手に菓子切れがつままれているのが発見された。
「これは?」
「どうやらこれのようだね」
 刑事Iがテーブルの上の小箱を指差して行た。
 そこには小分けに包装された菓子が入た箱が置かれていた。近くに破かれた包装が置かれていて、そこには「幻の恋人」と書かれていた。
「幻の恋人、か」
「この地域の銘菓ではないですね。誰か旅行にでも言たんですか?」
「それは私がこの前出張に行たときに買てきたものだ」
 この建物の主である夫が答えた。
「どこに行ていたんです?」
「それは、H県だよ」
「いつ帰てきたんです?」
「昨日だ」
「確かに「幻の恋人」はH県の名物土産の様ですね。私聞いたことがあります」
 探偵Dが刑事と夫のやり取りを聞いて言た。どうやら夫の言ていることは本当の様である。
「このテーブルの上に置いたのは?」
「それも私だ。帰てきてから、そこに置いたよ」
「夫人が食べるまで誰も食べなかたようですね」
「あ、私も言ていなかたからな。お前、食べたか?」
 夫がそう聞くと、息子は首を左右に振た。
 ふむ、と言た感じで探偵と刑事の二人は夫の方を見た。その視線を感じて疑われていると気づいたのか、夫は慌てて次のように言た。
「べ、別に私が毒を混ぜたわけじないぞ。これは本当だ」
「そうでしうね、まだ確証が足りない」
 そう言いつつも、刑事はまだ、疑いの目を夫の方に向けていた。
 部屋の中には夫が犯人だという空気が流れだした。
 夫は焦たのか額に汗が噴き出して、それを取り出したハンカチでぬぐていた。
「たぶん、犯人は別の人じないですか?」
 探偵の方を見ると、残りの「幻の恋人」をぼりぼりと食べているところだた。
「結構おいしいですね。これ」
「そんなことより、お前、食べて大丈夫なのか?」
 刑事が驚いて聞くと、
「え、大丈夫ですよ」
 探偵は何でもなさそうに答えた。
「どうやら残りの「幻の恋人」には毒は入ていないみたいですね」
 探偵Dはそう言いながら、もう一つの「幻の恋人」に手を付け始めた。
「どうやら夫人が食べたのはこの中の一つだけの様ですね」
 探偵が手を付けていたが、箱の中にはまだ数十個の「幻の恋人」が残ていた。
 そしてその角の一角を探偵が指を指していた。おそらくその一つを夫人が食べたということだろう。
「残りの二つの空いている部分は私が食べたものです」
 そう言て探偵が説明を始めた。
「この中の全てに毒が入ていないとすれば、夫人がこのお菓子を食べて死ぬ確率はどのくらいなんでしうですかね」
 そう問うように言いながらも、探偵の説明は続く。
「30個入りですか、そうすると、30分の一ですかね」
 探偵は、破かれた包装を手に取て言た。
「ま、食べ始めるときにどの場所を先ず始めに手に取るかは個々人によて差があるにしても、あまり高い確率ではない」
 他の人物は探偵の説明を黙て聞いていた。室内はまるで探偵の演説のようになていた。
「どうですか?自分が殺人犯だとしたらそんなロシアンルートのような方法をとりますか?あまりに確率が低いと思いませんか?」
「だが、今回の殺人がこの屋敷の人物を狙た無差別殺人だとしたら」
「それはそうですね。だが、今回は違うでしう」
「何故だ?」
「それはおそらく、夫人の事を調べれば分かるんじないでしうか」
「夫人?」
「はい。そしておそらく、今回の事件の凶器はそちだと思います」
 そう言て探偵は床に転がたグラスを指差した。
「犯人はおそらくこのワインに毒を仕込んでおいて、夫人がこのワインを飲むのを狙ていたのでしう」
「確かにそのワインは夫人が良く愛飲していたものだ」
 夫がそうつぶやいた。
「旦那さんはお酒を飲みますか?」
「いいえ、私はアルコールに弱くて」
「そうですか、息子さんは・・・まだ未成年でしたね。となるとこの家でワインを飲む人間は夫人しかいないことになる。そして、執事であるあなたが仕事中に酒を飲む訳にはいきませんしね?」
 そう言て探偵は執事に問いかけた。執事は黙たまま何も答えなかた。
「な、なんだ?犯人は執事だということか?」
 夫が驚いたように言た。
「どうなんだ?」
 刑事が問いかけると、執事は俯いていた顔を上げて言た。
「そんなの憶測にすぎませんよ。私は関係ない」
「今の段階では、そうですね。ですが鑑識で調べればいずれ分かることですよ?」
 そのまま執事は黙てしまた。夫と息子は不安そうに執事の様子を眺めていた。
 その後、執事は事情聴取のために刑事に連れて行かれた。これで一夜の惨劇は幕を下ろしたのであるが、その後取り調べで、執事の動機が明らかになた。
 執事は以前から家の主である夫の娘と懇意になていたことがあり、そのことを主人にばらすと夫人から脅されていたようであた。
 刑事が探偵に「そのことを知ていたのか?」と聞くと探偵は苦笑いして答えた。
「その事には私も苦心しました。ですが夫人の左手にも主人の左手にもまだ結婚指輪がつけられていた。証拠としては少々弱いかもしれませんが、夫婦の不仲は無いのではないかなと、私は推理したわけです」
「それだけか?」
 刑事がそう言うと探偵はにやりと笑た。まだ何か隠しているのだろうか。
「そうですね。最初に「お菓子に毒が入ていたんだ」と言た人物がどなたであたか刑事さんはお気づきでしたか?」
「いいや。よく覚えていないな」
 刑事は面食らたように答えた。
「最初にそう言たのが執事だたのですよ。むしろあそこは現場の状況から見て飲み物と食べ物のどちらかに毒が入ているのか迷う状況であた。それなのにお菓子に毒が入ていたと断定した執事が怪しいと私は踏んだのですよ」
「そうだたか」
 そう言て刑事は頭を抱えた。
「少々、冷静さを欠いていたかもしれませんね」
「あ、気を付けよう」
 そう言て刑事は手にしていたメモ帳を閉じ、探偵は吸ていた煙草を灰皿でもみ消した。事件の終わりである。
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