しゃんの季節
雨の日に土の中からむくむくと這い出てくるなめくじを、し
ゃんは思い出す。
皆はそんななめくじのことを気持ち悪いと言うが、しゃんはそう思わなかった。何故なら彼らを見ていると、生きているって感じがするからだ。
あいつらは単純、雨が降ると喜ぶ。日が照ると隠れる。
つまりしゃんが言いたいのは、なんて素敵な生だってことだ。あいつらの行動は全て、ダイレクトに生に直結している。それがボクちんは好きさあ。
しゃんがある家の前を通りかかったとき、不満を口にする男の子の声がその中から聞こえてきた。
ウワァ、カステラ全部カビにやられちゃってる、これだから梅雨は嫌いだヨ……
にやりとするしゃん。しゃんは梅雨が好きだ。何故なら彼がこの世に生を受けたとき、真夜中で外はいつまでもしとしとと雨が降っていて、しゃんはそのときの様子をずっと覚えていたのである。慣れた手つきで自分を取り上げる助産婦。髪を乱して息も絶え絶えで、それでも自分は仕事を終えたのだと安堵の表情を浮かべる母。父はせっかくこうして我が子が生まれたというのに、おろおろするばかりだ。見習いであろう若い女が緊張した面持ちで、何かの準備のためにきびきびと動き回っている。ああ、これが生まれるということだ。本能的に察したしゃんは、それを示す産声をあげた。世界が暗い雨に包まれる中で。
だからしゃんに誕生日は存在しない。あるのは、誕生の季節だ。