【BNSK】品評会 in てきすとぽい season 13
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the_flame(unfinished)
投稿時刻 : 2015.07.19 19:33 最終更新 : 2015.07.19 19:59
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目次
1. 授業が全て終わったので、この教室からいちばん近い自習室へ向かうことにした。
2. 「おう、ちょっといい?」
3. 今日の授業は全て終わり、閉館まで二時間ほどあったので、私はいつもの自習室に向かった。あまり期待せ
4. 彼らは先生に質問しに行くということなので休憩室で別れた。私はエレベーターに向かわず、階段へ向かっ
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更新履歴
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「おう、ちといい?」
 翌日の夕方過ぎ、空き教室で一人でおにぎりを食べていた時に石川から急に声をかけられた。てきり昨日の自習室で覗き見していたことを言われるのかと思たが、挨拶を返すとため息交じりにこう言てきた。
「現代文教えてよ。どうしても伸びない」
 石川とはもう現代文の授業は同じクラスではなかた。私の知らない単科講座の教科書を見せてきたが、解いてもいない問題にアドバイスできるはずもなく、やんわりと断た。
 彼は「ケチ」とだけ言うと机を挟んで私の前に座た。
「どうやて解いてるんだよ。あんなに早く」
「日本語でし、そのまま読んで、そのまま答えればいいだけじない」
 思たままのことを素直に言うと、彼は「単科講座の先生もそう言てたよ」と言た。
 それから彼は口を開かず、その間に私はおにぎりを全て食べ終えた。彼は珍しく制服姿で、細身な身体に紺色のブレザーとネクタイをした姿が少しかこよく見えた。
 本当はささと食べ終えて自習室に行くつもりだたが、なんとなしに彼と話したかた。
「なにが分からないのよ」
「どうして間違えるんだろうなあ、て」
「間違えるように問題が作られているからでし。私だて、どうして英語の長文で間違えるんだろうと思てるわよ」
 私がそう言うと、彼は首を捻た。
「英語? 英語こそそのまま読めばいいんだよ」
「できる人はみんなそういうよね」
「うわー、俺よりできてるくせによく言うよ」
「この前の模試は勘が当たりすぎて参考にならないわよ」
「俺の国語も今はそんな感じだ。勘が冴えてるて感じ」
 十月の模試は思たより簡単だたのかも、と二人で頷くと、話は止まりお互いに口を閉じた。私があくびをすると、彼は眠たそうに目をこすたりして、そしてスマホを取り出していじり始めると、私も真似するようにスマホを取り出した。授業まで残りおよそ四十分、スマホですることもなく、私はスマホをしまうと二人きりでいるところを知人に見られたくなくて席から立ち上がろうとした。
「自習室、あいてないよ」
 スマホをいじりながら彼が言た。「そうなの、ありがとう」と私が言うと、「あの自習室、最近になて人気が出てるみたい」と言てスマホをカバンにしまた。
「炎、書くの好きなの?」
 行先を失た私はそう言て着席した。彼は今から夕飯を食べるらしく、カバンからコンビニで売られている焼きそばパンとメロンパンを取り出した。
「いや、絵を描くことは好きだけどよ、別に炎が好きなわけじない。そういや昨日、自習室で俺のノートを覗き込んでたけ」
「知てたの?」
「知てたけど、あの自習室で声出すて、すげえ勇気がいる」
 私は思わず笑て頷いた。彼は焼きそばパンの包装の封を縦に切た。いつもコンビニで見かけている焼きそばパンは、彼が一口目を頬張るときに特に美味しそうに見えた。
「最近食べていないなあ、焼きそば」
「復活したよな、ペヤング。コンビニ行たけど売り切れだた」
「食べたかたの?」
「いや、別に」
 ふーん、と私が適当に返事をすると、焼きそばパンを半分ほど残して彼はメロンパンに手を出し、一口がぶりついた。
 飲み込み、指先で口元を拭いてから言た。
「単科講座の小説が芥川龍之介の地獄変でな。それを解いていたら炎の絵を描きたくなた。ついでに描いていたら、絵師の考えも少しは分かるかなて思たんだけど、無理」
「分かるわけないでしうが、そんなの」
「でもよ、この時の絵師の考えとして適切でないものを一つ選べ、て問題が出てくるのよ」
「それぽい根拠を探すんじなくて、明らかに違うことが書かれているのを見つければいいだけでし
 そう言て私は教科書を見せてもらた。彼を悩ませていた問題には選択肢が五つあり、一見してもどれが間違ているのか分からなかた。
 芥川龍之介の地獄変は高校の教科書で読んだ。自習時間ですることがなく、暇つぶしに読んで、燃える車の中に飛び込んだ猿に驚き哀れに思え、絵師の気違いぷりに芸術至上主義とは悲惨なものだなあ、とそう思たくらいだた。
 問題を解く気もあまり起きず、次のページをめくると解答欄に3と書かれて赤マルが付いていたので、「あてんじん」と言て私は返した。
 石川は焼きそばパンの最後の一口を飲み込んでから言た。
「いや、なんとなく分かるんだけどよ。娘を焼かれた絵師の気持ちて、ただ描きたいという思いだけじなかたのは分かるんだけどよ、でも気が狂ているわけでもなかたんだろ」
「気違いぽいことはしているけど、己の芸術のために行ていたことだからね。狂ているとは別でし
「でも、自分の愛してた娘が目の前で焼かれてるのに芸術のために見続けるかて思て」
「そこは物語だから」
「そんな嫌そうな顔すんなよ。で、思たんだけどよ」
「なにを?」と私が言うと、彼は冗談半分な顔をして言た。
「そこにいる娘は本当に自分の娘だたのかなあて。もしかしたら自分の描いた絵から出てきた娘だたのかもて」
 なにバカなことを言ているんだよ、と私は冷やかに笑た。
「そうだとしたら絵師はまた娘を描き出すんじないの?」
「そうかもなあ」
 彼のその一言でその話は終わり、残りの時間はどこを受験するというありきたりな話になた。お互いに第一志望は国立の同じところに変わておらず、一緒に合格しようねと簡単に言て、授業開始10分前になると、次の授業の教室へ彼は向かおうとした。その場で別れを告げたとき、教室にはかなりの人が着席していた。

 ―あの自習室で声出すて、すげえ勇気がいる―
 たとえそうだとしても、振り向いて目で挨拶してくれてもいいじない。そう思たが、逆の立場だたら私も黙て描き続けているだろうな、と思た。
 ただ、私の場合は勇気とかではなく、邪魔しないでよという威嚇を張り巡らせながらだと思た。
 我ながら嫌な性格だ。
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