てきすとぽい
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【BNSK】品評会 in てきすとぽい season 14
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…
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〔 作品6 〕
もてかわ!
(
大沢愛
)
投稿時刻 : 2015.10.03 23:59
字数 : 4560
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もてかわ!
大沢愛
〇
私が三歳のときに九十八歳で亡くな
っ
た曾祖母は、私を見るたびに「この子はシ
ャ
ンになるよ」と言
っ
ていたそうだ。
曾祖母は若いころはたいへんな美人だ
っ
たらしい。祖母のほうがきれいだ
っ
たというひともいるけれど、それは祖母を前にしての言葉だ
っ
た。
母はち
ょ
っ
と固い感じがするけれど、折り込み広告のモデルが務まるくらいにはきれいだと思う。
「シ
ャ
ン」はドイツ語で「美人」のことらしい。
そして私は、曾祖母にそ
っ
くりだ、と言われる。
ふつうの家で、小学生の娘がおし
ゃ
れに気を遣いだしたら家族はどういう反応を見せるだろう。「色気づいた」とか「まだ早い」、もしかすると「好きな男の子でもできたの」くらいは言われるのではないか。
わが家では、父は「それ、似合
っ
ているな」とか「莉子は首から背中のラインがきれいだから、襟元が広いのもいいね」とか言
っ
てくれる。私は微笑んで、ありがとう、と返す。
母は、私の姿を見ると一瞬、動きを止める。しばらくしてぽつりと言う。
「莉子もたいへんね」
うん、とうなずいて、私は胸を張る。
たぶん、父と母はそれぞれ「ちがうこと」を分か
っ
ているのだ。私にと
っ
てはどちらもうれしいし、必要だ。
おし
ゃ
れをすればち
ょ
っ
と得意な気分と不安とがないまぜにな
っ
ている。だからとにかく反応が欲しい。会
っ
てすぐ「それ可愛いね」と言
っ
てくれればほ
っ
とする。時間が経つうちに期待は萎んでい
っ
て、痺れを切らしてこ
っ
ちから「どう?」と訊いた時点でこちらのテンシ
ョ
ンはかなり落ちている。そこでモタモタと褒められても、中身が事前に分か
っ
ているプレゼントを渡されたみたいで喜びはない。なかにはなにを勘違いしたのか、コー
デ
ィ
ネー
トやフ
ァ
ッ
シ
ョ
ンについて薀蓄を並べる男の子がいるけれど、最悪だ。欲しか
っ
たのは最初のち
ょ
っ
とした反応なのだ。なにより大切なのはタイミングで、内容は二の次といえる。でも、非モテの男の子に限
っ
て「内容」に妙にこだわる。実際には完全にタイミングを逸したあと何を言われても独りよがりにしか聞こえない。そういう子たちは最初に声をかけてくれる男の子を馬鹿にする。
「口がうまい」「チ
ャ
ラい」「内容がない」
ひとつひとつをと
っ
てみれば確かに正しいけれど、たぶんこの子たちは一生モテないだろうな、と思う。モテの男の子がなぜモテるのかがさ
っ
ぱり分からず「あんなのに騙される女は馬鹿だ」という結論にしかたどり着けないのだから。
父のいいところは、私を見たとたんに「おし
ゃ
れポイント」にち
ゃ
んと触れてくれることだ。内容はなんてことはないけれど、とにかくタイミングを外さない。さすがは美人の母を射止めただけのことはある、と思う。小学校の男の子たちのように給食が終わ
っ
てから「莉子、へんな格好してやがんの」とか聞こえよがしに叫んで笑い合
っ
たりしない。年上好きの女の子がいるのも、こういう男の子のガキ
っ
ぽさに嫌気がさしているからだと思う。
女の子がおし
ゃ
れをするのは小学生のころから一貫してまず同性の女の子の目を意識してのことだ。教室やクラブ、塾の中で、女の子同士のグルー
プや位置関係はすぐにできあがる。遊んでいい相手やハブにしなければならない相手、なにをどこまでなら許されるかが目には見えないけれど決ま
っ
ている。ものすごくアレな女の子が必要以上に張り切
っ
ておし
ゃ
れすれば見苦しいし、苛めのき
っ
かけにな
っ
たりもする。逆に可愛い子がそれ相応のおし
ゃ
れをしないと馬鹿にされる。どう考えてもブサな子たちよりも可愛いのに、きちんとおし
ゃ
れをしていないことで反感を買
っ
てしまう。自分になにが似合うのか、どのあたりまでならセー
フなのか、そんなことを考えているとなんだかおし
ゃ
れのことにしか関心がないみたいだ。
正しいけれど、ちがう。
中学生にな
っ
て制服を着るとほ
っ
とした。お出かけのときを除けば、そこまで気を遣わなくてもよくなるからだ。それでも身長が伸びて体型が変わることを考えれば、やはりおし
ゃ
れから無縁にはなれない。この年頃になると、男の子たちは妙に色気づいて、ヘンな勘違いをし始める。
「女の子は男に気に入られようとおし
ゃ
れをする」
笑う気にもなれない。
スカー
トを短くするのは男に下着を見せたいからだ、というのはいくらなんでも冗談のつもりで言
っ
ているのだろうと思
っ
ていたけれど、どうやら本気らしいとわか
っ
たときには頭がくらくらした。足の長さと身体全体のバランスとを考えてスカー
ト丈を詰めているだけなのに。
勘違いした男の子は上から目線で聞こえよがしに言う。
「ち
っ
とも似合
っ
ていない」
「自意識過剰だろ」
「そんなんじ
ゃ
モテない」
言葉そのものよりも「女の子は自分たちの目線に一喜一憂しているに違いない」という何の根拠もない傲慢ぶりにイラ
ッ
とする。女の子は基本的に女の子同士の目線に神経を張りつめているのだ。特に嫉妬や足引きに遭いやすい位置にいると、かなりの気遣いが必要になる。
そのあたりを母は身に沁みて分か
っ
ているのだ。だから「たいへんね」のひと言には重みを感じる。
高校になると、公立中学では授業中に原付で廊下を走り回
っ
たり職員室の窓ガラスをバスケ
ッ
トボー
ルで全部割
っ
てしま
っ
たりする子たちを息を殺してやり過ごしていたタイプの男の子たちが、急に活発にな
っ
てきた。
告白される機会が多くな
っ
た。まわりの女の子の友だちは内心、いろいろ思うところはあ
っ
たはずだけれど、あからさまに態度に表す子はいなか
っ
た。なるべく表沙汰にせず、ていねいに「お断り」したのが良か
っ
たのかもしれない。
十人目に告白されたところで気づいた。モテるというのは「自分がモテるタイプの相手にだけモテる」ことだ。それ以外の相手にはモテはしない。十人は見た目や成績、性格はそれぞれだ
っ
たけれど、どこか共通する「におい」のようなものがあ
っ
た。私のどこに「反応」するのか、なんとなくわかる。そのあたりを訊きたくて「あの、私なんかのどこが好き?」と言
っ
てみた。
「全部が好きだよ」
「どこが、とか言えるわけない」
これがどれだけが
っ
かりする答えか、たぶんその子たちは分か
っ
ていない。
私を好きにな
っ
たのは自分だから、答えは自分の中にあるはずなのに、私の中を探
っ
ても答えは見つからないだろう。
言えないような理由だとしても聞いてみたいと思う。「すごくえ
っ
ちそうなところ」とか「抱きしめても怒らずに応えてくれそうなところ」とか。もちろんそれは私が実際に「え
っ
ち」だ
っ
たり「ゆるい」子だ
っ
たりするかどうかとは無関係だけれど、私にそういう反応を促す要素を感じる、という点では同じだ。幸か不幸か、そういうことを言
っ
た子はいなか
っ
た。いたとすれば、たぶん、いつもより冷たくお断りしたはずだけれど。
現代文の授業で太宰治の「富嶽百景」をや
っ
たときのことだ。作者の太宰の心中の動機として、処女だと思
っ
ていた初代さん(すごい語呂だと思う)が実はそうではなか
っ
たことがあ
っ
たそうだ。先生が寸劇風に「初代は処女ではなか
っ
た・・・・・・死のう!」と教壇上で叫んでみせた。思わず笑
っ
てしま
っ
た。教室に笑い声が興
っ
たけれど、何か変な気がして周りを見回した。
笑
っ
ているのは女の子たちだけで、男の子たちはみんな真顔だ
っ
た。
や
っ
ぱりそういうのにこだわるんだ、と思
っ
た。
でも、目の前にいる相手の過去が気になることについて、素直に納得する気にはなれなか
っ
た。教室にいる男の子たちは小学生のとき、女の子にと
っ
てどんな存在だ
っ
たのか。からかい、傷つけ、暴力を振る
っ
たこともあるはずだ。中学生のとき、どんな目で女の子を見て、とんでもない思い込みで無神経な言葉や態度を示したか。それらはみんな「なか
っ
たこと」にしておきながら、目の前の相手の男性経験の有無は看過できないのだろうか。それこそ心中したくなるくらいに。
高校に入
っ
てからできた友だちに真音という子がいた。入学後、同じクラスの猛くんと付き合い始めた。休み時間にはいつもい
っ
し
ょ
で、放課後は猛くんのサ
ッ
カー
部の練習が終わるまで、教室で待
っ
たり防球ネ
ッ
トのところで応援したりしていた。教室で一緒におし
ゃ
べりしていたとき、声をひそめて、莉子は男の子としたことある?と訊いてきた。ないよー
、と答えると、心底ざんねんそうにうつむいた。深追いしないように話を逸らそうとしたけれど、真音は逃がしてくれなか
っ
た。実は最近、猛くんがそのことについてしつこく訊いてくるらしい。ごまかしているけれど、実は中学時代に塾の先生としたことがあるのだそうだ。本当のことを言うべきかどうかで迷
っ
ている、という。
「絶対に言わないほうがいい」
かなり強い口調で答えた。言
っ
たとしても猛くんはうまく受け入れられないだろうし、わざわざ気分が悪くなることを持ち込まなくても、と思
っ
た。真音はしばらく黙
っ
ていたけれど、嘘をつきたくない、とか、このままでは猛くんがかわいそうだ、とか言い始めた。まずいことにな
っ
たと思いながら、それでも言わないほうがいい、ということだけは穏やかな口調で伝えておいた。
結局、真音は猛くんに打ち明けてしま
っ
たらしい。その結果、猛くんは真音を先輩やら友だちやらに紹介するようにな
っ
た。真音は猛くんのために応じていたけれど、そのうち猛くんは他の女の子と付き合い始めた。
本当のことを知
っ
たら耐えられないくせに相手には本当のことを求める、というのは子どもと一緒だ、と思う。本当のことを求めて来たら、別れる覚悟で言うか、そうでなければ嘘をつき通すべきだ。そもそもそんなことを求めてくる時点で先はない気がするけれど。
〇
そして私はベンチに座
っ
ている。待ち合わせ時間まであと二十分だ。
シ
ョ
ッ
ピングモー
ル二階の休日昼前は人の流れが途切れない。こんな場所で待ち合わせなんて、と思うけれど、でもこの場所を指定したのは拓斗のほうだ
っ
た。
私にと
っ