【BNSK】月末品評会 in てきすとぽい season 5
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朝食風景
茶屋
投稿時刻 : 2014.07.31 21:56
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朝食風景
茶屋


 薄いカーテン越しに差し込んでくる光は少し暑い。
 小鳥は囀りにも飽きた様子で方々に羽ばたいて行く音が聞こえる。
 道路を車が過ぎ去る音も次第に増え、どこかではもう工事の機械音が聞こえ始めている。
 朝が目覚めていた。次々に聞こえている音がおはよう、おはようと呼びかけ合ているようにも聞こえる。
 朝の音楽は家の中でも奏でられ始めている。
 カチというガスコンロに火の付く音、トントンというまな板を包丁で叩く音。コトコトという湯の煮える音。卵の割れる音。ベーコンの焼ける音。慌ただしい足音。
 音だけでなく香りもまた、朝の到来を告げている。
 味噌の香りと胡椒の香りが交じること無く漂い、家の中に広がていく。
 そんな中で男は鼻歌のリズムに合わせてきびきびと朝食を形にしていく。
 朝のそんな作業が男を夢の風景から遠く引き離し、現実が立ち上がてくる。
 紛れも無く朝であり、現実の始まりであり、夢は忘却の彼方へたち消えていく。
 蛇口をひねり、水の音。
 エプロンで手を拭いながら、男は台所を離れ廊下へ向かうと、声をだす。
「ご飯できたぞー
 それは階上の息子と階下の寝室に居る妻に向かた呼びかけだた。
 息子はまだ微睡みの中にいるかもしれない。妻は仕事に向かう身支度をしているかもしれない。
 男は再び台所に向かい食卓の上に朝食を配膳していく。
 我ながらよく出来た朝食だ。
 毎度ながら男は心のなかで自賛する。
 椅子を引いてやり、妻と息子を迎える。
「なんだ?まだ眠そうだな?」
 男は微笑みながらそう語りかける。
 「いただきます」の号令の後、テレビをつけ、天気予報を見ながら箸を手にもつ。
「50%……傘は持ていたほうがいいかもね。」
 食器と箸やフクの触れる音。
 味噌汁を啜る音。
 咀嚼する音。
 テレビの中の人の声。
「そういえば今日はテストていてたな?また一夜漬けか? ……ん、やばいてお前、普段からコツコツやらないからだよ」
 味噌の味。
 ベーコンの歯ごたえ。
 レタスの瑞々しさ。
「母さん、コーヒーは飲む? ……あ、そ。じ入れるね。ミルクは?……ん、OK」
 こんな朝の風景は何度も繰り返されてきた。何度も何度も。飽きること無く、変わること無く。
 多分これから先も、こんな風景が繰り返されていくのだろう。
 これが当たり前で、それでもかけがえの無いものであることは、男は知ている。
 男はずとこんな幸せが続けばいいと願ていた。ずと前から、そしてこれからも。
 
 仏壇には真新しい遺影が二つ並んでいる。
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