てきすとぽい
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【BNSK】品評会 in てきすとぽい season 8
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双頭の獅子
(
茶屋
)
投稿時刻 : 2014.11.16 15:28
字数 : 5067
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双頭の獅子
茶屋
ヴ
ェ
ルスルムント帝国、サビルゲイデン公領、ヒビデガルガ地区。
燃え盛る炎が、その村を焼き尽くしていた。
炎の舌は建物を嘗め回し、その触手は縦横無尽に跳ね回る。
家は崩れ、家畜は嘶き、人は叫びを上げる。
村は天空を照らす赤き灯と化し、地獄の音楽を奏でる。
天魔外道の祝祭だ。
抵抗する者は殺され、犯され、蹂躙される。
隣国の領主・ヴ
ィ
ルヘルムが謀叛を起こし、手始めにスベルテ砦に隣接する村々を焼打ちにしてい
っ
たのだ。
そんな中にバルデガ
ッ
ト村があ
っ
た。
ヴ
ィ
ルヘルムの指揮する軍勢は統率と言うものがなか
っ
た。蛮族の集団にも似た卑俗さで村を荒らしてい
っ
た。
ヴ
ィ
ルヘルムは有能な将ではなか
っ
たが、後の乱世に向かう時代で最初に反逆の狼煙を上げた者として人々の記憶に残されている。
その日、バルデガ
ッ
ト村の平穏は破られ、穏やかな日常と多くの命に終止符が打たれた。
だが、多くの命が失われたのち、救援が現れた。
スベルテ砦の包囲に向かうヴ
ィ
ルヘルム軍の背面から攻勢を仕掛けるべく、帝国第六方面軍司令官・ヴ
ァ
ルハラガンド伯爵が手勢を引
き連れや
っ
てきたのだ。全てが遅すぎたが、それでも救われたものがあ
っ
た。
燃え盛る村で、フ
ァ
セルとエイン、そしてエインの妹・フ
ァ
ナはヴ
ァ
ルハラガンドの手で救われた。
彼らの目に映
っ
たのは白銀の騎士、天より舞い降りた救世主だ
っ
た。
「もう大丈夫だ。安心しろ」
敵を薙ぎ払い、野獣どもを追い払
っ
ていく。
親兄弟を失
っ
た三人はヴ
ァ
ルハラガンドの下で養育されていくことになる。
そして時は流れ、時代は変わる。
ヴ
ェ
ルスルムント帝国は乱世を迎え、群雄割拠の時代に突入する。
そんな中でヴ
ァ
ルハラガンドは最初は旧帝国の守旧派として頭角を伸ばし、やがて帝国軍より離脱、変革を説く改革者として群雄の一
人として立ち勢力を拡大していく。
ヴ
ァ
ルハラガンドの下で育
っ
たフ
ァ
セルとエインは子飼いの将として立派に成長し、ヴ
ァ
ルハラガンドの双頭の獅子と呼ばれるまでに
な
っ
ていた。フ
ァ
ナもまた女だてらに武芸に励み、仮面の女騎士としてヴ
ァ
ルハラガンドの領土拡大に貢献していた。
三人は変わらぬ友情とヴ
ァ
ルハラガンドへの忠誠の元、共に成長し、友情を深めてい
っ
た。
フ
ァ
セルは信じていた。
いつまでも変わらず、このまま突き進んでいくのだと。
そしていつの日かヴ
ァ
ルハラガンドが天下に覇を唱えた暁には天下泰平のため、尽力奔走していくのだと。
だが、そんな日はいつまでも続かなか
っ
た。
バルデガ
ッ
ト村はヴ
ァ
ルハラガンドの支配下に組み込まれていた。
村は再建され、今では多くの人々が移住し、流通の要所として賑わいを見せている。
そこにはかつての村の姿はない。
かつての故郷の姿は消えていた。
それでもフ
ァ
セルは満足げな表情を浮かべている。
人は変わる。
世界は変わる。
これもヴ
ァ
ルハラガンド様のおかげなのだ。
世界はより新しく、より豊かに変革されていくのだ。
だが、その隣にいるエインの顔は何処か憂愁を帯びている。
「変わ
っ
たな」
「ああ、ここが本当に俺たちの村だ
っ
たのか。不思議だよ」
「だが、何もかもが良き方向に進んでいる」
「そうだろうか」
久しぶりに邂逅だ。それにもかかわらず憂いを帯びた表情のエインの感情が解せなか
っ
た。
フ
ァ
セルは東の方面軍、エインは北の方面軍の一軍の将として活躍している。
それが再び結集したのだ。
間もなく、敵対する隣領の太守・エドウ
ィ
ル公との大決戦が控えているのだ。
エドウ
ィ
ル公はヴ
ァ
ルハラガンドとは対照的で守旧派であり、積極的な侵攻はしないものの、家臣団との固い結束、旧弊権力との固い
結びつきで劣勢に立たされた守旧派勢力をまとめ上げ勢力を強大にしてきた。
「何かあ
っ
たのか」
「いや」
「酒でも飲め。下らぬことなど忘れてしまえ。我らは何も考えず覇王に従
っ
ておればよいのだ」
「お前は飲みすぎだ。そして考えが無さすぎだ」
「御尤も!」
そこで初めて二人は笑
っ
た。
「変わらんなお前は。いつもそうや
っ
て俺を笑わせてくれる」
「変わ
っ
たなお前は。そんな顔など昔はしたことがなか
っ
た」
エインの表情には再び憂いが浮かぶ。
「ヴ
ァ
ルハラガンド様は急ぎすぎている。急ぎすぎてすべてが壊れそうな気がする」
「そうだろうか。そうでもしなければ人は変われぬ気がする」
「変われぬ民を愚かとして切り捨てるヴ
ァ
ルハラガンド様は果たして民のための治世を敷くことができるのだろうか」
「疑
っ
ておるのか?」
「わからん。だが
……
あの御方は変わられた。あまりにも」
エインは思いを馳せる。
ヴ
ァ
ルハラガンドの下で、ある教会勢力と戦
っ
た時のことを。
教会には教区兵士だけでなく多くの信者も立て籠も
っ
ていたが、ヴ
ァ
ルハラガンドはなで斬りを命じた。
エインはそれを止めようとした。
「罪なき民をなぜ殺すのです」
ヴ
ァ
ルハラガンドは冷たい笑みを浮かべて答えた。
「己に罪がないと思
っ
ている者共ほど、罪深き者はいないのだ。それがわからぬか。」
「
……
わかりませぬ」
「いずれわかる。天を見よ。天の下においては、人の生き死になど些末なもの」
「
……
人はそれでも、生きていた方が良いのです」
「変われぬなら、いずれにしろ死ぬのだ。人のみならず、万物と言うものは」
エインは驚愕し、その場を動けなくな
っ
た。
果たしてこの御方はこんな御人だ
っ
ただろうか。
あの日、燃え盛る村で自分達を助け出してくれた白銀の騎士はも
っ
と優しい笑みを浮かべられる人だ
っ
たのではないか。
燃え盛る要塞教会の中から聞こえる人々の悲鳴はいつまでもエインの耳から離れることはなか
っ
た。
そう、かつて己の村が焼かれた時の悲鳴と重な
っ
て。
夜にな
っ
た。
村を見渡せる丘で二人、ただ黙
っ
て暖かい灯りを眺めていた。
黙
っ
ていた。
フ
ァ
セルは何かの予感を感じながら。
エインは何かの決意を秘めながら。
そして、エインは意を決し、言い放つ。
「俺はヴ
ァ
ルハラガンドを討つ」
フ
ァ
セルは立ち上がり、エインを見つめる。
「今の言葉、冗談でも度が過ぎる」
「冗談ではない」
「本気か?」
「本気だ」
二人の間に静寂が流れる。
「ヴ
ァ
ルハラガンドはあまりにも変わ
っ
た。野望に染まり、下々に目が届かなくな
っ
た。あの頃のあの御方ではもはやない」
「違う。自ら、変わられたのだ。自ら、己を殺されたのだ。それもすべて、良き世を作り上げるため」
「だがそのやり方はあまりにも冷酷だ。変われぬ民を切り捨て、ついてこれるもののみのために世界を作り上げようとしている。それで
はすべての民を救うことはできぬ」
「犠牲の無い変革などあり得ないのだ」
「犠牲の上に成り立つ変革など、必要ない」
エインの眼差しは突き刺すようにフ
ァ
セルを見つめる。
「共に来い。我らは、民のために戦うのだ」
「
……
」
手が差し伸べられる。
共に戦
っ
てきた。
いつも。
いつも。
エインを裏切ることなど、フ
ァ
セルには出来なか
っ
た。
だが、ヴ
ァ
ルハラガンドの忠誠心を裏切ることも出来なか
っ
た。
そして己の心を裏切ることも。
「
……
断る」
「そうか」
エインは一人去
っ
て行
っ
た。
フ
ァ
セルはどうすることも出来ずに立ち尽くしている。
冷たい風が二人の間に流れて、消えた。
フ
ァ
セルはその夜のことを誰にも明かさなか
っ
た。
ただ、黙し、悩んだ。
今更説得など、無駄だという事はわか
っ
ていた。
何もできずに日々は過ぎ去
っ
て行
っ
た。
そして、エドウ
ィ
ル軍との決戦と当日、エインは裏切りを実行に移した。
エドウ
ィ
ル軍の右翼を突くかに見せかけ、反転、中央本陣目がけ攻勢を仕掛けてきたのだ。
味方は動揺し、崩れ去
っ
た。
だが、そこで踏ん張りをみせたのはフ
ァ
セルの軍だ
っ
た。
そのまま退却に移るヴ
ァ
ルハラガンド軍の殿を務め、キ
ャ
メリア渓谷で何度も敵軍を追い散らし、最後までエインの軍勢の突貫を許さ
なか
っ
た。
エインは自ら先陣として、突撃を繰り返した。
同じく前線にはフ
ァ
セルがいた。
一瞬だけ二人の目があ
っ
た。
それがかつての友との別れとな
っ
た。
そして二人は敵にな
っ
た。
ヴ
ァ
ルハラガンド軍の立ち直りは早か
っ
た。その年の冬には再び軍勢を整え直し、エドウ
ィ
ルの領地を各個撃破の形で侵してい
っ
た。
そして、春の雪解けを待ち、再び決戦が始まる。
そこでフ
ァ
セルはヴ
ァ
ルハラガンドに先方を申し出た。
ヴ
ァ
ルハラガンドの配下たちはフ
ァ
セルを疑い、反対したものの、ヴ
ァ
ルハラガンドはそれを受け入れる。
「友との別れもいいたかろう。先方を申付ける」
フ
ァ
セルは深く頭を下げると、その場を後にした。
決戦はヴ
ァ
ルハラガンド軍の優勢のまま進んでい
っ
た。
エドウ
ィ
ルの軍勢が次第に崩れていく中、エインの軍勢は最後まで踏ん張
っ
ていた。
まるでここを死に場所と定めるかのようだ
っ
た。
ヴ
ァ
ルハラガンドはそんな趨勢を眺めながらぽつりと言う。
「愚かな男よ」
すぐそばにいた小姓は主の真意がつかめず、どこか抜けた調子で答えた。
「はあ」
「わからぬか。あやつは命を賭けてわしに諫言しておるのだ」
「まさかこの謀叛の目的がエイン殿の諫言だとお
っ
し
ゃ
るのですか?」
「さよう。初めから死ぬつもりだ
っ
たのだ。げに、愚かな男よ」
ヴ
ァ
ルハラガンドはどこか悲しげな眼をしていた。
飛龍部隊の戦闘にフ
ァ
セルはいた。
敵の飛龍はもはやすべて逃げたか、撃ち落とした。
制空権はもはやヴ
ァ
ルハラガンド軍の物とな