てきすとぽい
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【BNSK】品評会 in てきすとぽい season 13
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(時間外&文字数超過)リプレイ
(
ほげおちゃん
)
投稿時刻 : 2015.07.20 14:42
字数 : 11012
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(時間外&文字数超過)リプレイ
ほげおちゃん
故郷に帰
っ
た時、昇は衝撃を受けた。
電車を降りて改札口へと下る階段に向かう途中、幼馴染がお腹を擦り、自分と同年代の男と仲睦まじそうに歩いているのを見かけたのだ。それだけで、昇には十分だ
っ
た。元に戻らない日々はあるのだと、思い知るには十分だ
っ
た。
改札口を出た後、近くのフ
ァ
ー
ストフー
ド店でドリンクとハンバー
ガー
を頼み、頬張
っ
た。その後、再び改札口を通り抜け東京に戻
っ
てい
っ
た。行くときに感傷に浸
っ
ていた思いはぶち壊され、数千円の痛い出費だけが残
っ
たのである。昇は電車のドアを叩いた。何度も何度も、ドアを叩いた。
何をや
っ
ているんだ俺は
……
?
何をや
っ
ているんだこの俺はよ
ォ
ッ
!
何を言
っ
ている、ただ現実にな
っ
ただけじ
ゃ
ないか。
冷めた思考が昇を襲う。
東京出るときから分か
っ
てたはずだろ? 上も下も横も後ろも道がなくな
っ
て、ただ前に進んでいくしかないんだ
っ
て。それが現実にな
っ
ただけじ
ゃ
ね
ぇ
か
……
!
昇はドン
ッ
、とドアに体を押し付け、そして動かなくな
っ
た。
売れてやる。
絶対に売れて、何もかも見返してやる。
「は
……
? 路線変更
……
?」
雄二は耳を疑
っ
た。
まさか天変地異が起きても、この目の前にいる人物だけはそれを口にすることはないはずだと確信していたからである。
「いつまでもさ、化粧してオカマみたいな恰好しててもし
ょ
うがね
ぇ
だろ?」
昇が向かいのパイプ椅子で踏ん反り帰
っ
ている。堂々と気だるげで、説明するのもバカらしいという雰囲気だ。
タバコの匂いが染みついた狭いスタジオ控室に、四人の男たちが一同に会していた。ボー
カルの昇、ギター
の雄二、ベー
スの雅、ドラムの梶。結成から四年でメジ
ャ
ー
デビ
ュ
ー
に上り詰めた、ヴ
ィ
ジ
ュ
アル系ロ
ッ
クバンド・リプレイの面々だ。しかし七年目を迎えた今、彼らはそのアイデンテ
ィ
テ
ィ
を捨てようとしている。
「路線変更
っ
て
……
じ
ゃ
あどんなのするんだよ」
「JPOP
っ
てやつ?」
「はあ?」
調子の外れた声を出す雄二。
「JPOP
っ
て
……
お前、あんなのやるぐらいなら死んだほうがましだ
っ
て言
っ
てたじ
ゃ
ね
ぇ
か!」
「だからよ、皮肉るんだよ。世間
っ
てのはさ、俺たちの音楽が高尚すぎて理解できないんだろ? だからさ、お前らはどうせこんなのが好きなんだろ?
っ
てや
っ
てやんのさ。そんでまた売れたら好きなことやり
ゃ
あいい」
昇はニヤニヤしている。
雄二が昇の隣に目を向ければ、雅は長い髪で目線を隠して縮こま
っ
ていて、その向かいにいる梶は相変わらず何を考えているのか分からない表情だ。
おかしいと思
っ
ているのは俺だけなのか。
「お前さ
……
どうしちま
っ
たの?」
「は?」
「お前隠してるけどさ、この前実家に帰
っ
たんだろ? そんときなんか言われたのか?」 ピクリ、と雅が反応する。
昇の表情から笑みが消える。
「は、なに検討違いなことい
っ
てんの?」
「お前が突然変なことを言い始めたんだろうが。なに、びび
っ
ちま
っ
たのか?」
「テメ
ェ
……
!」
「やめてくださいふたりとも!」
昇が立ち上がり雄二に掴みかかろうとしたところで、雅が慌てて昇の体を抱え込む。
「離せよ、オイ
ッ
!」
「雅、お前はどう思
っ
てんだ!」
雄二の言葉に、昇と雅がピタリと体の動きを止める。
「僕
……
ですか?」
「お前さ、このバンドやるから
っ
て無理やりこいつに東京に引
っ
張り込まれたんだろ? それが急に路線変えるとか言い出してよ。 むかつくとかないの?」
「僕は
……
」
俯く雅。顔を上げれば、激しい怒気で昇が雅を睨んでいるのは分か
っ
ているのだ。
それでも、雅の出した答えは自らの本心に従うものであ
っ
た。たとえそこに恐怖があ
っ
たとしても、それだけが全てではない。
「僕は
……
昇さんに従います。これまでそうや
っ
てメジ
ャ
ー
にまで来れたんですから、昇さんのことを信じています」
しばらく息を荒げていた昇だ
っ
たが、雅の言葉に溜飲を下げることができたのか、どか
っ
と再びパイプ椅子に腰を下ろした。反対に険悪なのは雄二のほうだ。信じられないという表情で雅のことを睨んでいる。雅は縮こまるしかない。
「俺も路線変えてもいいと思うな」
三人が一斉に梶へ視線を向ける。
「最近ドラム叩いててもさ、昔みたいに楽しくないんだよね。だから心機一転で変えてみるのもいいと思う」
梶は相変わらず目はぼう
っ
としていたが、その言葉は辛辣で、三人の心に蟠りを残した。だがこの場に関しては、その蟠りのおかげで今後の方針が固ま
っ
たのである。
リプレイは今後ヴ
ィ
ジ
ュ
アル路線を捨て、ポ
ッ
プスター
となることを志す。
衣装室に通されたリプレイの四人は、その光景に目を疑
っ
た。
「なんすか
……
? これ
……
?」
いつも余裕の表情を浮かべる昇も、さすがに唖然とせざるをえない。
衣装室には、まるで一九八○年代のアイドルたちが着るような衣装が飾られていた。
「この中から好きなものを選びたまえ」
スー
ツを着た事務所の男は、メガネをくいと押し上げながら言
っ
た。
雄二が思わず苦笑する。
「いやいや、冗談でし
ょ
? こんなの来たらポ
ッ
プスター
っ
ていうより、ただのコミ
ッ
クバンドじ
ゃ
ないですか」
「選り好みできる身分か」
凍り付く雄二。
「お前らのこの前の曲はなんだ
ぁ
? 英語でわけのわかんねー
タイトルつけた挙句、売り上げはた
っ
た五千枚だ。五千枚
っ
ていくらかわかるか? た
っ
た五百万だぞ。契約を解除されないだけでもありがたいと思わないとな」
メガネ男の言葉に雄二が下を向き、唇を噛む。
さすがに雅も梶も顔が強張り、昇の目も一瞬殺気を孕んだのだが
――
「じ
ゃ
あ俺はこいつでも着るか」
昇はアルミホイルを張り付けたような全身銀色スー
ツを手に取
っ
た。
目を疑う雄二。
「昇
……
お前本気かよ?」
「その代り、俺たちが売れたら真
っ
先にあんたのこと首にしますわ」
「そのくらい売れてほしいものだな。最も、売れたならまず感謝してほしいところだが」 昇はメガネの男を睨んだが、男は意に介さず衣装室から出てい
っ
た。
「
……
さ
ぁ
、着るか」
服を脱ぎ、銀色スー
ツに手を通す昇。
雅も手を伸ばすが長い髪の隙間から見える表情は明らかに引いていて、梶は梶で衣装のビラビラした部分を触り楽しみ始めた。
雄二だけがひとり、拳を固く握り締め俯いている。
「俺、リプレイ辞めるわ」
「
……
は?」
それはある音楽番組の収録が終わ
っ
た後のことだ
っ
た。
まるで倉庫のような暗くかび臭い殺風景な楽屋に戻
っ
てきて、昇が銀色スー
ツの上半身をはだけパイプ椅子に腰を下ろしたときのこと。雄二が楽屋に入らず、突然そんなことを言い出したのだ。
「冗談だろ雄二? 何言
っ
てんだよ!」
しかし雄二の表情は明らかに冗談ではなか
っ
た。恐ろしく冷めていたのである。辞めるか辞めないかの境界線を、はるか彼方に置いてい
っ
てしま
っ
たようだ
っ
た。
「お前さ、まじわかんね
ぇ
の?」
「何がだよ」
「こんな恰好しながら音楽続けてる
っ
て、バカじ
ゃ
ねえのかお前?」
楽屋の外で手持無沙汰にしていた雅が、さすがに気が気でない様子で雄二の背中を見つめている。梶はトイレで場にいなか
っ
た。したが
っ
て雄二だけがこのとき昇の表情を捉えていたのだが、雄二の視界の中、昇は明らかに狼狽していた。
「だから言
っ
てんだろ? これはあくまで恰好だけだ
っ
て
……
」
「それで音楽番組で悪態つくんだよな? こんなに滑稽なことはね
ぇ
よ!」
雄二が半ば笑いながら、壁をバンと叩く。
「ミステリアス気取
っ
てた奴らがさ、全員変な服着てパー
マ当ててんだぜ?! お前がバカにしてるやつらとど
っ
ちがダセー
んだよ! ネ
ッ
トでの俺たちのあだ名知
っ
てるか? パー
マンズ
っ
て言われてんだぜ! 売れたところで元の音楽ができるかクソが!」
閉口する昇。事務所が彼らに強要したのは、服装だけではなか
っ
たのだ。全員にパー
マをかけることを求めた。八十年代の某人気アイドルはパー
マをかけていたという理由だ。昇は訳が分からず苛立ちつつも、渋々従
っ
たのだが
……
「お前は銀色の服着てるからウルトラパー
マン
っ
て呼ばれてるよな? よお、ウルトラパー
マン。事務所に玩具にされた感想はどうだい?」
昇は立ち上がり雄二に歩み寄ると、衝動的に殴り飛ばした。勢いよく壁に激突する雄二。昇はさらに殴りかかろうとするが、雅が慌てて止めに入る。
昇を見上げる雄二の瞳は、完全に虚ろだ
っ
た。
かくしてリプレイは三人体制とな
っ
た。頭を抱えたのは事務所の面々である。
「貴様
ァ
、よくあんな騒ぎを起こしてくれたな
ぁ