てきすとぽい
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【BNSK】品評会 in てきすとぽい season 14
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悲しみよ、さようなら
(
ra-san(ラーさん)
)
投稿時刻 : 2015.10.01 20:20
字数 : 5036
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悲しみよ、さようなら
ra-san(ラーさん)
自分の机の上に菊の花が飾られることになるなんて思
っ
てもみなか
っ
た。
重苦しい空気の教室で、みんな神妙な顔をして担任の話を聞いていた。担任は沈痛な顔をして、ひとつひとつ言葉を選ぶように昨日起きた事故の話をしている。あたしは机の上に置かれた花瓶の菊の花越しにそんな光景を見ていた。
「
――
みんな悲しいと思います。それは遠坂も
――
彼女も同じだと思います。ですからみなさん。少しの間だけ、彼女のことを思
っ
てその悲しみをやわらげてあげて下さい。黙祷
――
」
担任がそう言
っ
て、みんな目をつぶ
っ
た。教室のあちこちから嗚咽やむせび泣く声が聞こえてきた。そんな教室を眺めながら、あたしは「悲しいとか勝手に決めつけないでよ」と他人事のように思うだけだ
っ
た。
そういう訳であたしは死んだのだ。教室のベランダの手すりが外れて転落死というなんとも情けない死因で。それでこんな安手のドラマやマンガみたいな光景の当事者にされるなんて思いもしなか
っ
たけれど。
あたしはあくびをした。みんなまじめに悲しんでくれているけれど、あたしは悲しくなか
っ
たからだ。たぶん死んだのがあたしでなければ悲しめたのだと思う。けれど幽霊にな
っ
たあたしは、自分の死にそんな悲しみが抱けなか
っ
た。心残りがないとか、世の中や自分が嫌いだ
っ
たという訳じ
ゃ
ない。死んだらそういう感情が消えていたのだ。淡々と受け入れるもの、受け入れざるを得ないもの、それが死という奴みたいで、死んだ人間はき
っ
と死んだ瞬間にそれを納得させられてしまうのだと思う。涙ひとつ流れない自分の死を、あたしは客観的にそう理解するしかなか
っ
た。
チ
ャ
イムが鳴
っ
た。みんなの目が開き、日直がHRの終わりの礼をする。起立、礼、着席。ガタガタと机とイスが鳴り、教室が再び動き出す。動かないのはあたしだけだ
っ
た。
することのないあたしは、イスに座
っ
たまま教室を眺めていた。HRの黙祷の余韻からか、いつもより少しにぎやかさに欠けた教室。すると三人の女子があたしの机にや
っ
てきた。あたしの友達グルー
プのユリとカスミとサクラだ。
「アオイ」
アオイはあたしの名前だ。三人は涙に腫らした顔をして、無言であたしの机を見ている。いたたまれない顔だ。
「嘘みたいだよ」
ユリが言
っ
た。うなずくカスミとサクラ。
「大好きだ
っ
た」
カスミがあたしの机に手を置いた。あたしのいた痕を捜すようにその手が机をなでる。
「アオイ
ぃ
……
」
サクラがし
ゃ
っ
くりを上げながらまた泣き始める。
あたしも嘘みたいだと思
っ
た。三人とはとても仲が良くて、「いつまでも一緒にいようね」なんて思春期全開な約束だ
っ
て交わした仲だ
っ
た。
ユリはとてもクー
ルな子で、あたしがバカなことをやるといつもやんわりと冷静にたしなめて、あたしを素直に反省させてくれる頼れる友達だ
っ
た。
カスミは考えるよりも行動が先に出るような明るく活発な子で、いつもあたしと一緒にな
っ
て恥をかくようなバカげたことや、まわりが尻込みするような大変なこともや
っ
てくれる気持ちのいい友達だ
っ
た。
サクラはち
ょ
っ
とお
っ
とりしているけど芯の強く優しい子で、いつでもどんなときでもあたしたちを信じて後ろからし
っ
かりと支えてくれる誰よりも信頼できる友達だ
っ
た。
だからあたしのために今もこうして涙を流してくれているこの三人は、あたしにと
っ
て本当に、とても、とても大切な友達だ
っ
たのだ。
なのにあたしの中からは全然悲しみが湧き上がらないなんて、本当に嘘みたいだと思
っ
た。
あたしは死んでいるのだ。どうしようもないぐらい死んでいるのだ。悲しくなれない自分にいたたまれなくな
っ
て、あたしは席を離れた。
廊下側の席に近づくと、男子たちが小声であたしの話をしているのが聴こえた。
「
――
遠坂が死ぬなんてな」
ユリたちを見ながらそう言
っ
たのは森田くんだ
っ
た。前の席に座る明石くんがその言葉にぽつりとした声でつぶやいた。
「オレさ」
森田くんが明石くんの横顔を見る。明石くんはち
ょ
っ
とぽかりとした空白を置いてから、開いた口を動かした。
「遠坂が好きだ
っ
たんだよな」
ち
ょ
っ
とドキリとした。森田くんもドキリとした顔で明石くんを見る。
「おまえ
……
」
「いや、そんな深刻な好きじ
ゃ
なくて、なんていうのかな
……
」
明石くんは頭をカリカリと掻いて、言葉を探すように目を左右に動かしながら答えた。
「遠坂
っ
て明るくてサバサバしてたじ
ゃ
ん。ち
ょ
っ
とまわりに外されてるような奴にも気軽に声かけたりさ。そういうのが好き
っ
ていうか憧れる
っ
ていうかスゲ
ェ
っ
ていうか
……
も
っ
といろいろ話しとけばよか
っ
た
っ
て、遠坂が死んだときに思
っ
たんだよな」
あたし
っ
てそんな風に思われてたんだ。目をぱちくりとさせていると、森田くんが大きくうなずいている姿が目に入
っ
た。
「それはわかる。好意
っ
ていうよりも好感
っ
ていうか、好きになれる奴だ
っ
たよな」
うなずく明石くんがそこに一言つけ足す。
「それに、け
っ
こう美人だ
っ
たし」
「それもわかる。彼女にできたら自慢できただろうな」
二人してうなずき合う。あたしはち
ょ
っ
と呆けた顔でそんな二人を見ていた。
――
なんだ、あたし
っ
てけ
っ
こうモテてたんだ。
もちろんあたしにと
っ
て森田くんも明石くんもただのクラスメイトに過ぎなか
っ
たのだけれど、こんな好印象を二人に持たれていたのは意外で、ち
ょ
っ
と自分で自分を見直してしま
っ
た。あたしやるじ
ゃ
ん。そこに明石くんの声。
「でも死んじま
っ
た」
「あそこまで泣けないけど
……
悲しいよな」
二人は再びユリたち三人を見や
っ
た。ひどく切なげな横顔だ
っ
た。あたしは切なくならなか
っ
た。あたしは教室を出た。
どうしようもない欠落に、罪悪感だけが残る。だ
っ
てし
ょ
うがないじ
ゃ
ない。あたしは死んだんだもの。どうしようもないじ
ゃ
ない。悲しくなれないんだもの。
早足で廊下を歩く。あたしは誰もいないところへ行くことにした。屋上へ行こうと階段を上る。
「う
っ
、う
っ
……
」
階段の最後の踊り場まで上がり屋上への扉を見上げたところで、その前でうずくま
っ
て泣いている人影を見つけた。知
っ
ている人影だ
っ
た。
クラスメイトの北野くんだ。
彼は人目を忍んで泣いていた。手になにかを持
っ
ている。近づいて見るとそれは生徒手帳にはさまれた写真だ
っ
た。
――
あたしの写真じ
ゃ
ん。
驚く。それは去年の文化祭でコスプレ喫茶をしたときに撮られた、ゴスロリメイド服でピー
スサインをしているあたしの写真だ
っ
た。
「
……
アオイさん」
北野くんはクラスでも地味な男子で、簡単に言うとオタク
っ
ぽい男子だ
っ
た。こ
っ
ち方面にもモテていたとは新鮮な驚きである。
そんなに接点のなか
っ
た男子に、自分の写真を見つめられながらこんな人目を忍んだところで泣かれるほど想われていたとは、正直ち
ょ
っ
と「ヒ
ャ
ー
!」という気持ちになる。おおう、モテ過ぎだぞ生前のあたし。
そんなことを思
っ
ていたら、北野くんがなにかぶつぶつと独り言をつぶやきだした。
「ボクは、ボクは忘れないよ
……
。あのときアオイさんがいなか
っ
たら、ボクは
……
」
ここで「あのとき」という言葉を聞いて、あたしは「あ
っ
」と思い出した。
北野くんはオタク
っ
ぽい雰囲気に加えて、見た目も細くなよなよとしていたから、とてもからかわれやすい男子だ
っ
た。「北野だ
っ
たらこのぐらいからか
っ
ても大丈夫」なんていう空気が「あのとき」の教室にあ
っ
た。それに北野くんは耐えていた。受け入れてはいなか
っ
た。耐えていたのだ。そしてそれが「あのとき」のあたしにはとても不快だ
っ
た。だからあたしはみんなの前でからかわれている北野くんに言
っ
たのだ。
――
怒
っ
たら?
っ
て。
そして北野くんは怒
っ
た。もうすごい怒り泣きの顔で怒
っ
た。からか
っ
ていた方はたじたじにな
っ
て「ごめん」と謝
っ
た。あたしが「北野、男じ
ゃ
ん」と言
っ
て背中を叩いてやると、ユリもカスミもサクラも同じように北野くんを褒めて拍手をした。他のクラスメイトも拍手した。それから北野くんをこぞ
っ
てからか
っ
てやろうという空気は教室からなくな
っ
ていた。
「ボクは生きてなか
っ
たかもしれない
……
」
あたしはたいしたことをしたつもりはなか
っ
たけど、北野くんにはとても大切なことだ
っ
たのかもしれない。
でも、その好意も宙ぶらりんに途切れてしま
っ
て、北野くんはひ
っ