【BNSK】品評会 in てきすとぽい season 6
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ずっと私の隣にいてくれませんか、と言いたかっただけ
投稿時刻 : 2014.08.24 03:37
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ずっと私の隣にいてくれませんか、と言いたかっただけ
犬子蓮木


「私の彼氏のフリをしてくれませんか!」
「はい?」
 言た。言た。学校からの帰り、夕方の駅。私の目の前に立つ高校生の男の子はあきらかにとまどていた。そりそうだろう。だて、今まで話したこともない女子高生からいきなり「お願いがあります」とか言われて、さらに聞いて見たら「彼氏のふりをして」なんだから。それでもいいのだ。私にはこれしかないのだて、考えたんだ。
「漫画とかでありますよね。友達に彼氏がいるて言たけど、本当はいないから、そのふりだけを男友達に頼むみたいな」
「僕は君の友達でもないし、知り合いでもないよね……
「友達とかそんなこと頼めるような人がいたら困りません!」
 そらそうだ。だいたいそういうのはその頼むような相手が好きで、相手も自分を好きな両想いで、もう元からできてるようなものなんだよ。いや、私だてこの人のことが好きだよ。でも、毎日、駅でみかけても、名前も知らない赤の他人なんだ。友達になることすら難しくて、ついにはこんな暴挙にでてしまてわけ。でもしうがないでし。知らない人とかいきなり逆ナンとかできないし、告白なんかしても私なんか断られるに決まてる。でも、フリぐらいならしてるくれるかもしれない。というかたぶん大丈夫。
「どうして僕なの?」
 好きだから。そんなことが言えたら苦労しない。
「頼んだら聞いてくれそうだたから」
 これもまた真実だ。
 彼はもの凄く驚いて、ほんのちとだけ怒たような感じもするけど、すぐに落ち着いて、そんなところがまた好きで、ゆくりと口を開いた。綺麗なくちびるだと思う。
……いいけどさ」
「いいんですか!」私は喜んだふりというか、本気で喜ぶ。「彼女さんとかいないですか」
「いないからいいよ……
 よ! 心の中でガツ石松のポーズをして、彼に抱きつくような妄想をイメージしてから、表面上は落ち着いたふりを見せる。
「ではよろしくお願いします。友達との食事に付き合てくれるだけでいいので」

 そして当日。私と彼と私の友達ふたりでフミレスに来ていた。なお、私の友達も当然、仕掛け人である。言てみれば彼は罠に迷い込んだ哀れな獲物ということになるだろうか。うふふ……。うふふ……
「これ、話してた私の彼氏」
 私は友達に彼氏を紹介するかのようにふるまた。
「よろしく……」彼ははずかしそうに一礼する。
「よろしくおねがいしまーす!」
 そこから、私の友達による一方的な銃撃がはじまた。
「いつから付き合てるんですか」
「さ、三月ぐらいまえかな」
「どんなところが好きですか?」
「シトカトなところとか」
「どこまでいきました?」
「遊園地とか」
「そうじなくて」
「映画館とか」
 などなどなどなど。なお、質問事項を用意したのは私です。がんばて答えてくれる姿がとても素敵。やさしいんだて、余計に好きになう。でも、あまり行き過ぎて場を壊しちいけないので少し止める事にした。
「ちとあまり変なこと聞かないでよね。困てるじん」私は友達を止めた。
「ごめんなさい」
「まあ、いいけど」彼ははずかしそうに言う。「ちとお手洗い」
 彼がトイレに消えると私たちはにんまりと笑いあた。ここではしたなく爆笑したりはしない。
「いい人そうじん」
「こんなことに付き合てるくれるだけほんといい人だよね……
「というかバカぽい」
「それは言うな」私が言う。「たぶんすごい優しさであふれてるんだて!」
「それでこのあとどうすんのよ?」
 どうしよう。それは考えていない。いや、考えようとしたけれど、上手くはまとまらなかた。
「どうすればいいかな」
「連絡先を聞いて、また後日、お礼に食事とかじね?」
「無理、私、そんなの無理。いきなり二人だけで会うのとかはずかしくて死ぬ」
「こんなお願いするほうがはずかしいと思うけど……
「うるーさい!」
「ここでキス見せてくださいとか言てみよか」
「やめて」
「あんがい、やてくれるかも……。というかそれに乗てこないぐらいだと脈ないよね」
 そうなのか。そういうものか。今日はいちおう、身だしなみに気を遣てきた。当然だろう。ふりとはいえ、彼の隣に座るのだ。彼は私のことどう思てるだろう。変な女て思われるのは仕方ない。それでもすごい嫌とかキライとかそんな風に思われてなければいいな。逆にそうでないなら……
 キスしちう!?
「あ、戻てきた」
「お待たせ」
「いえいえ」友達がふたりとも微笑む。
 どこでそんな上品にみえるようないやらしい笑顔を覚えたのだ、こいつら。
 このあとどうするのか、作戦はまとまらなかた。まさかいきなり「キス作戦」にでないとは思うが、私はドキドキしぱなしだた。
 だけど結局、そんな話は出ず、後半は学校とか好きな教科とかそんなありきたりな話ばかり。
「こいつバカなんですよー
「知てる」
「ちと!」
 こんなたわいもない会話が続いて、なんか少しだけ本物ぽいなて思て、そんな風にぼーとしてたら、いきなり友達がいいやがたのだ。
「じあ、今日はありがとうございました」
「え!?」
「『え!?』じないよ。二人の休日をあんまり邪魔しち悪いし、彼氏がいい人そうだてのはわかたし、私たちは帰りまーす」
「あとは若い二人で……
「タメでし!」私はつこんだ。
「そういうつまらないのはいいから」
 つまらないて言われた。
 そうして、ふたりはじぶんたちの会計だけ済ませて帰てしまた。取り残された私と彼氏(偽)。あ……、彼が私の隣から立て、向かいに座り直した。コーヒーのカプもずいずいと向こうに連れられていく。
「き、今日はありがとうございました」私は頭をさげる。
「おつかれさまでした」彼も頭を軽く下げた。
 沈黙。どうしよう。連絡先をもらえばいいのか。そうか。それしかないか。私はこの先にすべきことを考えながら、どうにかこの耐え難い沈黙に抵抗した。
「ごめんなさい。失礼な友人で」
「別にあんなものじないかな? そんな変でもないよな……
「そ、そうですよね」私は声にだして笑う。
「こんなお願いはすごい変だと思うけど。赤の他人に」
 私の笑い声は日本刀でスパとぶた切られたみたいに、口から離れて消えた。私はひきつた感じで口をあけてしまている。
「あのさ……」彼が言う。
「はい」
 なんだろう。怒られるのだろうか。
「もしよかたらなんだけど、これからも……その……
 これは。もしや。まさか。その。きたか。あれか。奇跡。はずかしい。頭が熱くなる。いろいろなイメージがかけめぐる。どうすればいいかわからなくなてしまう。
 向かいに座る彼の顔を見た。
 真面目な感じ。
 やさしそうな感じ。
 初々しい感じ。
「どこかで遊ばない?」彼が言た。
「勘違いしないでください」私が言た。「今回、協力してくれたことは感謝します。だけど、これはフリです」
「ああ、うん……ごめん」彼が謝る。
 うおー。なにを言てるんだ私は。混乱して恥ずかしくて断てしまた。意味がわからない。素直に受け入れればよかただろう。それ以外に正解なんてないだろう。なにをしているだ。いや、ここは私の決定権があるような感じでかこよく、お礼のデートなどに誘うのだ。それしかない!
「いえ、その本当に彼氏のフリなんていうおかしなお願いに付き合てくれたことには感謝しています」
 だからそのお礼の……。言おうとしたところで、彼がコーヒーをぐいと飲み干した。
「うん、いいよ。ここの食事おごてもらえたし、じあね」
 それで彼は笑顔でさよならをした。
 ちとだけさみしそうな微笑み……
 行……
 連絡先も聞けなか……
 私は放心してフミレスの壁を見つめる。しみの数をかぞえようかなと思ていた。そこへさきまでここにいた友達から電話がかかてきた。
「どうよ?」
「なにが?」
「彼氏さんだけ、先にでてきたみたいだけど」
「彼氏じねーし」
 私はあきらかにふてくされてる。なにがあたんだよ、と友達が尋ねるので、私はその後のことを説明した。なんかもう泣きそうである。
「なんでお前はそうバカなの? 死ぬの?」
「うるさい」
「う? ちと電話かわるよ」
 電話の向こうで電話相手の友達が入れ替わたらしい。
「なに?」私が言う。
「もうできることはひとつだね……

 月曜日。夕方。私の頭は今日の授業のことなんて、少しも考えていなかた。ただこの時間のことだけをずと考えていた。やめようとか、どうしようとか、ダメだろとか。それでもここに立てるのは、素晴らしい友達をもたからにほかならない、とは微塵も思わない。あいつらは鬼だ。悪魔だ。
「この前はありがとうございました」
 わたしは駅で、いつもの時間通りにいた彼にお礼を言う。
「いいよ、別に」彼は微笑んだ。
 電車はまだ来ない。微妙に都心から離れたこの駅では、電車が来るまで十五分ぐらいある。その十五分がいつも私が彼を見ている時間だた。
 でも今は違うのだ。
 見ているだけではないのだ。
 このまえも話しかけたのだ。
 だからお願いすることはもう大丈夫だ。
 慣れた。
 というか慣れろ。
「あの、お願いがあるので聞いてもらえませんか」           <了>
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