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小さな痕跡と大きな先入観
(
金銅鉄夫
)
投稿時刻 : 2019.02.26 20:10
字数 : 812
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小さな痕跡と大きな先入観
金銅鉄夫
注意:ストレスが溜まるかもしれません。
連休が明けた日の朝、教室に入ると、僕の机がなくな
っ
ていた。当たり前だけれど、しばし唖然とした。
席替えで一番後ろにな
っ
て喜んでいたのに
……
。
自覚がなか
っ
ただけかもしれないが、イジメられてはいなか
っ
た。それに、あの大ごとにな
っ
て面倒な思いをした記憶は、まだみんな薄れてないだろう。
僕の机にはなんの価値もない。芸術的な落書きも、情緒的な詩も、宝の地図の印もない、ごく普通のありふれた机だ。
廊下や近くの教室を探したが見つからない。
仕方なく教室に戻
っ
た。普段休みがちで、ほこりをかぶ
っ
た灰色の脳細胞を働かせてみたけれど、さ
っ
ぱりわからない。
やがて先生がドアを開けた。前の担任とは対照的に、二十代の女性の教師だ。セミロングの黒髪と縁のない眼鏡。清楚な雰囲気と明るい性格で、担任にな
っ
たことを喜んでいる男子も多い。
いつもは笑みを浮かべながら、元気に挨拶をして入
っ
てくる。ところが、今日はうつむき加減で、ようやく教室の後ろまで聞こえるような声だ
っ
た。
その空気を察してか、みんな静かに席に着いた。
一呼吸おいて、担任が口を開く。
「みなさんも、教室に入
っ
てきたときに気付いたかもしれませんね
……
」
言葉を選んで話しているようだ。当然かもしれない。
「そのことについて、この場では言い出せないかもしれません。だけど、なにか気になることがあ
っ
たら
……
いえ、別になにもなくても構いません。私や、信頼できる他の先生に、いつでもいいのでお話ししてください」
全員がうつむいていた。真剣な表情だ
っ
た。膝の上で拳を握りしめる者。なかには声を殺して泣いている人もいた。
なにかち
ょ
っ
と変だ。違和感がある。
一瞬、頭上の蛍光灯が点滅した。
薄くグロスが塗
っ
てある口から、予期していなか
っ
た言葉が発せられた。
「机もなくな
っ
てしま
っ
たけれど、これからも、Y君は私たちの中で生き続けます」
……
思い出した。僕は、豆腐の角に頭をぶつけて死んだんだ。
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