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お散歩の秋 地名の由来を書いてみよう大賞
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治っていない
 投稿時刻 : 2015.09.29 22:09
 字数 : 1100
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治っていない
永坂暖日


 独身芸能人最後の砦などと言われていたとあるシンガーソングライターで俳優の二枚目がとうとう結婚し、日本中を震撼させた。シクのあまり早退する女性が続出、男性フンさえも言葉に尽くせぬ悲しみの海に沈み、彼が所属する事務所の株価は下落、彼の名字と名前は同じだが無関係の運送会社の株価は上昇。長きにわたり独身だた彼の結婚を祝福するかのようにスーパームーンが夜空を彩り、月ではかぐや姫が帰るのが早すぎたと地団太を踏んで地震が起き、火星では沸騰した水が吹き上がているとNASAが発表し、彼の地元の教会では一晩中鐘が鳴り響いていたという――

「それが、この街の祖〈マシ・フクヤマ〉だよ」
 老婆の長い話が終わると、子供たちが一斉に口を開いた。
「うそだー!」
「そんな人いるわけないよ!」
「なんで関係ない人がシク受けるの?」
「なんかできすぎた話て感じ
「実物見てみたかたー
「おばあは会たことあるの?」
「おまえたちと同じで、立体動画でしか見たことがなくてね、おばあも会たことはないんだよ。でも、おばあのおばあが子供の頃に会たことがあて、本当にすてきな人だたらしいよ」
 遠い昔を懐かしむおばあに、子供たちはふーんと声をそろえる。
 かつて太平洋の西の端にある小さな島の集まりがニホンと呼ばれていた頃、この街はヒロシマジケーの一都市にすぎなかた。しかし2099年、一世紀遅刻して地球に降臨した恐怖の大王によりニホンは滅亡、各都市でどうにか自治している感じになた。
 その頃のこの街は、隣の街カサオカの海に潜むカブトガニの脅威にさらされていた。恐怖の大王の手下にされたカブトガニが巨大化し、青い血を浴びせかけて人間が怯んだ隙にしぽで突き刺すという攻撃を繰り返していたのだ。周辺の住人たちも逃げ込んできて、街は正真正銘最後の砦だた。
 そのとき人々を守るために立ち上がたのが、街の祖である〈マシ・フクヤマ〉だた。彼の歌声は操られていたカブトガニを正気に戻し、恐怖に震えていた人々の心を癒し、恐怖の大王さえもうとりとさせた。
 そうして街に平和が訪れ、人々は〈マシ・フクヤマ〉への感謝を忘れないため街の名前を『フクヤマ』として、彼を最初の長として崇めたのである。
 月日は流れ、恐怖の大王のせいで文明は少々後退したためあやふやになているところもあるが、子供たちは祖の伝説を大人から聞かされ、祖の歌を子守歌に聞いて育つ。
「子供たちや。今度はおまえたちがおばあに聞かせておくれ。祖の歌を」
 老婆の頼みに、子供たちは彼女を取り囲んで歌い出した。

 黄身よぜんぶ卵酒に
 風邪にそと届くよ
 うー
 咳は今も咳のままで……
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