てきすとぽい
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第30回 てきすとぽい杯〈紅白小説合戦・紅〉
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変更性タイムライン
(
犬子蓮木
)
投稿時刻 : 2015.12.12 23:53
字数 : 1942
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変更性タイムライン
犬子蓮木
あなたは、タイムマシンというものを知
っ
ているだろうか。
僕は知らなか
っ
た。昨日までは。
動物を狩るような荒々しい生き方につかれた僕らは、徐々に食料を農耕へと移し、穏やかに暮らしていた。そんな僕の前に突如現れたのがタイムマシンで、そこに乗
っ
ていた彼女から僕はさまざまなことを教わ
っ
たのだ。
ここは将来、日本と呼ばれる国になるらしい。
タイムマシンとは時間を超えて行き来できるもので彼女はず
っ
とず
っ
と遠い未来からや
っ
てきたという。
そんなバカな、という反応を見せた僕を、彼女は未来へと連れて行
っ
て驚かせた。どうも本当らしい。未来は思い出したくないぐらい怖い場所だ
っ
た。
そんな彼女になんでこの時代にや
っ
てきたか、と聞くと未来を変えるためだと教えてもら
っ
た。仕組みはよくわからないけど、タイムマシンを使
っ
て過去を変えるとその変更が未来にも影響するとのことだ
っ
た。そのためいくらかの財力と権力によ
っ
てタイムマシンを使うことができるようにな
っ
た未来人たちは、自分たちの時代をより優位なものとするためにさまざまな時代に飛んで過去を変えているという話だ
っ
た。
というわけで、なにをどうしたいのかはよくわからないけれど、おいしいものをくれるというし、未来のおもしろいことなども教えてくれるというから僕は彼女に協力することにしたのだ。
「それでどうすればいいの?」僕は彼女に尋ねる。
「まずはあの山のとある木を切り倒す」彼女は言
っ
た。
そんなことでなんの意味があるのかはよくわからない。彼女はバタフライエフ
ェ
クトがどうたらと説明してくれた。過去のち
ょ
っ
とした変化によ
っ
て未来が大きく変わるらしい。梃子の原理だよ、と格好をつけた感じで言われたけど、それがなにかもわからなか
っ
た。
ひとまず僕は彼女のタイムマシンで空を飛んで山の木のところへ移動した。そうして木を切るようの道具を借りた。ものすごい音でうなりをあげて光る部分が回りだした。
「その周
っ
てる部分で切れるから」
僕はおそるおそる回転してる部分を木にあてる。するとすさまじい勢いで木が削れて簡単に倒れてしま
っ
た。
「すげー
」僕は感嘆の声をあげる。
「チ
ェ
ー
ンソー
っ
て言うんだよ」彼女はそう教えてくれた。
その後も、彼女と一緒に移動しては、意味不明な地味活動を繰り返す。やること自体は地味だ
っ
たけど、その度に彼女が未来の道具をくれるので、毎回、わくわくしながら手伝
っ
た。
「次はなんですか師匠!」
「その呼び方はやめろ!」
いろいろ未来のことを教えてくれるから尊敬して言
っ
たのに、起こられたので僕はし
ょ
んぼりしてしま
っ
た。
「次で最後のお願いだ」
最後と言われて、余計に落ち込んでしまう。
「これはとても難しいお願いだから聞いてもらえないからもしれない」
そう言われるとわくわくする。
「またなにかおもしろい道具くれますか?」
「いろいろな未来の道具を使うことになるだろう」
「なら僕、やります!」
「内容も聞かずに決めていいのか?」
「師匠を信じます!」
「師匠ではないけれど、ならばお願いしよう」
「はい」
「わたしと一緒に未来で暮らしてくれ」
あれから十年もしくは一万年ぐらいが経過した。
僕は今、未来で暮らしている。師匠の本来の目的は、僕のず
っ
と未来の子孫が起こす問題をふせぐために僕を消すということだ
っ
たらしい。そのためにいろいろひとけのないところに連れ込んで消そうとしたけれど、その度に迷いが生じて、実行に移せなか
っ
たと師匠は教えてくれた。だから僕の子孫があの時代から発生しないように未来に連れて来てしまえばいいと考えたとのことだ
っ
た。僕が未来に来たことで、僕の子孫は歴史上から消えてしまい、この未来に僕の血を受け継いでいる者はいない。僕の目の前で遊んでいる息子を除いて。
最初は未来なんて怖くてし
ょ
うがなか
っ
たけれど、いろいろなことを師匠に教わ
っ
てなんとか暮らしていけるようにな
っ
た。僕の子孫には悪いかなと思うけれど、会
っ
たこともない子孫よりも一緒に楽しくいろいろなことを教えてくれた師匠のお願いのほうが大切に感じてしま
っ
たのだからしかたない。僕の子孫はあの時代からはず
っ
と離れたこの未来から本来とは違
っ
た形で少しずつ伸びてい
っ
てほしい、とささやかながらに願
っ
ている。どこかでまた歴史が変えられるかもしれないけど。
「師匠、次はどうすればいい?」
「師匠じ
ゃ
ない! 次は、え
っ
と
……
。水回りの掃除」
「オー
ケー
。わか
っ
た」
「しし
ょ
ー
」息子が窓のサ
ッ
シを掃除している母親の元へ駆け寄る。
「師匠じ
ゃ
ない
っ
てば。向こうで遊んでてね」
歴史を変えられるぐらいの未来でも、まだまだいろいろやることがあ
っ
て大変なのだな、と僕は掃除なんてなか
っ
た昔を懐かしみながらタワシで汚れたところをこす
っ
ていた。
帰りたくはないけれど。 <了>
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