てきすとぽい
X
(Twitter)
で
ログイン
X
で
シェア
「ふすまの向こうの文学」作品募集のお知らせ
〔 作品1 〕
»
〔
2
〕
〔
3
〕
…
〔
4
〕
なな子うしろ!
(
松浦(入滅)
)
投稿時刻 : 2016.01.30 16:43
字数 : 5855
1
2
3
4
5
投票しない
感想:1
ログインして投票
なな子うしろ!
松浦(入滅)
ピ
ッ
、ピ
ッ
、ピ
ッ
――
。
ドラマなんかでよく聞く、いかにも病院という感じの音がする。
まあ、病院も病院。結構大きなところの、それも手術室にいるのだから当然か。
学校から帰
っ
たら、お腹が痛くな
っ
て。我慢できずに夜病院に行
っ
たら、そのまま大きな病院へと運ばれて。あれよあれよという間に手術とな
っ
てしま
っ
た。
明日学校を休むのはまあ確定だろうけど、みんなはどう思うかな。ひ
ょ
っ
としてお見舞いとか来てもらえるかな。
あんまり期待は持てないけど、奈々子くらいは来てくれるかもしれない。古いつきあいだから。とい
っ
ても、小学校入学からだからまだ五年か
……
。
この後、中学に行
っ
たり、高校に入
っ
たりしても、今みたいな感じが続くのだろうか。
そういうことを想像すると、僕の心の中にもや
っ
とした気持ちが広がる。
ピ
ッ
、ピ
ッ
、ピ
ッ
……
。
機械の音が遠くな
っ
ていく。
ああそうか。麻酔がはじま
っ
たんだな
……
。
こんな気持ちで眠
っ
たんじ
ゃ
、悪い夢をみそうだ。
なにか楽しいことを考えなき
ゃ
な
……
。
◇
ポクポクポク
――
。
次に僕が気づいたとき、目の前にあ
っ
たのは僕自身の写真だ
っ
た。黒い枠に入
っ
て、これまた黒いリボンをかけられていたけど。
その前には親戚とかが並んで正座していて。先頭に座
っ
ているお坊さんが木魚を叩いていた。
お葬式??
困
っ
たな。どういう状態なのか、さ
っ
ぱりわからないけど
……
。これはいろいろと問題がありそうだ、ということはすぐに感じた。
それからまもなくわか
っ
たことは、どうやら僕は死んだらしいということだ
っ
た。
なるほど。
これが死後の世界というやつだ
っ
たのか。
誰からも認識されず、せいぜいネコが気づくくらいの存在。
あれ? それ
っ
て死後の世界
っ
ていうか幽霊!?
「その通りだ」
「うわ
っ
、だれだ!?」
いつの間にか、背後に仕事できそうな感じの女の人が立
っ
ていた。
小学生の僕でもわかる。この人は生命保険とかそういうのをバリバリ売るタイプの危険人物だ。
「私は誘鬼。みつる、お前が死んだので、その諸々の手続きのためにここに来た」
「ああ、そうなんだ
……
」
まあ、そんな気はしたんだ。だ
っ
て、こういうの
っ
てマンガとかでみたことあるし。や
っ
ぱり僕は死んだんだ。
「さて、それで今後のことだが
――
」
「天国とか地獄とか、そういうの?」
「違う」
「え
っ
?」
違う
っ
てどういうことなんだろう
……
?
「死んだら、天国か地獄に行く
っ
てクラスの友だちも話してたけど
……
」
「それは嘘だな。だいたい極楽か地獄かというのならまだわかるが、天国というのは適当なことを言うにもほどがある。それに地獄とい
っ
てもだなその段階は
――
(誘鬼さんによる専門的地獄解説が続きますので中略)
――
というわけだ。わか
っ
たか」
「う、うん
……
」
「で、お前の今後だが、しばらく現世にとどま
っ
てもらう」
「え? 今、誘鬼さんが言
っ
てたやつのどれかに行くんじ
ゃ
ないの?」
「本来ならそうなるのだが、みつるの場合は生命力がまだ余
っ
ているからな。連れて行けないんだ」
「なんだよ、死んでるのに生命力が余
っ
てる
っ
て!」
「まあ聞け。お前の場合は寿命がきて死んだのではない。手術のミスで魂の受け皿たる肉体が壊れてしま
っ
たのだ」
「じ
ゃ
あ
……
」
「だからその生命力を消費してしまうまでは、ここでぶらぶらしていてくれ。では
――
」
「ち
ょ
っ
、ち
ょ
っ
と待
っ
て!!」
僕は無責任にもそのまま消えてしまおうとした誘鬼さんの手を掴んだ。
「ん? ここで待
っ
ているのは不満か?」
「不満もなにも、ただ時間が過ぎるのをここで待つなんて、暇すぎだよ!」
「そうか。特に力を使わなくてもホンノ六十数年なんだが
……
」
「今、六十年
っ
て言
っ
たよね? そんな長い間、お寺でぼんやりなんてしていられるわけないだろ!」
「わか
っ
たわか
っ
た。なんとかしてやるから、手を離してくれ。こうみえても忙しいんだ」
手を離すのは少し心配だ
っ
た。この人、僕を置いて逃げそうな気がしたから。
「よし。ならば、あそこにいるお前の幼なじみの背後霊でもや
っ
ていろ」
「え
っ
? 僕が幽霊?? そんなのち
ょ
っ
と
――
」
「男ならつべこべ言うな!」
誘鬼さんに突き飛ばされて、僕は葬式に来ていた幼なじみ、奈々子の背中にぶつか
っ
た。
「誘鬼さん!」
……
いない
……
?
人のことを突き飛ばしたかと思
っ
たら、もう姿が見えない。
すぐに追いかけて文句を言おうと思
っ
たが、もうお堂から外には出られなか
っ
た。いや、正確にいうと、僕の幼なじみである奈々子から十メー
トルも離れるとみえない壁にぶつか
っ
たようにな
っ
てしま
っ
て、そこから先には進めないようにな
っ
ていたのだ。
「そ
っ
か。これが背後霊
っ
てやつなんだな
……
」
これから六十年も、奈々子の後ろで過ごすのだろうか
……
?
そんなことを考えて、僕は自分が幽霊のくせにゾ
ッ
とした。
◇
僕の葬式から一
ヶ
月ほどが過ぎた。
急に背後霊として奈々子と常に一緒にいる生活がはじまり、い
っ
たいどうなることやらと思
っ
ていたけれど、実はなにも事件らしいことは起きていない。
というのも、僕が一方的に見聞きするだけで、奈々子は僕の存在にま
っ
たく気づかないし、なにか奈々子の行動が僕に影響を与えることもないのだ。
上から見ると交差している線も、高さが違うと実は交わ
っ
ていないというような、そういう図形問題みたいな感じだと僕は思
っ
た。
でもそれは、僕の心が穏やかで、今にも成仏しそうな環境だ
っ
たのかというと、ま
っ
たく違う。まずシ
ョ
ッ
クだ
っ
たのは、奈々子が机に飾
っ
ていた写真だ。
クラスの中でもチ
ャ
ラいやつだと思
っ
ていた林田の写真が、こともあろうことか銀のフレー
ムに入れられて飾
っ
てあ
っ
たのだ。しかも毎度毎度、奈々子はその写真を見てため息をついている。
なんの変哲もない、遠足に行
っ
たときの写真だろうが、奈々子には宝物にな
っ
ているのだ。ちなみに僕と一緒に昔撮
っ
た写真はアルバムの中で、この一
ヶ
月開いているのをみたことはない。おそらく存在そのものが忘れられている。
一度、奈々子の気持ちに気づいてしまうと芋づる式にあらゆることの裏側がわか
っ
てい
っ
た。学校で班分けをするとき、掃除のとき、体育のとき。僕は奈々子とはなにかと縁があると勘違いしていたのだが、すべてはたまたま僕の近くにいた林田が目的だ
っ
たのだ。
情けなくて、み
っ
ともなくて、死にたくなる。
まあ死んでるけど。
僕が成仏するまでのタイムリミ
ッ
トは六十年である。腐るほどある、とはまさにこのこと。その間ず
っ
とこんな状態で過ごすのかと思うと、実はここが地獄なんじ
ゃ
ないかと思えるのだ
っ
た。
ダメー
ジを負い続ける僕とはま
っ
たく関係なく、季節は過ぎていく。
最近では、幽霊の体にも慣れたもので、学校で奈々子が授業を受けている間、最初の頃よりも遠くへ偵察に出られるようにな
っ
ていた。
つまり背後霊ながらも、行動範囲が広が
っ
ていたのだ。
これは昼間、学校に奈々子がいる間は、背後霊というより学校の地縛霊のように振る舞うようにな
っ
た頃のことだ。
ち
ょ
うど次が体育の授業で、着替えのために男子と女子がふたつのクラスに別れて着替えているときに、この事件は起きた。
いくら僕が、生きている人間から一切知覚されないからとい
っ
ても、女子の着替えを覗くのは好ましくない。ましてや僕は死んだ人間。つまり仏なのだから。
という理由で、その間は男子の更衣室として用意されている方の教室を浮遊していた。
なんでそんなことに気がついたのか、自分でもそのへんの記憶は曖昧なのだが、林田とその取り巻きがなにか相談をしているのをふと耳にした。
あとで屋上で
――
。
そんな話だ
っ
た。
学校の屋上は高いフ
ェ
ンスがあり、生徒たちに解放されているから誰でも自由に遊ぶことが出来る。たぶん遊ぶ約束なんだろう。そういう風に考えれば、なにも不自然な点などないのに、なぜだか僕の心に引
っ
かか
っ
た。
屋上で林田たちがなにをするのか見に行けないだろうか?
僕はあれこれと考えを巡らせる。幸いというべきか、僕には壁や床は関係ない。純粋に距離だけの問題だから、奈々子が屋上まで行かなくても、最上階の教室まで行
っ
てくれれば僕は偵察に出られる。
というわけで、かねてから試してみようと思
っ
ていた作戦を実行することにした。
『ポルター
ガイスト通せんぼ作戦』である。
幽霊もしばらくや
っ
ていると、だんだん勝手がわか
っ
てくる。そして最近の僕は軽いものなら動かせるまでにな
っ
ていた。幽霊としてレベルア
ッ
プをしているのである。
この現実世界に干渉する力を使
っ
て、奈々子の行く手を遮り、彼女に屋上の方へと向か
っ
てもらおうというわけだ。
放課後、林田たちは連れだ
っ
て屋上へと向か
っ
てい
っ
た。
一方の奈々子は帰り支度をしている。なんとか、校舎を出るまえに屋上に寄り道をして欲しいと思
っ