とりかえっこ
僕と彼女があの遊びを始めたのは、もう随分と昔のことだ。
僕らは兄妹のようにいつも一緒だ
った。お互いのことなら、なんでも分かった。僕らの好きな食べ物、好きなおもちゃ、好きな本。だけれど、それが「なぜ好きなのか」、理解できる日はついに来なかった。心ってものは、一つにはできないものだって、子どもながらに思ったものだった。
だからというわけではないが、僕らは互いのことをもっと知ろうとして、好きな食べ物を交換し合ったり、好きなおもちゃを取り替えてみたりした。僕のプラスチックでできた刀を彼女が振り回し、僕は彼女のお気に入りのリカちゃん人形を着せ替え、彼女の好きな絵本を僕が読み、僕の好きな推理小説を彼女が読む。
そんな風にして、僕らの「とりかえっこ」が始まった。
「とりかえっこ」は、高校進学のとき、彼女はトップ高に、僕は底辺高に進んでも続いた。ある時は、教科書を交換して学校に行ってみたり、ある時は制服を交換してみたり。
僕らはそれが快感だった。彼女の心が、僕の心の中に入り込んでくるとき、決まって背筋がゾクゾクした。他人の心が自分の心に浸透してくると、心が入れ替わるのだ。彼女のものを使ってるとき、僕は彼女になったし、僕になった彼女は、僕の口癖が自然に出るようになった。他の人たちには決して理解できない。それがいっそう、快感を強くしたのだった。
それから僕らは、ありとあらゆるものを「とりかえっこ」していった。互いの友達に、恋人、家、お父さん、お母さん。だけれど、どこまで「とりかえっこ」してみても、本当の「とりかえっこ」ではないことに気づいてしまった。僕が彼女になっても、彼女が僕になっても、それは所詮、外側だけを「とりかえっこ」していただけで、本質的には何も「とりかえっこ」できていなかった。
だから、僕らは本物の「とりかえっこ」をすることにした。
最初は髪の毛。まつ毛。すね毛。丁寧に一本一本抜いて、一本一本植毛した。それでも、僕らは飽き足らずに、全身の皮膚を皮一枚、包丁で剥いで「とりかえっこ」した。眼球を傷つけないように互いにスプーンで掘り起こして、眼孔に優しくはめ込んだ。僕らは血と腐臭の混ざる部屋の中で、互いに笑い合い、互いの腹を開いて、臓器を取り出しては「とりかえっこ」していった。これ以上の快感は、この世には存在しないだろう。
そうして激しく胸打つ鼓動に手をつけたとき、僕らは本当の意味で僕らになった。