第34回 てきすとぽい杯〈夏の24時間耐久〉
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とりかえっこ
有理数
投稿時刻 : 2016.08.20 17:01
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とりかえっこ
有理数


 僕と彼女があの遊びを始めたのは、もう随分と昔のことだ。

 僕らは兄妹のようにいつも一緒だた。お互いのことなら、なんでも分かた。僕らの好きな食べ物、好きなおもち、好きな本。だけれど、それが「なぜ好きなのか」、理解できる日はついに来なかた。心てものは、一つにはできないものだて、子どもながらに思たものだた。

 だからというわけではないが、僕らは互いのことをもと知ろうとして、好きな食べ物を交換し合たり、好きなおもちを取り替えてみたりした。僕のプラスチクでできた刀を彼女が振り回し、僕は彼女のお気に入りのリカちん人形を着せ替え、彼女の好きな絵本を僕が読み、僕の好きな推理小説を彼女が読む。

 そんな風にして、僕らの「とりかえこ」が始また。

「とりかえこ」は、高校進学のとき、彼女はトプ高に、僕は底辺高に進んでも続いた。ある時は、教科書を交換して学校に行てみたり、ある時は制服を交換してみたり。

 僕らはそれが快感だた。彼女の心が、僕の心の中に入り込んでくるとき、決まて背筋がゾクゾクした。他人の心が自分の心に浸透してくると、心が入れ替わるのだ。彼女のものを使てるとき、僕は彼女になたし、僕になた彼女は、僕の口癖が自然に出るようになた。他の人たちには決して理解できない。それがいそう、快感を強くしたのだた。

 それから僕らは、ありとあらゆるものを「とりかえこ」していた。互いの友達に、恋人、家、お父さん、お母さん。だけれど、どこまで「とりかえこ」してみても、本当の「とりかえこ」ではないことに気づいてしまた。僕が彼女になても、彼女が僕になても、それは所詮、外側だけを「とりかえこ」していただけで、本質的には何も「とりかえこ」できていなかた。

 だから、僕らは本物の「とりかえこ」をすることにした。

 最初は髪の毛。まつ毛。すね毛。丁寧に一本一本抜いて、一本一本植毛した。それでも、僕らは飽き足らずに、全身の皮膚を皮一枚、包丁で剥いで「とりかえこ」した。眼球を傷つけないように互いにスプーンで掘り起こして、眼孔に優しくはめ込んだ。僕らは血と腐臭の混ざる部屋の中で、互いに笑い合い、互いの腹を開いて、臓器を取り出しては「とりかえこ」していた。これ以上の快感は、この世には存在しないだろう。

 そうして激しく胸打つ鼓動に手をつけたとき、僕らは本当の意味で僕らになた。
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