第38回 てきすとぽい杯
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とらいあんぐる
投稿時刻 : 2017.04.15 23:19
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とらいあんぐる
ゆきな(根木珠)


 参吉は毎日、酒を呑んでは暴れていた。
 ある日、おつうは尋ねた。
「あんた、どうしてそんなに呑んでばかりなんだい」
「うるせえ」
「たのむからしっかりしておくれよ」
 だが参吉は、ふいとそっぽを向いてしまった。
 まったく困ったね、とおつうは思う。
 けれどもそれきり何も言わず、おつうは夕餉の仕度を始めた。
 すると、参吉の弟が家に訪ねてきた。名を弐兵衛といった。 
「義姉さんすまねェ、いつも兄さんが世話ンなって」
「まあ、夫婦なんてそんなもんさ」
「迷惑ついでといっちゃなんだが、頼みがあんだ」
「なんだい」
 夕餉をつくる手を止め、おつうは振り向いた。
「一緒になってくんねえか」
「なにと」
「え……いや、だからその……」
 弐兵衛はおつうの手を取り、引っ張った。
「ちょ」
 おつうは慌てる。しかし弐兵衛はおつうをつれて外へ出てしまった。
 数間先まで歩いてから、弐兵衛は口を開いた。
「ちょっと来てくんねえか」
「もう来てます」
「あ、そうだったな……、それで、あのう」
「駆け落ちかい、それとも心中かい」
「どっちがいいかな」
「あたしに訊かないどくれよ」
 すると弐兵衛は、袂から紐状のものを取り出した。
「あー、これせっかく持ってきたから心中で」
「そんな理由で……」
「オナシャス」
「ええー」
 一瞬の隙を突くように紐を括り付けようとしてくる弐兵衛を、おつうは身軽に躱しながら考えあぐねていた。
 ――はて、どうしたもんかねえ。

 参吉は座敷で一人、酒を呑んでいた。
 ふと嫌な予感めいたものを感じ表へ出ると、おつうと弐兵衛がいた。
 参吉は言った。
「お、おめえ、おれの弟になにしたんだ」
 おつうは紐を、弐兵衛の首に駆けており、そのまま引きずって来たのだった。
「なにって、参吉、あんたの男色をあたしが知らないと思っているのかい。
 あんたと弐兵衛が想い合ってるのは知ってた。
 だけどまさか、弐兵衛があたしを殺しにくるとはね。
 ほんとはね、この遺体を河に棄てて来ようかとも思ったんだ」
 ――せめてもの慈悲だよ。
 それだけ言うと、おつうはその場から去った。
 参吉は、しばらくその場でとぼんとしていた。

 了
 
 
 
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