第38回 てきすとぽい杯
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たかっけいのこい
茶屋
投稿時刻 : 2017.04.15 23:21 最終更新 : 2017.04.15 23:27
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- 2017/04/15 23:27:49
- 2017/04/15 23:21:56
たかっけいのこい
茶屋


 切片が降りしきる。
 せつせつと。
 せつせつと。
 対角線上に位置する彼女が求めるのは相似ではなく合同。
 私は彼女の鏡像でなければ相似形ですらない。
 そんなことはわかていた。
 わかりきていた。
 証明の穴は何度だて探した。
 それでもいつだてQEDに辿り着いてしまう。
 対角線上の距離は縮まらない。
 彼女との距離の間を切片が降り続ける。
 せつせつと、せつせつと。

 直角。
 直角が差し込む。升目から。
 直角の眩さに角度を細めていると直方体が不思議そうにのぞき込んできた。
「怖い角度してる」
 私はむとしてさらに角度を鋭角にした。
「わ、こわ
「元から私はこんな角度なの」
「公理的に?」
「公理的に」
 すると直方体は少し緩んだような感じになる。角度は変わらないのだけれど、なんだか柔らかさを含んだような感じなのだ。曲率とかの関係かもしれない。
「そんなことないよ」
「何が」
「三角錐はもと可愛いよ」
 何を言ているのだろうと思たけど、その言葉の意味をかみ砕いていくうちになんだか面が熱くなてくる。
「可愛いよ。角度も」

「よ、109.5°」
 双三角錐が私の頂点をすぱたく。
「いてな97.18°」
 そんな私の反応を認めて一人納得すると、幼なじみの双三角錐は気味の悪い笑みだけを残して走り去ていた。
 横にいた直方体がその後姿を見送ている。
「なんだ、ぼーとして」
 私はにやけながら、精一杯にやけながら、彼女をからかうんだ。
 すると彼女は面を真赤にして抗議する。
 私は友達でいなければならないから。
 ずと、できればずと、彼女の横に立ていたいから、友達のふりをするんだ。
 彼女の気持ちを知ていてなお。
 己の気持ちに気付いてもなお。
 彼女との形を崩すわけにはいかないから。
 ふと、何かが辺にそて流れる。
「あ、切片だ」
 彼女の声につられて空を見上げると切片が降り始めていた。
「綺麗だね」
「うん」
 寒さを感じてポケトに手を突込む。
 ずとこんな時間が続けばいい。
 くしくしに丸めた双三角錐からの恋文の感触を感じながら、そう思た。
 
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