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「覆面作家」小説バトルロイヤル!
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ともしび
HAL姉@
 投稿時刻 : 2017.07.05 14:32 最終更新 : 2017.07.05 15:53
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- 2017.07.05 15:53:20
- 2017.07.05 15:46:35
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- 2017.07.05 14:36:03
- 2017.07.05 14:32:06
ともしび
HAL姉@


お題:懊悩/ゴーストタウン


  逢魔が時…人の往来が消えて久しいであろう、朽ちた路地を彼は行く。
擦り切れたジトからポロりと、愛用のジポが落ちて悲しく金属音を響かせた。
「まだ…残ていた筈だが…」
  力無くシガレトケースを取り出し火を着けようとしたその時、彼の耳に砂利を踏む独特の足音が微かに届く。
「ち、一服させてくれと言ても、どうせ聞いちあくれねんだろうな…」
  今にも崩れ落ちそうな廃屋が建ち並ぶここは、うてつけの場所だ。
  それは、彼らにとても、勿論自分にとても。
  合図はまだ聞こえてこない。
  彼はゆくりと廃屋の壁に背を預け、愛用のマグナムに手をかけた。
  向こうに自分の場所は把握されているだろうが、こちらはまだ確定出来ていない。
  時折西南から湿た空気の塊が埃を舞い上げ、細かな石つぶてが互いにぶつかり合て音を立てていた。
  深く、静かに息を吐く。
  全神経を聴覚に集中させ、僅かな物音も逃さぬ様目を閉じた。
  彼らも馬鹿ではない。
  察知されぬ様、ピクリとも身じろぎせずにいるだろうという事が分かる。
  どれ程の時間を、そうやて過ごしていただろうか?
  滲み出た汗が一筋、輪郭を伝わて顎から滴り落ちたその刹那、待ち構えていたそれは何の前触れも無く全員の鼓膜を打た。
  重苦しい空間を切り裂く様な、高い鳥の声。
  それに呼応して、彼は風雨に晒されて酷く歪んだ路面に踏み出し、銃口を空に向けて一発放つ。
  それだけで彼には充分だた。
  三時と十時の方向、視界に捉える。
  素早く死角に身を隠し、脳神経をフル回転させて算段をつけた。
  膠着するのは彼の性に合わない。
  一呼吸置いて、彼は再び彼らの視界に躍り出た、と同時に照準を合わせ弾丸を放つ。
  、と、三時の方向から男の悲鳴が上がた。
  すかさず身を翻して今度は十時の方向へ。
  だが手応えは無い。
  小さく舌打ちすると、彼は右手へ転がり無造作に積まれていた古タイヤの山に滑り込んだ。
「俺も腕が落ちたな…一発で仕留められなかたとは」
  そう独りごちた彼は、くるりと指で愛銃を回転させると苦く笑た。
  しかし、そう嫌な気分でもない事は、己の鼓動が裏付けている。
  過信があた、とも、傲りがあた、とも言える自身に彼はほんの少し安堵した。
  俺にはまだ見ぬ先がある様だ、と。
  廃屋の窓枠から、家主が消えて尚まだしがみついていた薄いガラス片がキシキシ声を上げている。
  耳障りな命無きその悲鳴に一瞬気を取られたのが、まさに彼の油断だた。
  銃声が鳴り響いたと同時に、左耳僅か上を熱がかすめていく。
  それはそのまま空を切り闇に溶けた様だ。
  姿の見えぬ者に背中を撫でられた様な感触に、彼は身震いした。
「おいおい…面白くなてきたじか…?」
  発した言葉とは裏腹に、その声は掠れて音を伴ていない。
  その事実に気付き愕然とした彼は、しかしすぐに立て直しその身を敵に晒した。
「俺を出し抜こうとは…なかなかやるじか。ここはサシで勝負といこう」
  挑発。
  乗るか反るかは判然としない賭けに出る。
  そう間を置かず、ゆらりと人影が目の前に現れた。
  上着のフードを目深に被ているらしく相手の顔は口元しか窺えないが、彼が想像していたよりも小柄で華奢な姿に意外性を感じる。
「子供…いや、女か…?」
  彼の呟きに、その人影は僅かに肩を揺らした様だ。
  そして、それが引き金となた。
  くりと、互いに銃口を向け合う。
  不意に、雲の切れ間からスポトライトの様に淡い光が差し込んだ。
  まるで舞台の上の役者の様に、その人物は彼の瞳に映り妖艶な笑みを浮かべる。
  それで充分だた様だ。
  ほぼ同時に二つの銃口が煙を吐き、彼の意識はそこで途絶えた。

  コツコツと、何かを叩く音が聞こえてくる。
  薄く目を開けた彼は、まだ定まらない視点をそのままに大きく息を吐いた。
  と同時に、右脇腹に鋭く痛みが走る。
「う…」
  、俺は…負けたのか。
  痛みによるものか、はたまた初めて敗れた事への呻きなのかは彼にも分からないが、それは相手にとては単純に彼が覚醒した事を告げる物だたらしい。
「やと目が覚めたみたいね。手当てはしておいたから、じきに動ける様になるでしう」
  声のする方へ顔を向けると、木製のテーブルで何やら作業をしている女がいた。
  胸元まである色素の薄い髪の房が、フードを取り露わになているであろう彼女の顔を覆い隠している。
  身動きする度に全身に走る痛みに耐えながら周囲を窺うと、埃が積もて白くなた古い家具や、あちこちに張り巡らされた蜘蛛の巣が薄明かりで視認出来た。
  どうやら建ち並んでいた廃屋の一室らしい。
「救援隊には連絡をしておいたわ」
  コツコツという音の正体は、薬莢に火薬を詰める作業音の様だ。
  愛銃はワルサーP38か…
  視線を感じたのか、僅かに顔を上げた彼女はが不満そうに唇を尖らせた。
「悪い?子供の頃からルパン三世が好きなのよ」
  丁寧かつ迅速な手つきで弾を詰め、整然と並んでいた残りをケースにしまう。
「縁があたらまた会いましう」
  そう言うと、彼女は彼に一瞥もくれず席を立ち、錆び付いて不満を漏らすドアの向こうへ消えた。
  暫くして、遠方から複数のエンジン音が聞こえてくる。
  息を詰めてゆくり半身を起こすと、今まで自分が寝かされていた穴だらけのソフには清潔そうな敷布が敷かれており、患部にも適切な処置を施されているのが分かた。
  先程の様子やこれらから、彼女の人柄を窺い知る事が出来る。
  テーブルに置かれた小さなアルコールランプが、ゆらゆらと彼の影を揺すていた。
  それはまるで心情を代弁している様だ。
  やがて到着した救援隊により、彼は残された余韻に浸る間も無く搬送された。

「そりあお前、恋じの?」
  白く狭い個室に、予想だにしていなかた言葉が衝撃と共に落とされる。
「は、何言てんだお前」
  敗者の傷口にわざわざ塩を塗りに訪れた彼の友人である男は、初の黒星を喫した経緯を面白がて聞き出し、大仰に両手を広げた。
「このゲームには勿論女だて参加している。
  一人で挑戦するも良し、徒党を組んでも構わない。秩序が消えたこの世の中で行われる、互いに生死を賭けたゲーム…汚染されて未来の保証なんてどこにも無い、全ての国家が諦めた世界でのたた一つの救いだ」
「救い…そう言えば聞こえはいいが、現実は残酷だ。参加さえしていれば、衣食住は保証してくれるが…」
「もう後戻りは出来ないさ。今回の勝敗は筒抜けだ、無敗の男が遂に膝を屈した…とな。
近い内にルーキー達がこぞて挑戦状を叩きつけに来るだろう」
  男の言葉に、彼は吸たばかりの空気を全て吐き出した。
「休養期間は無いのか?」
「さて、どうだたかな…」
  彼の問いに、男は随分使い込んでいるらしい古ぼけた黒い手帳を取り出した。
  数年前までは衰退の一途を辿ていた紙媒体が、今では大手を振ている。
  眉間に皺を寄せながら頁を捲ていた男が、該当する項目を見付け仰々しく読み上げた。
「ゲーム内に置ける外傷において、甲は適切な処置、対応を施行する。それに伴う休養期間は外傷の程度にて算出、通達する…一応そこら辺はまともな様だな」
  感心した素振りを見せる男の言葉を、彼は鼻で笑い飛ばした。
「瓦解し朽ちていくだけの世界で、酔狂なゲームを提示する組織のどこがまともなものか」
「壊れているんだろうさ…組織も、お前も、俺も…生きている者全て。恨むんなら、こんな時代に生まれた自分の運命を恨むんだな」
「使い古されたセリフだ、だがそれ以外言い様が無いな」
  彼の右側にある四角く縁取られたそこからは、荒廃した巨大な都市の残骸が見える。
  ほんの数年前まで、文明が極度まで栄え、人類は自分の人生を謳歌していた。
  夢や希望がそこかしこに転がていて、だが、平穏な日々をただ繰り返す事に辟易していた彼は、未だに苦々しく思い出すのだ。
  望んでいた事は、こんな世界では無かた。
「まお互い、命ある限りは抵抗していこうや。こんな汚れた世界でもまだ…唯一、汚されない事があるだろう?」
「…何だ?」
「俺が教えてやれるのはここまでだ。そろそろ向かわなきならんからな」
「そうか…生きろよ」
「お前もな」
  これが最後になるかもしれない、とは、互いに口には出さない。
  まるで散歩にでも行く様に片手を上げて出ていたたた一人の友人と呼べる男を、彼は背が消えるまで見送た。
  腹部の傷が鈍く痛む。
  彼女は今日も、命懸けのゲームに身を投じているだろうか。
  対峙した時間は短くまともに顔を拝んだ訳では無いが、何度もフラクして脳裏に焼き付いていた。
  恋じないか、とつい先刻軽口で告げられたが、そうかと頷ける状況では無い特殊な環境下での対峙。
  強制的に平穏な日々から追放され突如無法地帯へと投げ込まれた人類は、少しずつ、確実に狂ている。
  命ある明日の為に、感情に蓋をして日々指定された地に赴き、何の遺恨も無い相手を摘んできた。
  こんなに感傷的になるのは初の事例だらけだただけだ。
  そう無理矢理持て余した感情を飲み込むと、彼は起こしていた半身をベドに沈ませた。
  今は少しでも早く回復する事に専念しなければならない。
  本日中には来るであろう通達にどれだけの猶予が記されているかは分からないが、そう悠長な事はしていられないだろう事は、今までの経験上推し量る事が出来た。
  荒廃した都市、枯れ落ちそのまま新たな息吹を上げず倒れていく木々達、容赦なく照り付け日中外出の出来なくなたこの世界は、刻一刻と終焉のカウントダウンを進めている。
  半ば自暴自棄に日々を過ごしてきた彼にとて、彼女の存在は酷く特異で、発見でもあた。
  目を閉じ、束の間の休息。
  生き残る術が選択の余地も無く、弱肉強食の摂理の上にのみ確立している。
  或いは、あの平穏な頃に出逢ていたら…
  そんな無意味な思案が首をもたげたが、すぐに打ち消した。
  彼の意識が次第に移ろい深い眠りに就いた頃、音も無くドアの隙間から白い封筒が滑り込んできた。

  全ての生命が尽き世界の終わるまで、残された期間は35日。
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