世話
パソコンに向かい合い、脳と文字を連結させるのに忙しい季節。
吹雪が止まない悪天候の中、事務所にひとり、メー
ルの送受信に熱くなる人間がいた。
こちらから送るメールは
「大丈夫、服装はユニクロで充分だ。ただし、ルメールのやつで」
あちらから受けるメールは
「第一印象だと思うんだ、鳥のブローチなんかどうかな」
年末が近づくと、人間に、あるプログラミングが働くらしい。
それは日常にはない行動をする者が増えると同時に、カテゴライズを始める者が増え、
ひとりで年を越す者、ふたりで年を越す者。そして、ひとりとひとりをくっつけようとアドバイスをするおせっかい者。
とにかく、そういう者たちが増え、送受信サーバは活性される現象だ。
聖夜に向かってその送受信は加速された。
「クリストフルメールの作る服は、もう完成されている。そこに大量生産型のブランドが目をつけた」
「それはウンチク?」
「そう。ルメールはシンプルにそれに応えた。洗練されたデザインは微妙な計算で大量生産できるようにも考えられている」
「プライベート作品もできて、商業的な作品もできると」
「そう。うまくバランスを取って、どちらにも適応できるっていうこと」
「……それが何につながるの」
しばらく続いていたメールのキャッチボールがそこで途絶えた。
その返信にしばらく考えた。そう、それが何につながるというのか。
あちらはわからないのだろうが、こちらにはわかっていた。
それはこちらにとって、旅に出る理由につながるのだから。
「何につながるのか、その先は適当に考えてくれ」
そう伝えてパソコンを閉じた。
聖夜に向かってその送受信は加速された。そして聖夜が終わると、その送受信も同じく終わるのだった。
窓からは着陸した旅客機が見え、太陽の光を受けて輝いた。
ロビーでは旅行者たちが満ち足りた表情で、忙しく先を急いでいる。
賑やかな待合所で、また招待状を開く。
パソコンに向かい合い、脳と文字を連結させるのに忙しい季節。
春の陽気の中、空港にひとり。飛行機の順番を待つ、少し微笑んだ人間がいた。