第42回 てきすとぽい杯〈紅白小説合戦・紅〉
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被観察者たち
投稿時刻 : 2017.12.09 23:30
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被観察者たち
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『警報、警報、宇宙より未確認飛行体が接近中』
 人工知能のKETSUの声で、俺は浅い眠りから覚めた。
 モニターには、地上の様子が映されている。
 見慣れた、火星の赤い砂まみれになた廃墟。崩れたビルデングの上で、確かに、見慣れない飛行体が動いている。
「また宇宙人かよ。最近、多いな」
『戦闘型アンドロイドを起動させますか?』
 KETSUが問いかけ、俺は頷いた。
 今年に入てから、宇宙人が火星にやてきたのは今回が3度目だ。1度目はかなり遠く離れた場所を少しうろついただけなので放ておいた。しばらくしたら飛び去ていたが、それから数月後にやてきた宇宙船は、この遺跡の近くに着陸したので、脅しのつもりで戦闘型アンドロイドをしかけた。すぐに去て行たので、戦意はなかたのかと思たが、また同じ場所にやて来たということは、もしかしたら、本格的に侵略しようとしているのかもしれない。
 何しろ、ここは、かつて人類が太陽系全土に植民していた時代に、一番栄えていた都市の遺跡だ。今さき地上に放た戦闘型アンドロイドを含めて、現在でも使えるものが沢山残ている。もしも宇宙人が新たに住む土地を探しているのだとしたら、ここを拠点にしようとするのは合理的だろう。
『戦闘型アンドロイドが始動しました。火星外生命体が応戦しています』
「う……なんだあの生き物、きもい。しかし、強いな……
 前回はすぐにいなくなたから、油断していた。8本の手と13本の足を持た緑色の生き物は、次々と戦闘型アンドロイドを倒していく。
『警報、警報、地下住人は、直ちに安全な場所へ避難してください』
 KETSUは、戦闘の不利を計算したのか、地下シルターからの脱出を勧告してきた。
「地下住人は、か……
 俺は自嘲的に呟く。
 火星に住んでいる人間は、俺だけだ。地球人はこの銀河系に、きと、数えるぐらいしか生き残ていない。俺はその希少な一人というわけだ。だが、もう、生きている意味など、見いだせなかた。
 モニターには地上の激しい戦いの様子が映し出されている。
 あの恐ろしい姿の宇宙人に捕らわれる殺されるなら、それはそれで、良いような気がしてきた。
 俺は地上へのエレベータに乗る。
 そして、扉を開けた。
 さあ、殺せ。
 心の中でそう思た時だた。
 ぱたぱたぱた、と、不思議な音が頭上から響いてきた。
 見上げると、両手で抱えられるぐらいの大きさの、見たことのない生き物が、翼を広げて降り立てきた。
 茶色い身体。丸い目。黒と黄の二色のくちばし。水かきのついた赤い足は二本。
 それは俺の目の前に立ち、じと俺を見つめてきた。
「あ、あんたは……?」
 ここが地下シルターなら、KETSUが画像検索でもしてくれただろうが、地上には何もない。
 ただ、俺は、なぜだか、それを見た瞬間、急に、生きる気力が湧いてきたのだた。
 その生き物は、俺に、ついてこい、というような目線を送た後、ぺたぺたと歩き出した。
「お、おい、お前、なんなんだ? 俺を、助けてくれるのか? どこへ行くて言うんだ……?」
 遠くから爆音が絶えず鳴り響いている。
 そんな中、その生き物は俺に答えた。
「グワ、グワワワ、グワー!」
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