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第42回 てきすとぽい杯〈紅白小説合戦・紅〉
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兄さんは甘いよ。
 投稿時刻 : 2017.12.09 23:55
 字数 : 2390
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兄さんは甘いよ。
浅黄幻影


 荒野に並ぶ二軒の荒ら屋に、それぞれ兄と妹が暮らしていた。
 兄のコバルトはあたりに広がる土地を畑にし、農家として生きていた。しかし大した農具はなかたし、広大なフロンテアなので、実るのは干からびたトウモロコシとカラカラのジガイモばかりだた。畑では自分たち兄妹が食べる分と、少しのおまけほどしか採れなかた。ほかにも少し離れた林や森に狩りにでかけたりもして、コバルトは鳥や獣を捕まえた。二人の食料はこの兄の手でまかなわれていた。
 妹のセレンは腕利きの電子技師で、兄にはわからないようなものを作ていた。遠くはなれたメガロポリスからも注文が入るセレンのことを、兄は頼りにしていた。猟銃も、荒野を吹き荒れる風から守るエアシールドも、盗賊から身を隠すための完全ともいえるステルスカーテンも、セレンの作たものだた。
 けれど二人は近くの小さな街までしか出たことはなかた。死んだ両親からの言いつけで決してこの地をはなれてはいけないことになていた。荒野しか知らない兄のコバルトには、メガロポリスは本当に存在するものなのかと思うような夢物語だた。
 姉妹は仲がよかたけれど、夕方になると決闘をした。時間になると互いに家から出て前の荒れ地へいき、腰につけた低衝撃銃を相手に向けた。
 向かい合い、睨み合た。隙を見てコバルトが銃のベルトに手をのばしてみても、もう妹の銃は自分に向いていた。そして、気絶はしないけれど十分に痛い思いをした。
 ほとんど毎日、勝負には妹のセレンが勝た。セレンの方がずと優れた銃の使い手だた。もしかしたら荒野一だたかもしれないくらいだた。
 倒れている兄にゆくり向かいながら、セレンはよくこう声をかけた。
「兄さんは甘いよ。『構え』が長すぎるんだ。構えるてことは、相手の出方に応じるためのもの。構える前にこちが撃たなき。先手必勝。
 ──ねえ、これはやめないか。兄妹で撃ち合うのは嫌だし、低衝撃銃でも痛いし。
 ──痛くないですます方法を兄さんは知ているはず。私に勝てばいいんだから。それに、いつ誰が襲てくるかもわからないこの世界だもの。私が兄さんを守り、兄さんも私を守てくれなき。兄さんも強くなて」
 それから、二人はいつも妹が作るトウモロコシのスープを口にし、ときどき保存している干し肉を噛んだ。
 コバルトは本当は自分が料理をしたかたのだけれど、セレンがどうしてもというので譲ていた。けれど、セレンの料理は機械油のにおいがいつもしていて、コバルトは苦手だた。


 ある日、コバルトは畑で芋掘りをしていた。セレンは街へ、注文されていた電子部品を届けにいていた。だが、いつもなら夕方に帰るはずのその小旅行を、セレンは乗ていた機械馬を荒ぽく乗て急いで帰てきた。
 つばの広いストロートをしていたコバルトは、自分の手元は見えていたけれど、それほど遠くは見えなかた。だからセレンが帰てきたその瞬間を目にしなかた。ただ機械馬の荒ぽい音がして、静またきりだた。コバルトは少し不思議に思たけれど、芋掘りをつづけた。
 夕方、時計が時刻を告げたとき、いつものようにコバルトは低衝撃銃を腰にして出たが、セレンはいなかた。これまでにこんなことはないことだた。具合の悪いときは前もて話しあうことになていた。
 コバルトはセレンの家にいてみた。セレンの家は、間に機械馬小屋を挟んだだけの距離だた。
「セレン……セレン、どうした」
 戸を開けると、セレンは両親が残していた電子学の書物と彼女が自分で作た合成酒をテーブルにおいて、ひどく悩んでいた。
「まだ飲むには早いよ。それに俺だてまだ酒は早いといわれているのに。
 ──兄さんは、甘いよ。二人しかいないこの荒野で、国家法なんて無意味。情に厚くて礼を失しない精神はすばらしいけどね。飲みたいなら飲むといいんだ。
 ──だけど、どうしたんだ? 暗い顔をして。街で何かあたのか?
 ──大丈夫。兄さんは心配しないで。今日は一人で夕飯にして」
 コバルトは心配になたけれど、自分よりしかりしていて強い妹だからと、いわれたように一人でスープを作て食べた。久々に機械油のにおいがしない、まとうなスープだた。


 夜中、爆音がしてコバルトは目が覚めた。そして電子銃の音がしたので、あわててすぐに銃を持ち、家の戸の陰から左右を見た。セレンの家は燃え上がり、そこに電子銃の光が遠くからセレンの家に打ち込まれていた。
 セレンの家からは銃線の先にミサイルが数発、発射された。けれど、どれも相手にとては致命的なものにならなかた。
 やがてセレンは燻されて、そとへと倒れ出てきた。コバルトは銃口の相手を思い描いて撃ては隠れを繰り返して、セレンへとたどり着き、セレンを向かいの機械馬小屋へと隠した。
「なんだてこんなことに!」
 未だ、銃撃が止まず、窓から相手への反撃を繰り返すコバルトの陰でセレンは答えた。
「私の作た電子部品が狙い……。あれを渡すのはまずいんだ。お願い、兄さん。これを、できるだけ遠く、海の底に沈めて……
 セレンの呼吸が弱くなていた。
 振り返たコバルトは、セレンの最期の言葉を聞いた。
「お願いするよ? あいつらを許すほど、兄さんはそんなに、甘くないよ、ね……?」


 その後、電子銃を手にしたコバルトは、その約束を胸にした。何物でも破壊できなかた電子部品を手にして、遠くの海までたどり着き、海の遙か奥へと進み、そこへと沈めた。
 それからコバルトは、かつての自分の家へと戻てきた。もう妹はいない。電子技師の彼女がいなくなれば機械馬もやがては壊れる。ステルスカーテンもいつかほころびる。
 コバルトはセレンが作てくれた機械油くさいスープを懐かしがり、毎晩のようにセレンの言葉を思い出していた。
「兄さんは甘すぎるよ」
 幾度となく、塩辛い涙が流れた。
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