失われた古代文明 ※グロ注意
「ねえパパ、これ、なあに?」
目の前の大きな、大きな箱を指して、僕はパパに尋ねた。パパは間の抜けた顔で首を傾げている。
「なんだろうなあ。皆目検討もつかないなあ」
「す
っごく大きいね。何に使ったんだろう」
「なんだろうなあ」
パパは興味がなさそうだ。どうしてこんな不思議で大きなものの前で、そんなにつまらなそうな顔が出来るんだろう!
目の前の大きな箱は、多分樹脂で出来た六面体で、一面だけが液晶組成物のようなもので出来ている。その面が僕らの方を向いていて、手前には、これまた樹脂製の板が置いてあって、その上に僕らの手にも取れそうな小さな箱が規則正しく並べられている。
「すみません、これは、一体なんなんですか?」
パパに聞いても埒が明かないので、僕は暇そうにしていた学芸員さんを呼んで尋ねた。でも学芸員さんもすごくつまらなそうな顔をしている。
「えー、それがですね、古代人が家庭に必ず一個は持っていた日用品だと思われるのですが、何に、どうやって使われていたのかは、よくわからないんですね」
「そうなんですか……これは、機械なんですか? 動かしたりできないんですか?」
「相当な電力を使うものなようで、ここではちょっと……」
そうなんだ。僕はがっかりした。でも電気を沢山使うものなら、しようがないな。古代人が滅んでしまった理由にはいくつかの説があるけれど、最近は地球の資源を使いすぎて自滅したんだって説が主流らしくて、僕らも節電を心がけるようにしている。
今日、僕はパパと一緒に「失われた古代人の文明展」にやってきている。かつてこの地球で栄華を極めたが、もう何千万年も前に滅びてしまった、二足歩行の哺乳類の遺跡の展覧会だ。不思議で面白いものが沢山ある。二足歩行の哺乳類がこの地球のあちこちを歩いていて、当時は僕らの先祖より力が強かったなんて、ちょっと想像しにくい気もするけれど、ここにある色んなものを見ていると、ワクワクしてくる。
例えば、あの冷蔵庫っていう縦長の箱は、食べ物を冷やして保存しておくための道具らしい(これも電力を消費するから今は使えない)し、その隣にあるマイクロウェーブっていう立方体の箱は、その名の通りマイクロウェーブを当てて食べ物を温めたりするらしい(これも電力を消費するから使っているところは見られない)。電力を使わないもので、僕が面白いと思った道具では、窓っていうのがあった。ガラス板の四方がアルミで覆われているもので、詳しい用途は不明なんだけど、お隣の家族との仕切りに使ってたっていう説が有力らしい。僕らにはよく理解できないけど、古代人は秘密主義で、ぷらいばしいってやつにすごくこだわってたみたいだ。
こんな色んな道具を開発する賢くて行動力のある種だったのに、どうしていきなり滅びてしまったんだろう。やっぱり、テレビで言ってたように、電力の使いすぎだったのかな?
ちなみに、保守派のママは古代人のことが嫌いだ。曰く、そもそも地球上の生命体としては、僕達の方がずっと昔からいた由緒正しい種族だっていうのに、新参者の古代人達が身の程を弁えず我が物顔で地球を占拠し、挙句僕達の祖先に戦いを挑んだ。そしてその戦いの末に僕達の祖先が勝ち、古代人は滅んだ。当然の報いなんだと。
本当なのかどうかはわからないけど、こういう説を支持している団体も結構いる。神様を信じているんだ。
「おい、そんなのより面白いアトラクションがあるぞ」
パパに言われて視線を移すと、子供が群がっている、三角屋根の箱があった。僕らの身長ぐらいの高さの、家みたいな形の箱だ。素材は何かな。紙にも見えるけど……
「あれは何なの?」
「あれは、一説によると、我々の祖先と古代人の戦いで、古代人がしばしば我々に対して仕掛けてきた罠らしいぞ」
「罠?」
「えーと、パパはお前みたいに頭がよくないから、詳しいことはわからないが、あの中に敵を誘い込んで、閉じ込め、殺す仕組みになっているんじゃなかったかな」
「閉じ込めて殺す! 恐ろしいね。マイクロウェーブを当てたりしたのかな……」
「大丈夫だ、今は展示用に危険な部分は撤去してあるはずだ。さあ、入ってみようじゃないか? 我々 Blatella germanica 文明の原点を感じられるぞ」