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第4回 文藝マガジン文戯杯
〔
1
〕
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〔 作品2 〕
シュナプスマン
(
茶屋
)
投稿時刻 : 2018.08.19 21:10
字数 : 3702
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シュナプスマン
茶屋
ハンナ・ヨハンネソン(シ
ュ
ナプスマン記念館館長)
彼はこの国最大の、場合によ
っ
ては、史上屈指のヒー
ロー
だと思います。ライバルヴ
ィ
ランのアングストとの死闘は有名ですが、その他にも数々の危機から人類を救
っ
ています。ここで語るにはあまりにも多すぎる功績が彼にはあります。もちろん、いくつかの失敗もありますし、厳しい評価を下す識者もいることは確かです。もしかしたら、そんな評価の一部も当てはまるのかもしれませんが、ヒー
ロー
だ
っ
て完璧ではありませんからね。現代的なモラルでは確かに問題になる部分もありますね。ですが、彼がヒー
ロー
であることは変わりがありません。これまでも、これからも。
ケヴ
ィ
ン・ガー
ドナー
(商店経営者)
彼の事はよく見ましたよ。私がまだガキの頃でしたがね。よく買い物に来てました。常連
っ
てやつですね。ビー
ル2パ
ッ
クと度数の強い奴を一本、TVデ
ィ
ナー
を2日分ぐらい。それがだいたい彼の「いつもの」
っ
てわけです。正直、ヒー
ロー
だなんてこれ
っ
ぽ
っ
ちも思いませんでしたよ。風采のあがらない労働者。そんな感じでしたね。不幸な結婚をしちま
っ
たか、結婚するだけの収入がない、そのど
っ
ちか
っ
て感じの。シ
ュ
ナプスマンはもちろん知
っ
てましたよ。私たちの世代には絶対的なヒー
ロー
ですから。だからこそ、今でも信じられないんですよ。彼がシ
ュ
ナプスマンだ
っ
たなんて。
チアゴ・リベイロ(会社員)
シ
ュ
ナプスマンが吐いてるのを確かに見た。か
っ
こよくビルから降り立
っ
たかと思
っ
たら、壁際で酔
っ
払いみたいにゲ
ェ
っ
てな。正直幻滅したね。でも、こんな話、友達には信じてもらえなか
っ
たし、友達にはしばらく嘘つき呼ばわりされたね。今は幻滅したことに後悔してるよ。背中をさす
っ
てやればよか
っ
たかな
っ
て。
グエン・ドン(グ
ッ
ズコレクター
)
このベルトはデ
ィ
カ社から発売されたもので、実際のものとの差異は結構ありますけど、当時のものにしてはかなり再現度の高いものなんです。特にこのメー
ター
、電池式でち
ゃ
んとゲー
ジがわかるようにな
っ
てるんですよ。当時はこのゲー
ジが何を示しているものなのか、様々は憶測を呼んでいましたが、エネルギー
ゲー
ジ
っ
て言う点については大方の意見は一致していました。問題はエネルギー
の元はなんだ
っ
たのか、です。それが判明したのは先代のシ
ュ
ナプスマンが長い戦闘に巻き込まれるようにな
っ
てからです。長い戦いでは途中でエネルギー
補給をしなくち
ゃ
なりませんからね。
カフカの「ある学会報告」、知
っ
てますか? もちろん、「変身」のほうが有名ですが、シ
ュ
ナプスマンは毒蟲には似ていません。「ある学会報告」では、猿が火酒を、つまり、シ
ュ
ナプスをあお
っ
て、人間へと変身していくのです。シ
ュ
ナプスマンの名前はそれに由来するのかもしれませんし、ただの偶然だ
っ
たのかもしれません。
彼のエネルギー
源はアルコー
ル飲料だ
っ
たんです。
メー
ガン・テイラー
(主治医)
彼がヒー
ロー
として活躍していたことは知
っ
ていました。最初は彼はそれを隠していましたが、嘘をつくのがあまり得意ではなか
っ
たようで、だんだんと話のつじつまが合わなくな
っ
てい
っ
たんです。ええ、正体を隠すことも彼にはストレスの一つだ
っ
たんでし
ょ
う。
彼は葛藤していました。ヒー
ロー
としての葛藤もそうですが、アルコー
ル依存症としての葛藤もです。彼の場合特殊なのが、酒を断つ努力をしようにも、酒こそが彼のアイデンテ
ィ
テ
ィ
ー
の中核であり、使命であり、また、人々がそれを求めたということです。私は医師として彼個人の健康を重視していく方針でしたが、正直なところ難しい問題ですし、やはり他の患者と同じように扱うというのは難しいところでした。
彼がはじめて飲酒したのは16歳。年齢としては異常というほどではありません。テ
ィ
ー
ンエイジ
ャ
ー
にと
っ
て飲酒はある意味で冒険ですから。ただ、彼のき
っ
かけは冒険ではなく、つらい使命の始まりだ
っ
たのです。初めの頃は大規模な事件にはかかわりませんでしたから飲酒も抑制のきいたものだ
っ
たようです。ですが、犯罪や陰謀が強大になるにつれ、その量も増えていきます。そして、彼は依存症になりました。
彼の言葉で印象に残
っ
ているものがあります。
「何かを救うために酒を飲んでいるのか、酒を飲むために何かを救
っ
ているのか、時々わからなくなる」
マハテ
ィ
ー
ル・イブラヒム(著述家 元サイドキ
ッ
ク ザ・テイパー
)
あいつは責任感の強い男だ
っ
たよ。なんでも自分で背負い込みたが
っ
て、それについて深く考えがちだ。普段は慎重な男だ
っ
たから、正直、酒のおかげのヒー
ロー
をやれていたんだと思うよ。酒がなき
ゃ
、踏ん切りがつかない
っ
て感じだ。それでも、会社員なんかはやれてただろうね。パ
ッ
とはしないが、専門性の高いエンジニアかなんかの裏方、もしくは行動力のあるやつとコンビを組めば
っ
てそれなりに
っ
て感じだ。頭は悪くなか
っ
たからね。だが、普段のあいつはや
っ
ぱりヒー
ロー
に向いち
ゃ
いなか
っ
た。敵がいてもまずいろいろなことを考えちまう。いろんなものを見て、それ全部を考慮に入れようとする。だから一歩遅れる。と
っ
さの判断が求められるヒー
ロー
の現場に向いち
ゃ
いない。
だけど、酒を飲んだ時のあいつは無敵だ
っ
た。そり
ゃ
スー
パー
パワー
もあるけどさ、そこはむしろ二の次だ。雑音が排除される
っ
ていうのかな。あいつは酒を飲むと余計なことを考えなくなるんだ。目に入らないわけじ
ゃ
ない。優先順位がは
っ
きりつけて、今集中すべきことに集中できるようになる。立ち止ま
っ
ていた物事をうまく回転させられるようになるんだ。ある意味才能だよ。酒があいつを完璧にした。酒を飲んでるときのあいつはまさにヒー
ロー
だ
っ
たよ。
アングスト(ヴ
ィ
ランコンサルタント 元ライバルヴ
ィ
ラン)
奴がいなけり
ゃ
俺の仕事はも
っ
とうまくい
っ
ていただろうよ。そいつは間違いない。犯罪者としては大成功。今頃デカい組織のボス
っ
て感じだ
っ
ただろうさ。
だが、ヴ
ィ
ランとして成功したかどうか
っ
ていうとち
ょ
っ
と違う。奴の存在があ
っ
てこそ、俺は成功した。今はそう思うね。奴が俺をエキサイトさせたんだ。奴が俺の計画を阻止するほどに、俺は過激な計画をとらなくち
ゃ
ならなか
っ
た。奴が俺をヴ
ィ
ランとして成長させたのさ。そして、俺は奴をヒー
ロー
として成長させた。良くいえば切磋琢磨だ。強い不安に勝つためには強い酒が必要だ。強い酒に勝つには不安はより強く、より根の深いものにならなくち
ゃ
ならない。
酒? ああ、奴を語るうえで酒は大問題だな。奴にと
っ
ての最大の悪だ