夜のドライブ
職場の陰湿な人間関係や残業続きで気分がふさいでいたので、友達二人が夜のドライブに連れ出してくれた。
若い頃はこうや
って、3人でよく遊んだ。
オレたちはなぜだか最初から気が合った。
夜の浜辺で花火をしたり、カラオケに行ったり、高校生の頃にはロシア美女の住むアパートに下着泥棒に行ったりした。だけど、これは未遂で終わった。
オレは友達の運転する車の後部座席で、前の二人のそんな会話にあいづちをうったり、ほほえんだりした。
塞いだ気分も少しずつ軽くなっていく。
と、気がついたらシャックリが始まっていた。
オレは環境や気圧の変化でシャックリが続くクセがある。
今回も、どうにも止まりそうにない。
前の二人もシャックリをしはじめた。
不思議とこういうところも、オレたちは気が合う。
「ペットボトル半分くらいの水分をとったら、すぐ治るんだけどな、ヒック」
とオレが言うと。
「へえ、そうなんだ、ヒック」
と助手席のBが感心する。
でも運転しているAは、
「田舎道だから、しばらくコンビニも自販機もなさそうだぜ、ヒック」
と言った。
「じゃあここはベタに、互いを驚かしたらいいんじゃないか? ヒック びっくりしたらシャックリが止まるっていう民間伝承があるだろ? ヒック」
とBが言ったので、みんなでしばらく『驚くようなこと』を考えた。
車内は沈黙し、低いエンジン音とともに窓の外を よるの森の風景が流れていく。
本当に自販機どころか、灯りもない田舎道だ。
*
「そうそう……、ヒック」
とAがそんな沈黙を切り裂いて話はじめた。
「そういえば、この前行った結婚式の祝辞スピーチで、新郎側代表になったBが怖い話みたいなスピーチをしたことがあったじゃないか。あれは驚いたぜ」
「え、そんなことあったっけ?」
「ああ、『二人の馴れ初めは、オレたちが男女6人で山奥の古いお寺にきもだめしに行ったときです』って、話はじめたときは不謹慎なやつだなと思ったぜ」
「ああ思い出した。でも、実際あれで仲良くなって結婚したんだからなあ、ホントのところ」
とBが憤慨してみせる。
「それで、あのとき本当に見ちゃったんだよな」
「ああ、アレびっくりしたぜ」
女子のうちの一人で霊感のある子が『小さくすすり泣くような声が聞こえてくる』って言い出して、みんなでその音の出どころを探したんだ。
結局、雑草がおいしげる墓場の奥まで探しまわったんだよ。
そしたら、無縁仏の石碑の影で、ぼーっと光るように白いワンピースの少女が、うずくまって泣いている姿が……
「それが、今の新婦です!」
って、ご列席のみなさん驚いてたなあ。
「へえ……、ヒック」
でもオレのシャックリは止まらない。
「なんだそれ? 誰の結婚式だよ?」とオレはAとBに尋ねる。
AとBはシートから振り返り、声を揃えて「お前の結婚式だよ」と言う。
「え?」どういうこと、と思った矢先、
「そうよあなた」と白いドレス姿の女が隣で言った。
Aが運転する車はいつの間にか停車していた。
俺たちが行き着いた先は、高さ30メートルはある 海岸沿いにある岩場の崖の上で、地元では自殺の名所として有名だった。
「オレたちってほんとに気が合うよな」
とAとBが、また声を揃えて言う。
だだ、ひとつだけ幸いなことは、みんなのシャックリは止まっていた。