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第48回 てきすとぽい杯〈紅白小説合戦・白〉
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 投稿時刻 : 2018.12.16 00:00
 字数 : 1387
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永坂暖日


「これは、私が体験した話です。今から十年前、カネルお嬢様とサタスが、まだ二歳になるかならないかという頃のこと」
 三人で丸いテーブルを囲み、教師に出された課題をそれぞれ解いていた時だた。友人ロボトのロボが、いきなり話し始めた。
「なんだよ、いきなり。人の邪魔をするなよ」
「この建物の一角で、わたしは掃除をしていました」
「無視か」
「なになに?」
 サタスは呆れたが、カネルは課題に飽きていたのか、身を乗り出す。
「夜も更け、人は誰もいない刻限。私は一人黙々と、労働条件に疑問を抱きながらも、ロボトなので人権はないと心の中で唱えながら、掃除していました」
「なんか引かかるんだが」
「気のせいです」
「それで、掃除していて、何かあたの?」
「はい、カネルお嬢様。掃除していると、どこからともなく、声が聞こえてくるのです。名前を……名前を……教えて……と。私のセンサーを総動員しても、ようやく聞き取れる程度の声でした。そんな声なので、どこから聞こえてくるのか、よく分からない。はて、センサーが馬鹿になてしまたのだろうか、と創造主の腕を疑いました」
「だから、なんか引かかる」
 ロボを作たのは、サタスの父である。ロボト工芸士の腕を買われ、火星入植団に加わた技術者の一人だ。
「夜中でし。皆寝てる時間てこと? それなのに声が聞こえるなんて不思議ね」
 カネルは引かかるものがないのか、興味津々の顔である。そんなカネルを、ロボは嬉しそうに見ている。サタスには顔を向けようともしない。
「そうなのです、カネルお嬢様。私は不思議に思い、声の主を探しました。しかし、見つかりません。その間も、名前を教えて、という声は聞こえてきます。教えたら出てくるかもしれない、と思い、私は名前を告げました。すると、ぴたりと声が聞こえなくなたのです。わたしは、いよいよセンサーが壊れたのかと思いました。翌朝、一番に創造主に苦情を言おうと決意を固めました」
……もう突込まない」
「決意を固めたところで、私は掃除を再開しようとしました。すると再び、声が聞こえたのです。変な名前、と」
「ロボていう名前が? そんなに変じないと思うけど。呼びやすくていいわよ」
「俺は親父のネーミングセンスを疑てるが」
「それきり、声は聞こえなくなりました。そして、私は後に知たのです。センサーはどこも故障していなかたことを」
「本当に親父のところに駆け込んだのかよ……
「そして」
「しかも続きがあるのか」
「私が聞いた声は、幽霊の声だたことを。あの夜あのとき、あそこには誰もいなかた。どんな再生装置も設置されていなかた。ならばそれは、幽霊であろう、と創造主が」
「えー、幽霊! わたし、見たことない。どこどこ? それはどこなの!?」
「幽霊……入植後、ここで亡くなた人はまだいないのに、おかしいだろ」
 サタスたちが暮らすこのドームは、火星で最も建設時期が新しい。住人の平均年齢もよそより若く、皆健在である。
「そういう作り話です」
「え」
「カネルお嬢様が課題に飽きておられたようなので、気分転換に、与太話などしてみました。いかがでしたか?」
「作り話だたの? なんだ、残念。幽霊、見てみたかたのに。でも、おもしろかたよ。ありがとう、ロボ」
 そういうカネルを、ロボは嬉しそうに見ているのだが、サタスにはなんだか引かかるものだけが残された。
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