第7回 文藝マガジン文戯杯「COLORS」
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少女の赤い鎧
(こなた)
投稿時刻 : 2019.05.06 15:11
字数 : 1226
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少女の赤い鎧
こなた


雨が降っていた。
薄暗い灰色の空にサアァァァという音が単調に響く。
それに混じって少女の靴が水たまりに接触するピシャンピシャン、という音。
靴が、靴下が水を吸い少しずつ重く冷たくなる感覚がまるで帰宅をしぶっているようだ。
そして少し後ろから聞こえるバシャバシャという複数の雑な足さばき。
それに隠れるような大きすぎるひそひそ話。
オカネモチの南さん、あといつもRPGのパーティキャラクターみたいに後ろや横にぴったりしている女の子たち……名前はなんだっけ?後井さんと横田さん?まさか!
くすりと少女は笑った。

こんなことで笑っていられるのも雨音で嫌なことが聞こえないからだ。今日が雨でよかった、少女はそう思った。
サアァァァ
ピシャンピシャン
バシャバシャ
繰り返される単調な音を聞き流し、左足右足と歩を進めていく単純な作業を繰り返しながら、少女は無意識に数時間前の授業風景を思い出していた。
出来の悪い映画を、それでも暇で死ぬよりはマシといった体で。

「この中で本当の赤でないランドセルはどれですか?」
それは、道徳の授業で多様性を学ぶという趣旨の授業だったようだ。
カラフルなランドセルが流行っている昨今、赤いランドセルの子はそう多くはない。それでも、クラスの女子で一番多い色だった。
「吉川さんのランドセルだと思います」
まっさきに少女のランドセルが指さされた。少女のランドセルはお下がりのものなので同級生のそれと比べて色も形も随分くたびれていた。
ひとしきり少女のランドセルが赤く見えない理由がクラスから挙げられた後、最後の5分間で先生が本当の赤とは人それぞれ違うこと、みんなちがってみんないいとそれらしいことを言って授業は終わった。

サアァァァ
「あたしの……は、本革で」
ピシャンピシャン
「本物って……」
バシャバシャ
「さすが……さん」

回想から現実に戻ってきた途端、囁き声が断片的に少女の耳の中に飛び込んできた。
聞いてはいけない、そう思ったが、聞きづらいために余計に意識がそちらにいってしまう。
ヤメテ、ヤメテ!
耳を塞ぎたくとも傘が邪魔でそれは叶わなかった。

サアァァァ
「……さんの汚い……」
吉川さんの汚いランドセル
ピシャンピシャン
「買い……」
買いかえればいいのにね
バシャバシャ
「ムリでしょ」

一瞬、世界が静寂に包まれたように少女は感じた。
何故なら聞きたくない言葉がはっきりと少女の耳に、脳に浸透したからだ。

「だって、吉川さんはパパがいないんだもの」

その言葉を聞いた少女は、後ろを勢いよく振り返り後ろの三人組の真ん中の女子を見据えた。少女と一緒に回った傘から滴がポロポロ零れる。

「このランドセル、気に入ってるの」

言いたいことを言い終えると少女はすぐに前を向き直って歩き出した、唖然としているクラスメイトを置き去りにして。

ボロボロの赤いランドセルが勲章のように感じられた。
足が前へ前へと急く、はやくお母さんに会いたい、会って抱きしめて「だいすき!」と言いたい。
少女は軽やかに駆けた。

雨が上がった。
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