てきすとぽい
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第58回 てきすとぽい杯〈夏の特別編・前編〉
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〔 作品12 〕
四葉のクローバー
(
すずはら なずな
)
投稿時刻 : 2020.08.22 00:17
最終更新 : 2020.08.22 07:12
字数 : 1903
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2020/08/22 07:12:43
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2020/08/22 07:10:09
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2020/08/22 00:24:13
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2020/08/22 00:19:28
-
2020/08/22 00:17:37
四葉のクローバー
すずはら なずな
「い
っ
ぺん 泣いて」
教室の隅にわざわざ呼ぶから何かと思
っ
たら 手を合わせて智樹は言
っ
た。
小学校6年間、組がえでほとんどの子が一度は同じクラスになる。
紗季と智樹は 結構縁があるのか何回も同じクラスにな
っ
ている。
「泣き顔見たたことない女子
っ
て、お前だけなんだよな
ぁ
」
*
女の子に限らず 6年の間にみんなよく泣いた。
転んで泣く、出来なくて泣く 失敗して泣く。イジワル言われて泣く、けんかして泣く、しかられて泣く。
感動して泣く
っ
てのもあ
っ
たかな。
この間の球技大会では 決勝戦で競り合
っ
た末負けた。悔しが
っ
て クラスのほとんどが泣いた。
紗季だ
っ
て負けが決ま
っ
た瞬間、胸がキ
ュ
ッ
っ
てな
っ
て目頭が熱くな
っ
た。一番最初に泣きそうにな
っ
たのは自分だ、と紗季は思う。でも気がついたら みんなわあわあ泣いていて、もらい泣き
っ
ぽい子もいて、なんだか涙がこぼれる前に退いた。
泣きたい気持ちは 紗季だ
っ
てある。でも涙はち
ょ
っ
と我慢する。それだけのことだ。
*
ふう
ぅ
……
紗季は朝からため息ばかりだ。今日は体重測定がある。
「成長期の子どもがダイエ
ッ
トなんか 絶対しち
ゃ
だめだからね
っ
」
お母さんはわざと、ご飯を山のように盛
っ
た。
「身長の伸びる時期と体重の増える時期が 順に来るのよ」
保健の先生みたいなことまで言う。
今日は重い体に加えて、足におもりが付いてるみたいだ。
雨上がりの校庭。水たまりがところどころに光
っ
ている。ぬかるみを避けてのろのろ歩く。
靴に履き替えて 何となくポケ
ッ
トに手を入れると、小さな紙片が触れた。チカち
ゃ
んがくれた「お守り」だ。四葉のクロー
バー
を押し葉にして 仲良しのチカち
ゃ
んが作
っ
てくれた「しおり」。普通のよく見るクロー
バー
よりち
ょ
っ
と小さめの葉
っ
ぱ。
──細く
っ
て小さく
っ
て可愛いチカち
ゃ
んがくれた 小さく
っ
て可愛い四葉のクロー
バー
のしおり。
お守り眺めながら、紗季はや
っ
ぱりため息が出る。
*
「なー
んだ、コレ」
紗季の手からしおりがするりと逃げ出した。後ろから走
っ
てきた智樹のしわざだ。
「返してよ」
「いやー
だねー
。取れるもんなら取
っ
てみな」
わざとしおりをひらひらさせて、ア
ッ
カンベー
した顔で振り向いたりして 智樹は逃げていく。
*
男子のほとんどが まだ紗季より小さい。ち
ょ
っ
とふざけてするくらいの喧嘩ならまだまだ紗季たち女子が強い。
智樹は紗季をからかいながら みんなが上靴に履き替えている中をチ
ョ
ロチ
ョ
ロ縫
っ
て逃げる。
くやしい。すばし
っ
こくて追いつけない。
玄関から泥んこの校庭に飛び出そうとした智樹を 紗季は全速力で追いかけた。
「返してよ」
上靴で外に出たくない。玄関ギリギリで智樹の腕を思い
っ
きり引
っ
張
っ
た。
振り払おうとして智樹は腕を振り回す。智樹が急にバランスを崩しよろけ、しおりがひらひら泥んこの玄関先に舞い降りた。
ペタンとし
ゃ
がみこんで、紗季が落ちたしおりを呆然と見ていると
「重てー
。お前 また体重増えただろ」
智樹が 言
っ
た。紗季の肘がほんの少しだけ、床に突
っ
伏した智樹の背中に乗
っ
ていた。
何か言い返そうとした。泥んこにな
っ
たしおりのことで思い切り文句言
っ
てやりたか
っ
た。
なのに胸くう
っ
とが苦しくな
っ
て何も言葉が出ない。立ち上がり智樹に背をむけたまま 黙
っ
てしおりを拾
っ
た。
泥んこにな
っ
たしおりが 急にゆらゆらくも
っ
て見えた。ぽたん ぽたん
……
しおりを持つ手に涙が落ちた。
*
どんなに大声で泣いたのか もう恥ずかしいから思い出さない。智樹の顔を見るのも嫌だ。
あの日智樹が 誰に責められ誰にしかられたかなんてそんなの知らない。
「ち
ゃ
んと はじめ
っ
から説明して」
先生は言
っ
たけど 紗季は黙
っ
て泥んこのしおりだけ見せた。
**
智樹が近づいてきたから 紗季はわざとチカち
ゃ
んとおし
ゃ
べりに夢中のフリをした。
チカち
ゃ
んはあれから智樹のこと、むち
ゃ
くち
ゃ
怒
っ
ている。
「何よ
っ
」
キ
ッ
とにらんだチカち
ゃ
んの方を見ないふりして智樹は何かを差し出した。
「これ やる」
白い紙にセロテー
プでベタ
っ
と貼り付けたやたら大きな四葉のクロー
バー
。紗季の机の上にドン、と置くと智樹はすぐに走
っ
て離れて行
っ
た。
「何よこれ、お詫びのつもり?」
チカち
ゃ
んは見た目はふんわり可愛いけど気は強い。
「私たち二人の大事なお守りだ
っ
たんだからね
っ
。特別可愛いの探して押し葉にしてリボンつけて
……
こんなの全然違うんだから
っ
」
智樹が遠くから言い返す。
「うるさい ばー
か。川原でい
っ
ちばんで
っ
かい四葉だぞ。一番で
っ
かいのがい
っ
ちばんいいに決ま
っ
てら」
*
この一週間 智樹が川原にし
ゃ
がみ
っ
ぱなしで何か探していたことを 紗季だ
っ
てち
ゃ
あんと知
っ
ている。
もう許してやろうかな
……
「で
っ
かい四葉のクロー
バー
」を、眺めながら紗季はち
ょ
っ
とだけ思うんだ。
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