てきすとぽい
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第61回 てきすとぽい杯〈てきすとぽい始動9周年記念〉
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つらつらめんめん
(
犬子蓮木
)
投稿時刻 : 2021.02.13 23:31
字数 : 874
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つらつらめんめん
犬子蓮木
顔がなか
っ
た。
目がなく、口もない。鼻もなく、シワもない。つるりとした曲面だけが彼女の顔だ
っ
た(ちなみにアレがなか
っ
た世界線なので多くの人はマスクをしてない。彼女もわたしもマスクはしていないものとする)。
「こんにちは」彼女が言
っ
た。
口はないので開きもしなか
っ
た。ならばこの声はどこから聞こえてきたのかわからない。耳はある。だから耳がスピー
カー
のようにな
っ
たのかといえばそうではない気がする。耳はやはり耳だろう。
「こんにちは」わたしは挨拶を返す。
ここは暗い夜の山道などではなく、にぎやかな昼間の繁華街だ。なのでいきなり悲鳴をあげたり、駆け出して逃げるというのもどうかというものだろう。彼女は友好的な言葉で接してきたのだから。
「あの道を聞きたいのですが」彼女が言
っ
た。「原島駅へ行きたいのです」
ち
ょ
うどその駅から来たところだ
っ
た。だから一緒に行くわけにはいかないけれど道はわかる。
「この道をま
っ
すぐいけば左手側に見えてきますよ」
わたしは手で背後の道を指した。しかし見えているのだろうか? 口がなくとも声が出せるなら、目がなくても見えるか。
「ありがとうございます」彼女は丁寧に頭をさげてから伝えた通りの道へ進んでい
っ
た。
ああ、驚いた。さすが都会にはいろいろな人がいるものだ。まさかあんな人に会うとは。周りの人が驚いた様子を見せていないので、都会にはよくいるタイプなのかもしれない。
春からの入居先を探しに来たけれど、もし隣の人が同じように顔のない人だ
っ
たらどうしよう。引
っ
越し蕎麦を配
っ
ていいのかもわからない。いや、食べなければ死んでしまうだろうから、どうにかして食べるのだろう。いやいや、最近は食べ物を渡さないで、ギフトカー
ドなどがいいとの話も聞く。
これからの新生活に不安がい
っ
ぱいだ。
でもドキドキもする。
これからどんな人に会えるだろうか。
もし顔のない人がい
っ
ぱいいたらどうや
っ
て個人を判断すればいいだろう。
ふるまいとかでわかるかな。
髪型で? でも変えられたら困る。
そんなことを考えながら歩いていく。
鼻の上にひとつだけある、大きな目で、都会を眺めながら。
<了>
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